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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第一部 魔王討伐編

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精霊使い

ーシュン!ー


 何処からともなく凄まじい速さで風を切る音が聞こえてきた。そして


ードドドッ!ー


「オオオォォォ!」

 大木の魔物達の悲鳴が上がる。アリーナが周りを見ると魔物達に矢が突き刺さり先端から炎が上がっている。そして


ードドドッ!ー


「オオオォォォ!」

 続けざまに三発の矢が魔物達に突き刺さり、先の三匹と同じ様に火が立ち上り始めた。

「こ、これは……!」

 あっという間にひっくり返された状況にアリーナが驚いていると

「ごめん、お待たせ! 怪我は無い?」

 炎を纏ったトカゲを傍らに浮かべたエルフィルがアリーナの元に駆け付けてきた。

「エルフィルさん……!」

 驚くアリーナの状況を見て取ったエルフィルは腰から短剣を抜き放つと

「火の精霊サラマンダーよ、我が刃に宿りて敵を焼き滅ぼし給え」

 刀身に炎を纏わせ、アリーナの足を捕らえたままの木の根を切り裂き始めた。すると

「オオオォォォ!」

 少し離れた位置から大木の魔物の悲鳴が聞こえてきた。

「アリーナ、貴女は先に行って!」

 木の根から解放したエルフィルはアリーナに先に逃げるように促すが

「え? で、でも……」

 多勢に無勢の今の状況はアリーナに先に逃げる事への躊躇いを生じさせた。

「いいから早く! 護衛はサラマンダーがするから! 全力で駆けなさい!」

「は、はい……!」

 有無を言わせないエルフィルの迫力にアリーナは堰を切った様に森の中を出口に向かって駆け出した。

「はっ!」


ーピュンピュンピュン!ー


 アリーナがサラマンダーと共に森の中へ消えゆくのを見届けたエルフィルは、矢筒から矢を取り出すと三本の矢を一気に放った。


ードスドスドス!ー


「オオオォォォ!」

 三本の矢を同時に受けた大木の魔物は大きく蹌踉めく。そんな魔物の隙を見てエルフィルも森の中へ駆け出すのだった。



 その頃、魔の森を抜けたヴィル達は森の出口でアリーナとエルフィルを待っていた。

 待っているとは言ってもただボケッとしている訳では無く、魔物の奇襲を警戒しながらである。

 その中でもパーティーリーダーのヴィルはアリーナとエルフィルの姿が中々見えてこない事に焦りを感じ始めていた。

「なぁ、ヴィル。皆でアリーナを追い掛けた方が良かったんじゃないか?」

 落ち着きなくウロウロしているヴィルに話し掛けたのはトマスだ。だが、ヴィルはそんなトマスを一瞥するだけで何も返さない。

(コイツ……!)

 転生者であるヴィルは社会人経験があるせいか、比較的精神は落ち着いてる方ではあるのだが今現在は明確に苛立ちを隠さなかった。

「……トマス。少し黙ってろ」

 絞るように発せられたヴィルの声は恐ろしく低いモノだった。

「なんだよ。ヴィルはアリーナが心配じゃないのかよ! そんな中途半端な気持ちで……」


ーバシッ!ー


「うわっ!」

 ヴィルはトマスが言い終わる前に彼に平手打ちをした。

「……俺には皆の安全に努める義務がある」

 トマスに好き放題言わせてられる程にヴィルは冷徹では無かった。それが例えトマスの不興を買い自身の破滅に繋がるとしても……

「ヴィル、よくも殴ったな! 帰ったら冒基に訴えて……」

「好きにしろ。だが、アリーナが森の中へ行ったのはお前の落ち度だ。また同じ事したらクビだ。覚えとけ」

 ヴィルが自らの破滅に繋がりかねないトマスへの追放宣言を口にしたその時

「ヴィルさん! 助けて下さい! エルフィルさんが……!」

 森の中からアリーナが助けを呼びながら出てきた。その切羽詰まった叫びを聞いたヴィルは

「ミリジア! ミノさん! アリーナを頼む! 俺はエルフィルを見に行く!」

 倒れそうになりながらもようやく辿り着いた様子のアリーナをミリジアとミノさんに任せ、自身は森の中へと潜り始めた。

 先導はアリーナの護衛をしてきたサラマンダーがしてくれる様で、エルフィルの元に向かうヴィルに不安は何も無かった。



「はっ!」


ーピュンピュンピュン!ー


「オオオォォォ……」

 殿を努めるエルフィルだったが、数の暴力の前に次第に劣勢に追い込まれていた。

 また、サラマンダーをアリーナの護衛に付けた影響で精霊魔法無しという手札不足も相まって弓矢での攻撃は大木の魔物達への決定打にはなり得なかった。

(これだけ足止めすれば……もう良いか)

 バックステップしながら魔物達を足止めしていたエルフィルが、敵に後ろを見せて完全撤退に以降を決める。


ーダッ!ー


 エルフィルは力強く森を駆け出した。大木の包囲網を抜け出すには地面を駆けるよりは木の上を飛び回る方が遥かに安全だ。

 しかし、風の精霊を呼び出せない今のエルフィルには見通しの利かない地面を走るしか無かった。

「はあっ!」


ーピュン!ー


「オオオォォォ……」

 効果が薄いと分かってはいるものの、行く手を遮る大木の魔物を撃ち抜きながらエルフィルは先を急ぐ。

(え〜と、残りの矢は……?)

 森の中を駆けながら、腰から下げている矢筒にエルフィルが気を回したその時だった。


ーガッ!ー


「あぅ!」

 突然、地面の何かに躓いたエルフィルはバランスを崩してしまった。

「くっ……!」


ーダン! ザザザッ!ー


 転びそうになりながらヨロヨロと何とか体勢を立て直したエルフィルが背後の地面を見ると

(あんなの……さっきは無かったハズなのに!)

 地面からアーチ状に木の根が張り出しているのが見えた。

「オオオォォォ……」

 恐らく認知外の大木の魔物が待ち伏せて罠を仕掛けていたのだろう。周りの森から大木の魔物の声が聞こえてくる。

(い、急がないと……!)

 自身が追い込まれている事を悟ったエルフィルが再び駆け出そうとすると


ーズキッ!ー


「うっ!」

 足首に鈍い痛みが走る。さっき躓いた時に捻ってしまったらしい。

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