村での歓待
「おい、見ろ! 帰ってきたぞ!」
「娘だ! 無事で良かった!」
村人の馬車と共に村に辿り着いたヴィル達を待っていたのは街の広場に集まっていた村人達の歓迎の声だった。
「俺達はこのまま入って……良いもんなのか?」
村人達に迎え入れられているアッシュ達を後ろから眺めているヴィルが誰と無しに呟く。
「何を気後れている、少年。私達も立派に役に立ったんだ」
ーポンー
クレアがヴィルの背中を押して躊躇する彼を後押しする。
「ほら、アッシュさん達もこっち見てますよ?」
アリーナが錫杖を両手で抱えながらヴィルに話し掛けてきた。
「ワンッ!」
「キィッ!」
「クェ〜」
クロ達三匹も、早く村に入ろうと催促している様だった。
「ま、主賓はあいつらだからな。俺達は大人しくしとこう」
ヴィルがこうした目立ちたくないムーヴをしているのは、今回のゴブリン退治の主役ではない自分達が皆から注目を浴びてアッシュ達の不興を買う訳にはいかないという防衛本能からくるものだった。
正直、アッシュはともかくパルミラを除いた女性達からのヴィルに対する視線は非常に厳しいものがあった
その夜、村の教会に併設されている公民館ではアッシュ達冒険者パーティーを称える感謝の宴が催されていた。
「いや〜、ありがとうございました! これは未来の勇者様の誕生ですなぁ!」
「ハッハッハッ! そりゃいい! 見るからに誠実そうなあんちゃんだ! 勇者様は品行方正じゃなくちゃなぁ!」
「あ〜、そういや今の勇者は名前なんつったかなぁ? なんか女癖悪いっつ噂だなぁ!」
村人達がアッシュ達を持ち上げながらも、ヴィル達勇者パーティーをディスってきている。
流石に異世界、地方の村まではヴィル達の容姿や詳細は情報が伝わっていないらしい。本人達を目の前に村人達は言いたい放題である。
(今更、言い出せないよな……)
酒が注がれた木製のジョッキを傾けながらヴィルは若干の居心地悪さを感じていた。
ーガバッ!ー
「おい少年! 言われっぱなしで良いのか? ほっとくと噂話に余計な尾びれ背びれが増えてくぞ?」
静かにしていたヴィルの肩をクレアが勢い良く抱いてきた。酔っぱらいの修道女など破戒僧と見粉われてもおかしくは無い。
「いや、俺達はゴブリン退治を手伝っただけのチョイ役ッスよ? 俺達は隅で大人しくしときましょうよ」
ーユッサユッサー
ヴィルの対応に不満なクレアが彼の肩を摑んで揺らしながら
「なんだぁ〜お前はぁ! お前は良くてもアリーナまで肩身を狭させてどうする!」
と、クレームを入れてきた。
「あの……クレアさん。私は大丈夫ですから……」
そんな二人のやり取りをアリーナが仲裁しようとする。そんな三人の様子を遠巻きに見ていた村人の一人が
「あいつらも冒険者なんか?」
「あ〜ん? ……修道女居るしペット連れてるし巡礼者かさしずめ旅芸人じゃねぇの?」
「勇者様に助けて貰った一般人だろ? よく居るじゃね〜か、そーいうの」
村人達は人数的に少なく、魔術師も目立つ冒険者も居ないヴィル達を勇者パーティーとは認識していなかった。
図らずもヴィル達は一般人として認識されていて、村人達から変に注目を集める事は無かった。だがある時一人の村人が
「オラぁ、この前王都から帰ってきただが、なんでも勇者が魔王を倒したともっぱらの噂だったべや!」
「ほんとかよ! んだら魔物も減ってけば良いんだけどなぁ!」
魔王が勇者によって倒された事実が噂話として王都で広まっている事を語り始めていた。
魔王と勇者の戦いを知るには当事者から話を聞く以外に方法は無い。ならば……
(エルフィル達が王都に帰ってきてるって事だよな……)
別れてしまったパーティーメンバー達が気になるヴィルが村人達の話に聞き耳を立てていると
「なんでも、勇者は魔王と相討ちになったとかで、新しいのが勇者を襲名したって言ってたな。名前は確か……」
(俺が死んで新しい勇者だと……?)
王都では自分は死んだ事にされている事実にヴィルには若干動揺が走る。もしかしたら、ヴィルの冒険者登録が抹消されていたのもそれが原因かと、彼が考えを巡らせていると
「新しい勇者の名前かぁ。確か……ユーマ・キリサキとか言ってたかなぁ。背のちっこい成人したての子供だったぞ」
村人が語る新しい勇者は、魔王戦で覚醒を果たしたトマスで間違いは無かった。
彼が名乗るユーマ・キリサキはトマスの現世でのかつての名前かもしれないが……
(ギャルゲーの主人公みたいな名前しやがって……)
ジョッキの酒を流し込みながらヴィルは好き放題に振る舞っているユーマに憤りを覚えていた。
「ヴィルさん……? 新しい勇者のユーマさんって……トマスさんの事ですよね? どうしてトマスさんがそんな事を……?」
隣で同じ様に村人達の話を聞いていたのだろう。アリーナが、新勇者ユーマの行動の意味が理解出来ないと言った顔でヴィルに尋ねてきた。
彼女には当然、現世での知識など無いのだから、ユーマがこの異世界に抱いている侮蔑感等は想像も付かないだろう。
「トマスは……多分、力に溺れちまったんだ。思春期によくあるヤツだ。根拠の無い万能感、それが肥大しちまってるんだろう」
ヴィルは現世や転生者としての視点を省いて、トマスの現状を推論交じりに答えるのだった。




