訓練場
「二人とも、連携が取れてないぞ! 常に二人同時に襲い掛かれば良いってモンじゃないんだ!」
「トマスさん、これで分かったでしょう? 貴方の本分は近接戦闘ではありません! 荷物持ち、テイマーであるなら役割なりに務めを果たせる方法を模索するべきです」
「ガッツさん、ベルナデッタさん、良いですか? 後衛の役割は戦況を間違えない事、新手の出現に気を配る事です」
訓練場でそれぞれ新人相手への先輩からの教えが飛んでいた。
ヴィルからはハーマンとメイリンに、シルヴェリスからはトマスに、アリーナからはカッツとベルナデッタの二人に……という格好だった。
「いいか? 周りにはしっかり気を配れ! 出来なければ声を掛け合え! 人の言葉が分かる魔物なんて滅多にいやしないんだ!」
ヴィルは自分の長剣と同じ位の長さの棒を肩にポンポンと当てながら、新人ハーマンとメイリンの二人に二人掛かりでの対魔物戦闘の模擬戦をしていた。
新人だけあって、前衛職のハーマンとメイリンの連携はボロボロだった。
さっきなど、剣戟を打ち込んだハーマンの攻撃をヴィルが棒で受け止めた隙を狙ってメイリンが隣に並んだ時、ハーマンが横薙ぎの為に横に振った剣がメイリンに直撃してしまう一幕があった。
訓練用の木剣でなければ慌ててアリーナを呼ばなければならない大惨事になるところだった。
「ハーマンったら気を付けてよね〜? 実戦であんな事されたら私死んじゃうじゃない」
木剣が当たった脇腹を抑えながらメイリンがハーマンにツッコミを入れる。すると
「いや、まさかそっちから来るなんてな。それに剣聖相手だから緊張しちまって……」
同士討ちの隙に一撃をヴィルに入れられたハーマンは、肩口を擦りながら彼はメイリンに詫びている。
ーズシャッ!ー
「ほら、次だ。実戦ならお前達は死んでるし、後列の連中もお陀仏だぞ?」
ヴィルは棒で地面を叩き二人に訓練の継続を促す。そんな実戦訓練をしている三人から少し離れた場所で
「私は本業は剣士ではないんですよ? そんな相手にですら貴方は一太刀すら浴びせられないんです」
シルヴェリスは木剣の切っ先をトマスに向けながら事実を淡々と語り掛けている。
二人で木剣の打ち合いをしていたトマスとシルヴェリスの二人だったが、トマスは木剣を弾き飛ばされた挙句に鳩尾に木剣の柄を叩き付けられ膝を折る結果となっていた。
見た目にも華奢なシルヴェリスに対しトマスは成人済みの十五歳男性とは言え、まだまだ少年体型でしかない。
女の子相手に完封されてしまっては流石のトマスも考えを改めるだろう……。
そう期待したヴィルだが、その期待は脆くも裏切られる事となる。
「僕はまだ本当の能力に目覚めてないだけなんだ! 今見せてやる!」
ーバシッー
トマスは自身に向けられていた木剣を奪い取ると、彼はそのままシルヴェリスに打ち込み始めた。丸腰なシルヴェリスが危ないと判断したヴィルは彼らに割って入ろうとしたが
「ヴィルさん、手は出さないで下さい! 私は大丈夫です!」
シルヴェリスはトマスの打ち込みを難無く避けており、その動きは的確なもので不安は全く感じさせなかった。
トマスの剣技は我流だけあって、それは子供が小枝を振り回すに等しい児戯でしか無く……
「はあああぁぁっ!」
ースカッ!ー
トマスなりに勢いをつけたであろう突進からの突きもシルヴェリスには避けられてしまい
ーパシッ!ー
「うわっ!」
すれ違いざまに足を引っ掛けられたトマスは無様に地面に転がされてしまうのだった。
ーズシャアアアッ!ー
「く……、くそうっ!」
慌てて立ち上がったトマスだったが振り向いた先にシルヴェリスの姿は無く
ードガッ!ー
「うわあっ!」
背後から尻を蹴り上げられたトマスはヨロヨロとよろめいて再び転ばされてしまうのだった。
「もう気は済みましたか?」
シルヴェリスは流石に疲れたようにため息を付きながら少し離れた場所で遊んでいたサラマンダーに一緒になって遊んでいたクロ達とここに来る様に手招きする。
「あぎゃ!」
「ワンッ!」
「キャッキャッ!」
「クエッ!」
するとサラマンダーに先導される様にして三匹の魔物達もシルヴェリス達の元にやってきた。四匹達はシルヴェリスの前までやってくると、三匹に振り返ったサラマンダーが
「あぎゃぎゃ!」
号令を掛ける様に鳴くと続けて
「ワンッ!」
「キィッ!」
「クエッ!」
一二三と点呼を取るようにして待機している。それはまるで体育の授業か軍隊の整列の基礎訓練であるかの様に。
「あぎゃ!」
いつの間にか三匹を従えているサラマンダーは心なしか得意気にドヤ顔をしている。そんな彼にシルヴェリスは
「いつの間にそんなに仲良くなったんですか? お友達が出来て良かったですね」
自分の元に戻る様に両手で手招きしている。
「トマスさん? キッカケはどうあれ今の彼等には貴方が必要なんです。全幅の信頼を寄せている彼等を裏切るんですか?」
シルヴェリスはトマスに自身の現状を自覚する様に促している。だが、彼は自身の黒髪を掻きむしると
「どうして僕はテイマーなんだ! 僕は悪党を打ち倒す強い冒険者になりたかっただけなのに!」
トマスは自身の中にあった憤りをぶちまけ始めた。
「どれだけ剣の練習をしても全然上達しないなんて不公平じゃないか!」