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対抗心

 一曲が終わり、着席を告げられた会場の信徒達は皆が腰を下ろす。

「今、この世界は未曾有の試練が与えられています。しかし女神様は乗り越えられない試練は……」

 司祭様が挨拶している間、アリーナのあまりに綺麗な歌声にヴィルが驚いていると

「あれくらい、私だってやってみせるわよ。ねぇ、歌詞カードとかって無いの?」

 なぜかエルフィルがアリーナに対抗心をバリバリに燃やしてきていた。

 まるでカラオケで持ち歌を先に上手に歌われてしまって悔しい人みたいなムーブをかましている。

「こちら、聖歌の歌詞になります。どうぞ」

 アリーナがコートの内ポケットから歌詞カードを取り出しエルフィルに渡す。

 教会の行事にエルフィルが興味を持ってくれたとアリーナは嬉しそうにしているが……勿論エルフィルの意図は別にある。

「それでは皆様、ご起立願います」

 司会進行の神官から信徒達に起立が促される。伴奏のパイプオルガンからも前奏が流され始め、これは聖歌斉唱のさっきの流れと同じである。

 斉唱が始まると、慣れた様子で参加するアリーナを横目にエルフィルは歌詞カードとにらめっこをしている。

 そして聖歌の一番が終わり二番へと差し掛かる間奏の間

「すぅ〜、はぁ〜」

 エルフィルは歌詞カードを見ながら深呼吸を繰り返している。そんな彼女をヴィルが訝しげに見ていると聖歌の二番が始まったと同時に

「ボゲ〜〜〜!」

 隣のエルフィルから自己主張の強い不協和音が発せられてきた。声質そのものは何も問題は無く、むしろ美人な雰囲気が漂う凛とした声だ。

 しかし、エルフィルのそれはリズム感はおろか音程すら絶望的な歌声である。それも本人はノリノリで自身のズレに気付いて無いまである。

 合唱は多少の音痴はかき消してしまうとは言え、近くにアリーナという歌姫が居るにしても、とてもチャラにはならない逸材でしかなかった。

「ちょっと、何今の……」

「あのエルフから聞こえてたんだけど……」

「あなた、注意しなさいよ。皆の迷惑だって……」

「あれ……前世はきっとセイレーンの落ちこぼれだったのよ、きっと……」

 二番が終わり、ハーブによるソロに入った辺りで周りからヴィル達を揶揄する声が囁かれ始めた。

「な、なぁエルフィル?」

 ヴィルはそれとなく彼女に合唱に参加するのを止めようとするが

「なぁに? 私の歌声に聞き惚れちゃった?」

 ドヤ顔で返してくるエルフィルにヴィルは彼女の中に本物を感じ取るのだった。

(自覚無し音痴……こいつはヤバいぞ……!)

 多少音程が外れていたりリズム感が無かったりというのは大抵何とかなるものだ。本人にその自覚があるのなら……だが。

 しかし、となりのエルフはドヤ顔をしており、何ならアリーナの上を行っていると自負している感すらある。

 彼女とはそれなりに付き合いは長いが、こういったケースは初めてである。エルフィルに面と向かって

『引っ込め音痴』

 とか

『落ちこぼれセイレーン』

 とは流石に言えない。彼女に音痴という自覚が無い以上、やんわりと伝えるしか無い。

 トマスへの対処だけでも頭を抱えている今のヴィルに、これ以上の厄介事に対応出来る様なキャパは存在しない。

「エルフィル? 他の皆に気を使わせちまうから少し音量控えてくれ」

 ヴィルなりに最大限エルフィルに配慮したお願いだった。

 周りの声もエルフである彼女の聴力なら聞こえているはずなのだが……都合良く特発性難聴でも発症したのだろうか?

「もぉ〜! 仕方ないわね〜! 私ばっかり注目集めたら悪いものね〜♪」


ーバシバシッ!ー


 良く分からないがエルフィルはとりあえず次の聖歌の時は大人しくしてくれるらしい。

 確かに彼女は周囲の注目を集めていたが……悪い意味で。聖歌が終わるとまた着席が告げられミサの続きがしめやかに行われていった。

 少々暇になったヴィルは試しに女神とコンタクトが取れるのか試してみる事にした。

(え〜、女神様女神様。ちょっとお尋ねしたい事がありまして……自分の声は届いてますか?)

(はいはい、この世界の豊穣の女神レアちゃんです。何かしら?)

 繋がるか不安だったが返答は即、電波が五本立ってるかと思える程安心感のある通話環境が形成されていた。

(あ、あの……早いっすね)

(そりゃまぁ、私を讃える皆さんの声の近くからの声だもの〜♪ 聞き逃したりしないわよ〜?)

 女神の声は明らかに上機嫌だった。ミサで信徒達が祈ったり神様を称えたりしているが、褒められて悪い気はしないというアレだろうか?

(あの〜、教会の教えで肉類食べちゃ駄目みたいなのがあるみたいなんすけど……それって……?)

(ああ、それ? そんな教義この世界の人達が取り決めただけでしょ。私、フライドチキン好きだし〜)

 女神からは軽い返事が返ってきた。まぁ、女神様が言うのだからアリーナに肉食を勧めても問題は無さそうだが……

(女神様? 俺の隣にいるアリーナなんですけど……)

 折角なので女神様から直接神託みたいな感じで言って貰った方が説得力がありそうなので、ヴィルは女神レアに頼んでみる事にした。すると

(ん〜、良いわよ。その子、敬虔な信徒ちゃんみたいだものね。その子の名前は?)

 結構ノリノリな様子で返してきてくれた。自分で女神様からの言葉を伝えるより直で聞けば彼女もきっとすんなり受け入れてくれるに違いない。

(え〜と、アリーナ・ルミナスフォールです。真面目な子なんで脅かさない様にお願いします)

 そんなヴィルの返事に

(わかってるわよ〜。そういう娘の扱い慣れてるから♪ それじゃ始めるわね)

 レアの応答はひたすらにフランクなものだった。返事が終わり、ヴィルが隣のアリーナの様子を窺っていると

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