一夜明けて
翌日、肌寒い空気だが青空が澄み渡っていた。そんな中旅支度を終えていたヴィル達を含む冒険者パーティーは
「この度は大変お世話になりました。後は王国からの支援に頼る事にしますじゃ」
村長からゴブリン退治の給金をアッシュ達が受け取っていた。そんな少なくない報酬の入れられた布袋を横目に
「少年、本当に取り分を請求しないつもりか?」
「俺達は最後に仕上げただけッスからね。金なんか貰えませんよ」
自身の働きを卑下し報酬を辞退するヴィルをクレアは締め上げるのだった。
「アリーナ、こんな甲斐性なしについてったら駄目だぞ? 冒険者たるモノ金には貪欲でなければならん」
ーギリギリギリ……ー
「クレア姐さん……ギブ……ギブ……」
片手でフル装備の自分の胸ぐらを掴んで平然と持ち上げているクレアの前ではヴィルなどただの少年でしか無かった。
「あ、クレアさん……。もうその辺りで……ヴィルさん死んでしまいます」
アリーナの仲裁によってヴィルは九死に一生を得た。だが、それを見ていたアッシュ達パーティーの女性陣三人からは
「女の人に手も足も出ないなんて、あのパーティー大丈夫なのかしら?」
クレアと同じ格闘戦を主体とする武道家のミドリが、しばらく旅を共にする事になるヴィル達に対する不信の意見を口にする。
「そう言うなって。あの剣士の人も凄いって……多分」
フォローを入れるアッシュだが歯切れがどこか悪い。実際、彼はヴィルの活躍を見ていない為か、そこまでフォローに懸命では無かったりする。
「まぁ、王都までの旅で分かるでしょ。ちゃんとした人かどうかなんて」
「そうでしょうか。神官の女の子に手を出すなんて不潔です。あんなのは女神様もダメって言いますよ」
とりあえずの様子見を口にする魔術師のイザベルとヴィルに対する警戒心がМAXな神官ユミルのヴィルを見る目は厳しい。
「それじゃ、私達はこれで! 短い間でしたがお世話になりました!」
イケメン戦士であるアッシュの挨拶と共に彼らとヴィル達パーティーは一塊となって王都への旅路に戻ったのだった。
早朝に村を立ったヴィル達はアッシュを先頭に女性陣が続き、その後をクレアからヴィル達パーティーの面子が続いていた。
「一番後ろってのも落ち着かないモンだな」
一人殿を務めているヴィルは慣れない最後尾に落ち着かない様子を見せていた。
基本的に前に進む関係で、敵との遭遇率は前衛側が跳ね上がる。自然、魔術師や神官と言った非戦闘職が後列になっていくのたが……
(後列用の戦士……雇ってみるのも有りか……?)
先日、ゴブリンの洞窟でアリーナが敵に襲われた件も踏まえ、ヴィルは最後尾という暇な環境も手伝って一人パーティー運営について考え事をしていた。
前から敵が迫ってきて、それに合わせて後ろから忍び寄る相手なんかは稀なだけに、普段からそんなパーティー運用はしていない。
人数と報酬の兼ね合いがあるからか、後衛に前衛職を常に配置するのはどこのパーティーもやってはいない。
大抵は中列のエルフィルの様なスカウトが全体を見ていてくれるからだ。
(あいつら……どこで何してんだろうな。トマスのヤツと一緒だろうから……)
ヴィルは改めて別れてしまった勇者パーティーメンバー達を思い返していた。
トマスのスキル支配下に置かれたエルフィル達にはトマスも無茶はしないだろう。仮に彼女等に何か起きればトマス自身の安全が脅かされるからだ。
トマスのスキルは全種族絶対隷属。あらゆる生命を従える能力ではあるのだろうが、従えるにはトマス自身も思考しなければならないフシがあった。
だから、奇襲や寝込み、長距離からの狙撃には弱いはず……だからこそ、自身の安全を確保させる為の勇者パーティーの面子は手駒としてこれ以上無く優秀ではある。
そんな彼等の命を絶ったりはしないはず……ヴィルは最後尾で一人そんな事を考えていた。
「ヴィルさん? どこかお加減でも……?」
前を歩くアリーナが振り返りヴィルに尋ねてきた。どうやら、かなり長時間上の空であったらしい。
「あ、いや……エルフィル達何してんだろうって思ってな。まぁ、あいつらなら滅多な事も無いだろうが……」
ヴィルの答えにアリーナの表情が陰る。
彼女の性格からエルフィル達の安否が気にならないはずは無いが……
「あの、ヴィルさん……?」
アリーナが言葉を選びながらヴィルに尋ねてくる。
「トマスさんの……その不思議な力について……王国の図書館で調べてみてはどうでしょうか?」
彼女が尋ねてきたのは王国に着いてからの行動指針についてだった。
「そうだな。もしかしたら何か対処法とか分かるかもしれないしな」
そう答えるヴィルだが、正直明るい材料が見つかるとは考えていなかった。
女神からスキルが発現したら終わりと聞かされていた以上、異世界にスキル対策の方法があるとはとても思えなかった。
そんなヴィルの胸中を感じ取ったのかアリーナの表情が更に陰っていく。
「あ、あの……私は専門じゃないですから……無理にとは言えません。他に優先する事がありましたらそちらで……」
アリーナはそう言うと申し訳無さそうに押し黙ってしまった。
「いや、特に考えなんて無かったからさ。行き先考えてくれてありがとな。これからも遠慮なく言ってくれ」
ヴィルが若干慌てた様子でフォローを入れる。考えてみたら彼女がパーティーの行動に意見してきたのは初めてかもしれない。
「す、すみません。……お気遣いありがとうございます」
そう話すアリーナの表情は完全に晴れてはいなかった。ヴィルは自分の態度が間違っていたのかと悩む事になるのだが、アリーナの様子がいつもと違うのはヴィルがエルフィルの事を口にしたからだった。
それはアリーナも自覚していないエルフィルに対する嫉妬心の現れでもあったのだった。




