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釣り野伏せ

「あいつ等 叩く 良いか?」

 戦斧を構えたミノさんが向かってくるサイクロプス達の姿にウズウズしている。

「よし、前に出るぞ! あいつらを蹴散らしてやれ!」

 ヴィルは向かってくる敵の数が減った事を見越して前線を上げる為にミノさんと前進をし始めた。

「ちょっとぉ〜! こっち暇なんだけどぉ〜!」

 中堅ポジションのエルフィルからクレームが来たが、勇者パーティーと言えど枚数に余裕がある訳では無い。

 相手に裏をかかれてしまえば、パーティーは一気にピンチへと陥りかねない。

「お前達も距離を詰めすぎない様についてこい! 敵の新手には気をつけろ!」


ーズバアアアッ!ー


「グオアアアーッ!」

 ヴィルは向かってくるトロールを両断しつつ前進する。トロールはある程度回復力が高いかと思っていたが……。

 流石に両断まで行くと回復も追い付かない様だ。また

「うおおおーっ!」


ーゴシャッ!ー


「グ、グオ……」

 ミノさんもサイクロプスの棍棒など平気で受け止め、戦斧で敵を次々と屠っていく。

 先陣を行く二人が次々と敵を片付けていく為、相変わらず後列のメンバー達は二人についていくだけで相変わらず暇だった。

「も〜っ! 私にも何かやらせなさいよ〜!」

 そんなエルフィルに続いて

「あんたら! 私に魔法使わせない気ぃ?」

 ミリジアも不満を漏らしている。戦局はいつしか反転しており、逃げるトロール達をヴィル達が追う形へと変化してしまっていた。

 敵を追い、駆け続けたヴィル達の前に村へと続く街道の左右に森が広がる光景が姿を現した。

「はぁ……はぁ……」

 流石に息が切れたのかヴィルが森の入り口手前で立ち止まると

「なによ、追撃しないなら私が貰っちゃうからね?」

 弓を構えたエルフィルがそのまま逃げるトロール達の後を追う為、ヴィルの横を通り過ぎようとしたその時、

「止まれ! 一旦ストップだ!」

 ヴィルが大きな声で彼女を制止する。

「な、なによ。いきなり大きな声出して……」

「逃げていったトロール達、あいつら森の中に目配せしながら逃げていった様に見えたんだが……俺の勘違いか?」

 ヴィルは周りに集まったパーティーメンバー達にそんな事を問い掛けた。

「待ち伏せされてるって事? でも敵の物音なんて何も聞こえないし……」

 エルフィルが自身の鋭敏な感覚を頼りに意見するが……

「俺だって確証は無いさ。ただ……、可能性があるなら警戒はすべきだろ?」

 いつもの猪突猛進ぶりからは考えられないヴィルの慎重意見に

「あんた、ホント頭打った? 教会連れてこっか?」

 ミリジア等は半ば本気でヴィルを気遣い始めている。

「でも、ヴィルさんの意見には私も賛成です。助けに来た私達がやられてしまっては村へも助けに行けませんから……」

 アリーナはヴィルの考えに賛同の意思を示してきた。誰も怪我を負わずに無事でいられる事が彼女の希望なのだろう。

「それで……魔物に待ち伏せ?……されてるとして、どうすんの?」

 エルフィルは自分の感覚も踏まえて待ち伏せには半信半疑らしいのが、素直に対策を尋ねてきた。

「そうだな。……トマス! お前の動物達は森の中に魔物探しに行けるか?」

 トマスの従えている三匹の…魔物はいずれも小さい。これはトマスの株も上がるかとヴィルは期待したが……

「そんな事……こいつらにはさせられないよ! 僕達の代わりに犠牲になれって事じゃないか!」

 レベル2は伊達ではなかった。株が上がるどころかこれではストップ安まっしぐらである。

「はぁ〜、つっかえ……で、どうすんの?」

 自分の魔物達を偵察に行かせる事を拒否したトマスに心底呆れた様子のミリジアが愚痴ると共に話をヴィルに振ってきた。

「そうだな……」

 現代からの転生者であるヴィルにはそれなりの知識があり、待ち伏せをする相手への対策もそれなりに手早く思い付く事が出来た。

「少し手荒いがファイアーボールを使おう。ミリジア、あそことあそこに撃てるか?」

 ヴィルが思い付いた方法は敵兵の炙り出しだった。並の相手であればが有効な作戦と言えるだろう。

 現代に例えて言うなら、自らが潜む密林に三式焼霰弾を落とされる様な感じだろう。

 自分が火だるまにされるかもしれない状況で待ち伏せに徹せられる者はかなりのプロと言えるだろう。

「待って待って! 森の中でファイアーボールとかマジ止めて、私が森の精霊に怒られちゃうじゃない!」

 現状では最善かと思われた炙り出しだが、ここで森の民であるエルフィルから待ったが掛けられた。

 しかし、こうしている間にも時間は経過している。村人達の安否を考えれば逡巡している時間は無い。

「エルフィル? その森の精霊さんは説得出来ないのか? こう……エルフの伝手みたいなの使ってさ」

ヴィルの提案にエルフィルはクビを振る。

「私じゃ無理、森の精霊、ドライアードが私の声聞いてくれるか分からないもの〜」

 取り付く島もないエルフィルの態度だが、彼女の言葉に嘘は無さそうだ。

「とりあえず、俺の言う通り森の精霊さんに呼び掛けてみてくれ」

 切羽詰まっているヴィルとしては、ここは強引にいくしかなかった。

「森の精霊様、突然のご連絡、大変申し訳ございません」

 ヴィルはそれなりの社会人の経験を生かして森の精霊を説得する文言を口にし始めた。

「も、森の精霊様、突然のご連絡……」

 半ば渋々エルフィルもヴィルの言葉を復唱する様にして森の精霊に呼び掛け始めた。

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