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近道

「すみませんでした。ゴブリンが襲ってこなかったのはドライアードさんのお陰だったんですね。御助力に感謝致します、ありがとうございます」

 ヴィルは頭を軽く下げドライアードの手助けに感謝の言葉を述べる事にした。

「うぇっ! え……?」

 そんな彼の態度に驚きの声を上げてエルフィルがヴィルを二度見する。

 彼女がこれまで旅を共にしてきた横柄で傍若無人なヴィルヴェルヴィントからはかけ離れた対応だったからだ。

(少しは話が通じるかな……?)

 一方のヴィルは、ここからドライアードを立てる事で関係改善を図ろうと考えていたのだが……

「ま、まぁ……分かってくれたなら良いわよ。今は乾燥期じゃないから延焼も起きなかったし……」

 ドライアードは顔を赤くしながら葉の様な長髪をクルクルと弄りながら、ヴィル達を許す態度を見せてきた。

 イケメン勇者が素直に非を認めて謝ってきたのが珍しかったのだろうか?

 もしかしたら、ファイアーボールを撃ち込んだ後に一言謝っておけば、歴史は変わっていたのかもしれない。

「ほら、返してあげる。次からは気を付けなさいよ?」

 ドライアードは木の蔦で吊るしていたアリーナをヴィルの目の前で解放してきた。

「きゃっ!」


ードサッ!ー


「おっと!」

 反射的に彼女を受け止めるヴィルはアリーナをお姫様抱っこする流れになってしまった。

「村に行くならこっちが近道よ。道も草木をより分けて分かりやすい獣道くらいにはしといたから」


ースウッ……ー


 ドライアードはそう言うと森に溶け込む様にして消えていった。

「なによ。アリーナ無事だった? 何かあったの?」

 ようやく現場に到着したミリジアが事の経緯を尋ねてきた。

そんなミリジア達三人には

「え〜とね、さっき……」

 エルフィルがかいつまんでドライアードとの出来事を説明するのだった。



「そういう訳だから村に急ぐぞ」

「あ、あの……ヴィルさん? 下ろして下さいませんか? 歩けますから……」

 先に行こうとするヴィルにアリーナが恥ずかしそうに顔を赤くしながら話し掛けてきた。

 ちなみに彼女は現在もお姫様抱っこ継続中であり、そんな状況を皆に見られて恥ずかしいのだろう。

「でも、さっきまで逆さに吊られてただろ?頭とか足とか大丈夫か?」

 ヴィルが林の中の獣道を村に向かいながらアリーナに問い掛けると

「あらあら、アリーナちゃん。良いなぁ〜。でも、お姫様抱っこなんてされてるからスカートの中見えちゃうかもよ〜?」

 ヴィルのすぐ後ろを付いてきたエルフィルが誂う様に話し掛けてきた。

 ちなみに、アリーナの格好はアウターこそコートの様な白く長い法衣だが、インナーは白いシャツと短めの白スカートと白いロングブーツである。

 エルフィルの言う通り位置によってはスカートの中が見られてしまう危険があるが……

「どのみち村に着くまでた。そんな事よりアリーナの体調の方が大事だろ? 村には魔物がいるんだからな」

 エルフィルの誂いにさらに顔を赤くしてしまったアリーナは

「や、やっぱり歩きます! 私は平気です、大丈夫です!」

 慌てて降りようとするがヴィルはがっしりとホールドを崩さない。

「逆さに吊られて血が頭に上るのは危険だからな。悪いけど村まで我慢してくれ」

 ヴィルは村での戦闘を見越してアリーナを気遣っている。

 確かに、戦闘中にパーティーの回復役が体調不良となったら目も当てられない。

「あのさ、もし拐われたのが私だったら……ヴィル、アンタ同じ事してる?」

 今度はミリジアからの質問が来た。

「そりゃな。お前居ないと仕事増えるし。なんでだ?」

 獣道を歩きながらミリジアの疑問にヴィルが答える。エルフィルにミリジアと、二人の何時もと違う雰囲気にヴィルも尋ね返すが……

「じょーだんやめてよ! 誰がアンタなんかに!」

「そうよね〜、やっぱお姫様抱っこされるなら将来有望なイケメンが良いわよね〜?」

 ヴィルを全否定のミリジアと彼に興味が無さそうなエルフィルの返事にヴィルは

(じゃあ、何で聞いた?)

 と、一人腑に落ちない様子で先頭を歩いていた。



 傍目には女性陣に囲まれたハーレムなヴィル達からやや遅れた後方、道の悪い森の中に悪戦苦闘しているトマスと彼を気に掛けているミノさんの姿があった。

「森の中なんて歩いてられないよ! 道は悪いし木の根はそこら中にあるしさぁ!」

 愚痴るトマスに対し寡黙なミノさんはあまり答えない。だが……

「村まで 運んでやる。お前 努力しろ」

 そう言ってトマスが背負っていた道具入れをヒョイと奪い取ってしまった。

 重さの無くなったトマスがキョトンとしているとミノさんは無言でそのままヴィル達を追いかけ始めた。

 一人森の中にポツンと残されたトマスは

「待ってくれよ! 僕も行くから追いつかないでくれよ!」

「ワン! ワン!」

「キャッキャッ!」

「クェックェェェ〜!」

 三匹の動物達……クロは犬らしく、モン吉はピョンピョンと跳ねながら、ペン太は短い足で……懸命に森を駆ける彼等を連れトマスもまたヴィル達の後を追い掛けるのだった。

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