王国からの使者
「王国からやってきたという使者はそなたらか! 色よい返事を持ってこられたのだろうな?」
帝国皇帝の謁見の間に通されたユーマを待っていたのは歓待などでは無く、異世界権力者からの洗礼だった。
身体がたるみきった中年男性が豪奢な衣服に身を包んでいる光景はユーマに確かな不快感を与えていた。
(こっちは魔王を倒した勇者様だぞ! この豚、何考えてやがる)
中年にも関わらずうら若きフィオレット王女との婚姻を求めてきた帝国皇帝の醜態にユーマは吐き気すら覚えていた。
「ときに勇者ユーマとやら、同行していたという聖女はどうしたのだ?」
自らを見下す様に尋ねてきた皇帝に対しユーマは
「……聖女は魔王との戦いの中、行方知れずとなりました」
なぜ自分にそんな事を聞くのか、彼女を取り逃がした事実は彼に確かな敗北感と執着心を植え付けていた。
そんなユーマに対するアリーナに関する質問は一種の地雷と言えた。
(くそ、コイツ俺のスキルで黙らせるか……?)
今のユーマが隷属させられる対象は残り二枠しか残されていない。
これからユーマがどんな冒険をして生きていくにしろ、枠は無駄遣いする訳にいかない。
今なってルナフィオラやオーガ達に無駄遣いしてしまった過去が悔やまれる。
「ええい、私は忙しいのだ。もう話は終わりだ。下がれ下がれ」
フィオレット王女の政略結婚の話が色悪かった事で彼のユーマ達に対する心証は下限に振り切れてしまっていた様だ。
「なら俺達はこれで失礼させてもらう」
ユーマはそう言って仲間達と謁見の間を後にしようとする。
「勇者ユーマとやら。お前達には王国への書状を運んで貰う。そうだな……三日ほど城に客人として滞在して頂こう」
皇帝は何かを思い付いたらしい。皇帝は勇者パーティーを舐め回す様な視線で眺めながらユーマ達に王国への書状を渡す使いを依頼してきた。
ユーマの目的はフィオレット王女の障害となる皇帝に結婚を諦めさせる事であり、あわよくば王女を自分のハーレム入りさせる事であった。
(結婚断られたくせにまだ執着すんのかよ。気持ち悪ぃ〜)
ユーマは心の中で皇帝に悪態をつく。拒絶されたのに女の子に執着しているのは彼も同じなのだが……
こうして、ユーマ達新生勇者パーティー一行は帝都の城にて客人待遇としての滞在を強いられる事となったのである。
帝都での滞在はあっという間に三日目を迎えていた。完全な塩対応だった皇帝との謁見以外は、ユーマ達を魔王を倒した勇者パーティーとして褒め称え祭り上げる接待な日々を過ごせていた。
特に中日となった先日などは、帝国の名だたる貴族も参加する接待パーティーが催され、魔王を倒した勇者としてユーマはすっかり良い気分にさせられていた。
「ユーマ様、王国への書状は明日に御用意出来るとの事です。申し訳ありませんが、明日までお待ち下さいますようお願い致します」
ここ数日、ユーマ達の身の回りの世話をしているメイドの一人が昼食を運びがてら
肝心の王国への書状について話し掛けてきた。
「ああ、どうせ明日なんだろ? なら別に良いぜ」
連日の接待にすっかり気を良くしているユーマは疑いもせずにメイドの話を受け入れてしまっていた。
「他の皆様も……特に意見はございませんか……?」
ここ数日、ユーマ達の身の回りの世話をしているメイドからは新しい勇者パーティーはかなり異質に見えていた。それは意思決定の全てがユーマの独断であり、ある意味での古き伝統と格式の男尊女卑な貴族社会の様にも感じられた。
ベルンシュバイツ帝国も歴史が長いとは言え、こうまで独裁的なソーマの立場はメイドから見てもかなり異質に見えていた。
しかもソーマ達はあまり雑談的な事もしている様には見えなかった。ソーマの絶対隷属のスキル下に置かれている勇者パーティーメンバーはただのユーマの操り人形の域を出る事は無かった。
その日の夜もユーマ達には立食パーティーが振る舞われ、貴族の息女をキャバ嬢の様に充てがわれたユーマは相変わらずいい気分にさせられていた。
そんな彼がエルフィルの不在に気付いたのはパーティーが始まり大分時間が過ぎていた頃だった。
その頃、城の地下牢に連れ去られていたエルフィルは、四肢を枷に拘束された状態で皇帝の前に突き出されていたのだった。
ユーマの操り人形に過ぎない今のエルフィルに覇気は無く、ただされるがままに皇帝の前に座らされていた。
「ハイエルフよ。お前は聖女の居場所はしっているのではないか? 正直に話せば許してやっても良いぞ?」
こうは話すものの、皇帝の目的は権力にモノを言わせ見目麗しいエルフィルで遊ぶ事でしかなかった。
聖女も確かに関心事の一つではあったが、時間さえ掛ければまた補足出来るだろうという程度の重要度でしか無かった。
それに比べれば珍しいハイエルフをどうやって弄んでやろうかという方が余程大事であった。
「勇者パーティーのハイエルフと言えど、こうなってしまえばただの女子に過ぎんのう」
皇帝は辛抱たまらんといった様子でエルフィルをその手に掛けようと舌舐めずりをしながら手を伸ばしてきた。




