パーティー集合
ヴィル達が新人とトマスの訓練始めてからおよそ五日後、プリムフォードの街に王都からの馬車が到着したのだった。
「ふぅ〜長い旅だったわね〜! あ〜、腰痛くなっちゃった〜!」
王都から帰ってきた勇者パーティーの魔術師ミリジアと
「馬車狭かった。身体痛い……」
窮屈そうな旅客用馬車からなんとか降り立った大男、ミノさんの姿があった。
「とりあえず冒険者ギルド行ってみましょ。皆もそこに居るかもしれないし」
「キルトへのお使い、済ませないと駄目」
とりあえず、冒険者ギルドに向かおうとするミリジアにミノさんが釘を差す。
「そうだったそうだった。ギルド長への手紙があったのよね、確か」
そう答えるミリジアはミノさんを伴い冒険者ギルドを目指し街中を歩き始めるのだった。
「はい。こちらの手紙をギルド長にですね? 確かに承りました。お疲れさまでした」
程なくして冒険者ギルドに到着したミリジアとミノさんの二人は何事も無く国王からの手紙配達の依頼を難無く終わらせたのだった。
「ねぇ? うちの馬鹿勇者何処に居るのか知らない?」
大体は冒険者ギルドで飲んだくれているヴィルの姿が見えない事を不思議に思ったミリジアが受付嬢に尋ねると
「ヴィルさん達でしたら、ここ最近新人冒険者の方々と訓練場ですね」
「訓練場? あの馬鹿が? どういう風の吹き回しかしら……?」
ここ最近ヴィルに会っていなかったとは言っても高々半月程度でしかない。
そんな短い期間で暇さえあれば飲んでるか娼館通いしてるかの、あのヴィルが新人育成の為に訓練場に行くなど到底ありえない光景でしかなかった。
「と、とりあえず行ってみるわ。ありがとね」
受付嬢に礼を述べたミリジアは首を傾げながらミノさんと一緒に冒険者ギルドの訓練場に向かうのだった。
「よし、良いぞ! 周りが見えてきたな! 後ろにも目を付ける気持ちで集中するんだ!」
訓練場に着いたミリジアが見たのは、見知らぬ新人二人に対しエルフィルと二人がかりで稽古を付けているヴィルの姿だった。
訓練場にはアリーナ達や外周を走るシルヴェリス達も居たが、ミリジアにとってはヴィルの姿が衝撃的過ぎた。
その光景を見たミリジアはさも当然の様に魔法の詠唱を始め
「フレイムアロー!」
ーボウッ!ー
「うわっちゃちゃちゃ!」
ヴィルの背後にフレイムアローを挨拶代わりに撃ち込んだミリジアは
「おい! バカ勇者! アンタこんなトコで何やってんのよ! 魔王討伐は? せめて情報収集くらいはしてたんでしょーね?」
自分達が長旅で疲れてようやく王都との往復も済ませてきたのに、肝心の勇者達は辺境の街で後輩相手に稽古とかいうスローライフかときたら腹も立つというものだ。
「あ、あの……彼等とはちょっとした経緯がありまして……ヴィルさんは決して本来のお仕事をおざなりにしていた訳じゃ……」
背中から煙を上げているヴィルにヒールを掛けながらアリーナがミリジアに弁明するが
「貴女は黙ってて。それに私は王女様からの手紙も預かってるの! 悪いけどバカ勇者を遊ばせている余裕も時間も無いの!」
ミリジアは中指で眼鏡のズレを直すと、ミノさんに目で合図を出した。
「ヴィル、冒険者ギルドに連れて行く。お前達も付いてこい」
ミノさんはヴィルを肩に担ぎ上げるとそのま冒険者ギルドに向かって歩き始める。訓練場に居た者達はどうする事も出来ずに、仕方なく冒険者ギルドに同行するのだった。
冒険者ギルドに到着した一行は各々テーブルに着き、ミリジアの顔色を窺うかの様に大人しくしている。
そんな中、王女様からの手紙を開封し中身を読んでいるヴィルに対し、隣に腰を下ろしたミリジアは
「どう? アンタに油売ってる時間は無いって理解出来た?」
ヴィルの肩をバシバシ叩くと、彼に本業に専念する様、暗に促し始めた。
「手紙にゃ、フィオレット王女が近いうちに帝国の皇太子から縁談を受ける事が書いてある。正直、やんごとなき人等の事なんか関わりたく無いんだが……」
ーバキッ!ー
「あがっ!」
途中まで話すヴィルの横っ面がミリジアのグーパンで殴られる。
「乙女の一大事なの! 健気な王女様が助けを求めてるのにアンタは……」
望まぬ縁談から救い出して欲しいと、フィオレット王女から旧知の仲であるミリジアにSOSが出されているのだろう。
その為、ヴィル達勇者パーティーには魔王討伐をさっさと済ませて王都に帰りたい、帰ってきて欲しいというのがミリジア、フィオレット王女二人の望みである様だ。
しかし、ヴィルにとっては完全な他人事であり、よくあるファンタジー作品の様に勇者と王女が婚約してるとかそういった話では全く無い。
ヴィルと王女の関係は、魔王軍四天王の一人を撃破した際、そこがたまたま王都だっただけで、王女様を洞窟から助け出したりした訳でも無い。
先日、馬車で逃げるフィオレット王女を助ける一幕があったが、それだけで一目惚れフラグが成立した訳でも無い。
「でもよ、この街の近くにゴブリン共の拠点が出来たりとか、四魔将の二人が彷徨いてたりもしてんだぜ? そんなんで俺達魔王城に出掛けちまって……」
足元が覚束ない状況で魔王城に乗り込む危険を口にするヴィルだったが
「そこは大丈夫! 冒険者ギルドに全面的にバックアップする様にって国王様からの手紙渡しといたから!」
ヴィルの不安を打ち消すかの様なミリジアの力強い言葉だった。状況から見るに国王も娘の縁談には乗り気では無いのだろう。だからこその冒険者ギルドへの完全バックアップの命令なのだろうが……




