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魔物使い

「なんでだよ! 悪いのかよ! 僕は好きでテイマーになったんじゃないし、そいつらだって勝手に付いてきてるんだぞ!」

 トマスは図星を突かれた後ろめたさがあるのか、シルヴェリスに強い口調で返している。

「動物達は人の感情を見ています。不機嫌な相手には萎縮してしまいますし……そこには顕然な関係性を築ける見込みなどありません」

 シルヴェリスはサラマンダーを呼び出し、彼を自身の肩に乗せながらトマスに言い聞かせる。

「月並みな言い方かもしれませんが、動物は愛情を持って接すれば応えてくれるものです。つまるところ必要なのは信頼関係です」

 食事をしながらペットの飼い方を指南する様にシルヴェリスはトマスにテイマーとして大事な事を説いていく。そんな最中、

「俺、ちょっとゴブリン洞窟の報告してきちゃいますけど……ホントに俺達で言いんスか? ヴィルさん?」

 朝食をかき込んだ新人パーティーのハーマンがヴィルに尋ねてきた。

 街にとっての脅威が魔物であれ敵の拠点であれ、第一発見者には報酬が支払われる事になっている。

 ハーマンの意図は、洞窟で全滅しかけていた自分達よりヴィル達勇者パーティーが受け取るべきというものなのだが……

「気にしないでしっかり報告頼むな。魔王軍の四魔将グリンブルスティが居たってのも忘れずにな」

 ヴィルはハーマン達に付帯情報もギルドに報告する事を念押しして彼を受付に送り出すのだった。

「アンタ、ホント変わったわ。金貨になりそうな仕事を他に譲っちゃうなんて……」

 固パンをポトフに浸していたエルフィルが信じられないモノをみる目でヴィルを凝視していた。

「新人の皆さんが高い報酬を得られれば装備品や道具にお金を掛けられますからね。そうして新人の皆さんが力を付けていけば最終的に私達の戦いの助けにもなります。そういう事なんですよね?」

 アリーナが言うのは情けは人の為ならずである。実際、ヴィルがそこまで考えていた訳でもない。

 単純に第一発見者がハーマン達なんだから、報酬の権利が彼等にあるというだけの話でしかなかった。

 しかし、従来のヴィルであれば救助した恩をかさに着て報酬を奪い取っていたのが普通であった。だからこそのエルフィルの反応だったのだが……

「飯を食い終わったら、腹ごなしに訓練所には行くぞ。俺が教えるのはハーマンとメイリンで良いんだったよな?」

 ヴィルにとって二人を相手どっての訓練など容易い話だ。何しろ相手は経験の少ない新人二人。

 だが剣士のハーマンはともかく格闘家のメイリンは……。

 服装がアオザイに似た赤いドレスでスカートに深いスリットが入っている。

 しかもその下が生足なのだ。訓練前にエルフィルかアリーナが止めるモンだと思っていたヴィルだがアテが外れていた。

 転生者と言えどヴィルは立派な成人男子。格闘家であるメイリンが上段蹴りでもしてこようものなら、視線が固定化されてしまうのは否めない現実だろう。

(平常心平常心……)

 今更ながら必死に煩悩を捨て去ろうとするヴィルなのであった。

 一方、トマスをテイマーとして伸ばすべく思案していたシルヴェリスは

「私と訓練をする時、お連れの魔物さんを同行させて下さい。身近なところから一緒に行動する事がら始めましょう」

 トマスに一つの提案をしていた。あまりに溝が出来ているトマスと魔物達の関係を戻す事から始めるつもりなのだろう。

 こうして朝食を終えたヴィル達は皆で揃って、冒険者ギルド裏手の訓練場に向かうのだった。



 一方その頃、王都でフィオレット王女と面会していた勇者パーティー魔術師のミリジアとミノさんの二人は、ヴィル達の居るブリムフォードの街への旅路に着いていた。

「中身は分からないけど面倒な事になりそうね……」

 馬車の座席に揺られるミリジアは、胸元に忍ばせた二通の手紙に思いを巡らせていた。

 一通はグランフェルム国王からブリムフォードの冒険者ギルドへの速達。

 もう一通はフィオレット王女からバカ勇者ヴィルへの個人的な手紙だった。

フィオレット王女と旧知の仲であるミリジアが何度尋ねても

「ヴィル様にお渡し下さい」

 の一点張りだった。

 よくある冒険物語の様にヴィルは王女の危機を救ったりはしていない。

 唯一、王都に攻め入った魔王軍四天王と軍団を退けたという経緯はあるが……

 しかし、そんなのは東のベルンシュバイツ帝国でも北のルミナスフォール自治領でもやっている。

 一国の王女がヴィルに心奪われるフラグなど立っているハズが無いのだが……

「ミリジア、手紙……そのまま。ヴィルに渡す」

 隣に座るミノさんが察してミリジアに声を掛けてきた。

「ば、馬鹿言わないでよ。これでもフィオレット王女様は友達だんだから……。覗き見るなんて……」

 中に何が書いてあるのか気にならなくも無いミリジアは必死に好奇心から来る誘惑に耐えていた。

 しかし、それなりに付き合いの長いミノさんが釘を差してくるくらいである。

 蝋で封してあるとは言っても、ミリジアの性格から中を覗き見てしまう危険性があると見透かされているのだろう。

「見損なわないで。友達の手紙なんか覗かないわよ」

 ミリジアは自信を戒めるかの様にミノさんに断りを入れる。

 そんな二人を乗せた場所はブリムフォードの街を目指して走り続けるのだった。

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