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壮行会

 壮行会と言っても特に普段と何かが変わるわけでもない。食べて飲んで話しての無限ループである。

 しかし、腹が膨れれば誰しも穏やかにはなるもので、全員が比較的和気藹々といった和やかな雰囲気で会は進んでいた。そんな折

「トマスぅ? アンタ、なんで弱いのに前線ウロチョロすんの? 言っとくけど私の射線塞いだら承知しないからね」

 酔っ払い気味のエルフィルが赤い顔のトマスにちょっかいを出していた。

「そんなの……僕だって戦えるって証明したいからに決まってるじゃないか」

「だーかーら〜、なんで前に出るのかって聞いてんの! アンタはテーマーでしょてーまー」

 酔っ払いエルフは絡み酒が進んでいた。普段ならここでアリーナが仲裁に入るのだが今日は違った。

「そんなの……役に立てるって事を見せたいに決まってるじゃないか!」

 力強く想いを語る彼の視線の先にはアリーナが居た。そしてその視線に気付いたエルフィルが

「なに? アンタまさか聖女ちゃんに惚れちゃってんの?」

 冗談交じりにトマスを茶化すが、彼はいきなり立ち上がるとアリーナの席に向かい、右手を差し出し

「アリーナ、ずっとすきだったんだ。これから僕はきっと立派な冒険者になってみせるから、付き合って欲しい」

 いきなりのトマスの告白に一瞬だけギルド内の喧騒が止んだ……気がした。

「ちょっとアンタ、いきなり何を言い出してんのよ〜」


ーバシン!ー


 若干の気まずさを感じたのかエルフィルがトマスの後頭部をどつく。

「な、何するんだよ! 僕は本気だぞ! それにアリーナはいつも僕を気遣ってくれてたんだぞ!」

 いきなりシバかれたトマスはエルフィルに噛み付く。そんな二人の言い合いが口論に発展しかけた時

「ワンッ!」

「キィッ!」

「クェ~!」

 トマスの魔物三匹からいつものトイレの催促が発せられた。

「あ、い……今行きますから。ちょっと待ってて下さいね」

 トマスからの告白を受けて固まっていたアリーナが、自分の杖を手にいつも通りに彼等のトイレ処理に向かおうとする。

「アリーナ、返事はどうなんだ? 聞かせてくれよ」

 トマスはギルドの外に行こうとするアリーナを引き留めようとするが

「トマス、待て。三匹のトイレはお前の仕事なんだからお前が行って来い」

 シャベル片手にヴィルが二人の間に割って入る。

「……いえ、私が行ってきますから……大丈夫です」

 アリーナは三匹を連れてそそくさとギルドの外へと行ってしまった。

「トマス! アンタいきなり何を言い出してんのよ! 見なさいこの空気!」

 若干気まずい空気が流れるヴィル達のテーブル近辺はものの見事に静まり返っていた。

「でも、まぁ良いんじゃない? トマスとアリーナならお似合いかもよ?」

 ミリジアがお酒片手に無責任な事を言っている。そんな意見にトマスが満更でもない様子で照れ顔を披露すると

「トマス! アンタ、ちょっとそこ座りなさい! せーざよせーざ!」

 エルフィルがトマスに正座を要求する。何を話すつもりかは分からないがお説教に違いはないだろう。

「お、おい。エルフィル……トマスには……」

 トマスには三匹のトイレの始末をさせようとしていたヴィルがエルフィルに何かを言おうとすると

「おい、バカ勇者! アンタは聖女様を追っかける!」


ーバシッ!ー


「いでぇっ!」

 エルフィルはヴィルにギルドの出口を見るよう強引に後頭部を引っ叩いてきた。

「まだ分かんないの! 聖女様は告白されて気が動転してんの! このまま明日から魔王討伐なんて無理があるに決まってるでしょ!」

「そ、そうか。なら、様子を見てきた方が良さそうだな」

 確かにエルフィルの言う通り、動揺して気がかりがある状態での大仕事は失敗の可能性を引き上げてしまう。ヴィルは一人、アリーナが向かうはずの人気の無い場所へと駆け出すのだった。



 その頃、ギルドから飛び出す様に出てきたアリーナは人目に付かない場所を探している内に街の外れまで来てしまっていた。

(トマスさんに好かれていたなんて……でも、私は……)

 普段は冷静である彼女もいきなり異性から告白されては気持ちの整理が出来ずに居た。

(私、何とお答えすれば……)

 早歩きのまま心ここに在らずという感じで街の郊外から西にある森の入り口まで来てしまっていた。その時

「ワンッ!」

「キキィッ!」

「クェ〜!」

 三匹の魔物龍がアリーナを呼び止めるかの様に大きく吠えた。そんな彼等の声に

「あ、すみません。この辺りにしましょうか」

 我に返ったアリーナは三匹が用を足すのと、そこから続く浄化の魔法の一連の流れで彼等の用事を綺麗に片付けたのだった。

「皆さん、私……どうすれば良いんでしょう?」

 スッキリした様子で自分を見上げている三匹にアリーナが問い掛ける。どうすれば良い?と言うのはもちろんトマスに対しての返事についてである。

「私には……彼の気持ちに応える事が出来ないんです」

 アリーナはしゃがむとヘルハウンドのクロの頭を撫でる。

「ク〜ン……」

 空気を読んだのかクロは体を屈めて伏せの姿勢で大人しくなってしまった。

 まるで、気の利いた事が言えずに申し訳無く思っているかの様だ。

「どうすればトマスさんを傷付けない様に出来るんでしょうか……?」

 アリーナかヤミキザルのモン吉を見ると

「キキッ!」

 彼はオーバーリアクションで首を傾げて分からないフリに徹するのだった。

 サンドペンギンのペン太に至ってはアリーナが話を振る前から地中に隠れてしまう逃げっぷりだった。

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