胃が痛い新パーティー
翌朝、改めて王国へ向かう旅を始める事をシスター・ステラに話すアリーナと、一人旅支度を進めるヴィルの姿があった。
そして、修道服に旅人のマントとレザーブーツ。見慣れない手甲をいそいそと身に着けているクレアが居た。
「少年、前衛は私も受け持ってやる。少しは楽をさせてやるぞ。はっはっは!」
普通なら年上の女性は包容力があり頼りがいがある対象となるハズだが、ヴィルにとってのクレアは胃が痛くなる頭痛の種でしか無かった。
「ヴィルさん、お待たせしました。私の準備は出来ました」
アリーナは昨日購入した錫杖を手に、黒のメイド服から冒険者用の白い法衣に衣装を着替えていた。
「どうだ? うちのシスター・ステラの特別性だ! アリーナが可愛く見える様に女神様が神託下さった特別性だぞ?」
アリーナの肩を抱き寄せながらクレアが自慢気に語り始めてた。そんなクレア達を見たヴィルは
(何してんだ。あの女神……)
若干呆れながら、半ば趣味に走り過ぎな女神レアにヴィルは内心ツッコミを入れる。
「準備は出来ましたか?」
旅支度を終えたヴィル達にシスター・ステラが話し掛けてきた。
「クレア、アリーナ達をお願いしますよ」
まるっきり保護者扱いなクレアにシスター・ステラは色々と言い含めている。彼女達からすれば部外者に近い立場のヴィルは軽い疎外感を感じていた。
「さぁ、行くか。とりあえずドワーフのオッサンの店からな」
準備を整えたヴィル達は教会を出て、件のドワーフの鍛冶屋へと向かうのだった。
「おはようございま〜す……」
朝早くに訪ねてみたものの、ドワーフがこんな朝早くに店を開けているか不安なヴィルが恐る恐る声を掛け入ってみると
「お〜若いの! 仕上がっとるぞぉ!
はよこっち来い!」
ドワーフ鍛冶職人の朝は早い。要らぬ心配だった様だ。ヴィル達が安心してゾロゾロと店内に入っていく。
「どうじゃ。せっかくだから一から仕上げてやったぞ。ワシの渾身の出来栄えじゃわい」
壁に立てかけられたヴィルの長剣は、前日までのボロボロの使用感が全く消え去っており、その刀身には確かな厚みと光沢が蘇っていた。
「代金は……まぁ、ツケといたるわい。この街を救った勇者様じゃからな。今度街に来たら纏めて払ってもらうかの」
財布を出して会計をしようとするかはヴィルの機先を制する様にして、ドワーフの店主は話を終わらせてしまった。
「いや、いくらなんでもタダは……」
これだけの事をやって貰ってタダとは、とヴィルは気後れしてしまったが
「少年! 大人の厚意は素直に受け取るモンだぞ!」
クレアに強引に納得させられる結果となるのだった。
こうしてただ長剣を受け取るだけ受け取ったヴィルは改めて、ルミナスフォールの街から南にある王都グランフェルムに向けて出発するのだった。
「こうして皆と旅をするというのは良いモンだ。いや〜昔が懐かしいなぁ」
先頭を修道服で歩くクレアは何故か常に上機嫌だった。
「な、なぁ? クレアさんってどんな人なんだ?」
後に続くヴィルがクレアについて隣のアリーナに尋ねてみると
「クレアさんは昔、冒険者として活躍されていたとか……」
昔を思い出しながら教えてくれた。別名ピンクの悪魔とも呼ばれ、ルミナスフォールでは名前が知れた冒険者であったらしい。
しかし、ある時どういう訳か冒険者稼業を辞めて聖職者としての道を歩み始めたとか……。
彼女が異色な経歴をお持ちな事を、言葉を選びつつ教えてくれたのだった。
「ギャアギャア!」
「ギャギャア!」
そうこうしていると街道の風物詩、野良ゴブリン達が数匹、ヴィルたちの行く手を遮る様に現れ出した。
ヴィル達のパーティーは見た目戦力不足に見えなくは無い。女性二人に男性一人は丁度いいカモと映ったのだろう。しかし……
「神は貴方をお救い下さいます!」
ーバギイッ!ー
「ウギャアッ!」
クレアは神への祈りを口にしながら、ゴブリンを片っ端からしばき始めていた。
「神と和解なさい!」
ードゴオッ!ー
「ギャアーッ!」
明らかに致命傷を与えているゴブリンに神との和解もクソも無いのだが……。結局ヴィルが剣を振るう機会など一度も無いままゴブリンとの遭遇戦は終わってしまったのだった。
「少年、私に遠慮せず存分に戦って良いんだぞ?」
ヴィル達に背中で語るクレアに対し、
「ワンッワンッ!」
「キャッキャッ!」
「クェックェッ!」
クロとモン吉、ペン太の三匹は媚を売るように彼女を讃えている。流石に魔物だけあってか、力関係を理解する能力には長けている様だ。
こうして三匹を手懐けたクレア先導の元、ヴィル達の王都グランフェルムへの旅路は順調に続いていくのだった。
一方、馬車で帝国への旅を続けていたユーマ達新生勇者パーティー一行も何事も無く帝都ベルンシュバイツに到着していた。
「ふぅ、やっと着いたか」
馬車から億劫そうに出てきたのは全身黒ずくめの衣装を着た黒髪の少年、桐崎悠馬ことユーマ・キリサキだった。
彼は王国からの使者として帝都までの長い道のりを越えてやってきていたのだが、何の経験も知識も持たない彼に他国との交渉が出来る道理は無かった。




