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四魔将の欺瞞

「ここは引き揚げさせてもらう!」


ーバアッ!ー


 闇のエネルギーを風の防壁もろとも吹き飛ばしたヴィルはバックステップを刻みながら広間の出口へと下がっていく。すると

「ギャギャーァ!」

「キキッ!」

「ゲッヘッヘ!」

 周りで様子を窺っていたゴブリン達の何匹かが、ヴィルを追ってきた。

 広間から細い通路に入ったヴィルは、ゴブリン達の短剣を避けながらただ下がり続ける。そこで

「シャルゲシュベルト!」

 一本道でゴブリン達が縦に並ばざるを得なくなったところでヴィルは持ち替えていたショートソードから風属性の真空波を放った。


ースパパパパパッ!ー


 真空波は一列に並ぶ格好になっていたゴブリンを射程ギリギリまで斬り裂いていった。

 後退しながらヴィルが真空波を放っていると彼が出口に辿り着いた時には通路にゴブリン達の死体の山が積み上がっていた。

 ゴブリンの繁殖力は侮れないが、後日冒険者達が合同で処理に当たれば、この洞窟の脅威は無力化出来るだろう。

「わりぃ、遅くなった。さっさと街に引き揚げようぜ」

 ヴィルは洞窟の入り口で自分を待っていてくれたアリーナやエルフィルに声を掛ける。洞窟の外はすっかり日が落ちて月が高く昇り始める時間へとなってしまっていた。

「とりあえず、冒険者ギルドに行くぞ。この洞窟の事は報告しておかなきゃだしな」

 ヴィルは先にこの洞窟に来ていた新人冒険者パーティーに目配せする。

 彼等も手傷を負わされていたはずだが……アリーナがヒールを掛けたのだろう。皆が万全な態勢になっていた。

「あ、勇者ヴィルなんだろ? まさかこんなトコで助けてもらえるなんて思わなかった。ありがとう」

 そう言って手を差し出してきたのは、新人冒険者パーティーの戦士風の少年だった。


ーギュッー


「堅苦しい事言うなよ。こういうのはお互い様だ」

 差し出された手を握りながらヴィルなりに少年達に気を使う。

 結果論とは言え、トマスがレベルアップしなかったのは彼等のおかげと言えなくもないのだ。

 こうしてヴィル達は新人冒険者パーティーと自己紹介を交わしながらブリムフォードの街へと引き揚げていくのだった。



 ヴィル達がブリムフォードの街に着いた時には宿屋のチェックインの時間が終わり始める頃だった。

 街を行き交う人々の姿もまばらとなり、街が寝静まる時間帯が近付いてくる頃である。

 こうなると冒険者ギルドでの寝泊まりしか選択肢が無くなってしまう訳だが……

 ヴィル達が宿を諦め冒険者ギルドへの道を仕方なく歩いていたその時

「う、うわあ〜! ば、化け物ぉ〜!」

「た、助けてくれぇ〜!」

 慌てた様子で通りを横切る戦士風の男達が転びそうになりながら息を切らせている……そんな状況に出くわした。

「あいつらは……!」

 ヴィルにはその男達に見覚えがあった。彼等は先日屋台街で絡んできたギルベットの仲間だったからだ。

 彼等はヴィルの姿を見つけると一目散に駆け寄ってきて

「おい、勇者だろ! 街中にバケモンが入り込んでんぞ!」

「さっさと退治しろよぉ!」

 ギルベットの仲間達は悪態をつきながら冒険者ギルドの方向へ駆けていく。

(街の中に化け物……? その割には……)

 街はいつもの喧騒……というか、静かに寝静まり始めている。とても街中に化け物が現れている様には思えない。

「俺は一応、その辺見てくるが……お前等はどうする?」

 ヴィルは自分と同じ様に半信半疑なパーティーメンバー達に尋ねる。しかし、結果は

「ヴィルさんお一人では何かあった時に危険ですから……」

「索敵には私が要るでしょ? 水臭いこと言うんじゃないわよ」

 アリーナもエルフィルもそして新人冒険者達もヴィルと一緒に行くつもりであるらしい。

「街中だからって気は抜くなよ。何かあったら教会かギルドへ走れ」

 ヴィルはそう言うとパーティーの先頭に立ち、ギルベットの仲間達が走ってきたであろう街中の小道を逆に辿り始めるのだった。



 水路を右手に続く住宅街の小道は街を横断する様に続いていた。住宅の窓からは明かりが漏れており、住人達は普通に起きているのだろう。

 そんな時間に化け物が出たというのなら騒ぎになっていておかしくないはずだが……

(あれは……?)

 先頭を歩くヴィルが十字路の向こうに地面に倒れている人影らしき者を二体、そしてその場に佇む黒いボロ着れを纏った背の高い人影が居るのを見つけた。

 月明かりに照らされたそれは、地面に転がっている二人はギルベットとその仲間で間違いは無い。

 一方、そこに佇む背の高い男は長い棒の様なモノを手にした魔術師……? 顔は黒いフードの影で隠れていて人相や表情は分からない。

「なぁ、ここで何が……」

 地面に倒れているギルベット達も気になるが、得体の知れない背の高い何者かにヴィルが話し掛けようとしたその時


ーガシッ!ー


「待って! そいつ……まさか……」

 エルフィルがヴィルの肩を掴んで引き止めながら呟く。

「全く……私は静かに仕事がしたいだけなんですが……」

 ヴィル達に気が付いたのか、背の高い何者かはゆっくりと彼等に向き直る。

「ば、化け物……!」

 新人冒険者パーティーの誰かが、向き直った背の高い者の月明かりに照らされた顔を見て驚愕の声を上げる。

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