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初めてのミサ

 街の教会にやってきたヴィル達三人と三匹。彼等の目の前にあるのはハスヴィル村で見た教会とは比べ物にならないくらい荘厳な雰囲気の建物だった。

 敷地そのものも広く敷地は庭園の様に整えられており、それだけで教会の財力の高さが窺える。


ーギギィ……ー


 ヴィルが教会の両扉を開けると……中には絵画を施された建物の内壁が広がるホールと、多数の街人達の姿があった。

 礼拝に訪れたであろう街人達は皆が教会の奥にあるであろう礼拝堂に向かっている様だ。

「え〜と……」

 教会に縁の無い生活をしていたヴィルとエルフィルは勝手が分からず辺りをキョロキョロと見回している。

「こっちです。今日はミサがありますので皆さんでお祈りするんですよ」

 勝手が分からないヴィルとエルフィルを先導する様にアリーナが教会を奥へと進んでいく。

 人波に従ってただ歩いているだけのヴィルは

「なぁ、こんなイベントに参加するつもりは無かったんだが……」

「私も〜、それに私みたいな女神様信じてないのが来ちゃっても良いの?」

 エルフィルと二人揃って場違いな事を口にするが……

「女神様は信徒じゃなくてもお見捨てにはなられません。慈愛の方ですから」

 先を行くアリーナはいつになく楽しそうにしている。

(……そんなモンかね)

 中身転生者な現代人のヴィルにとって教会は、パーティーメンバーを復活させたり呪いを解いたりする場所という漠然としたイメージしか無い。

 あるいは精々讃美歌を歌ったりとか教皇を決めるのに根比べしてるとか……その程度の認識である。

「人間ってなんでこんなにゴチャゴチャと飾り付けたがるのかしらね〜?」

 白い壁に壁画が記されていたりやら、天使を象った石像が置かれていたりやらエルフィルにとっては全く理解出来ないモノである様だ。

「女神様とか天使様を身近にイメージしやすくしているんじゃないでしょうか……?」

 アリーナは三匹の魔物達を連れながらエルフィルの疑問に答える。

 元々トイレの世話をしていた事もあってか三匹とも彼女に懐いている様に見える。

「トマスの奴、ホントにどこに行っちまったんだ……?」

 ヴィルか誰ともなしに呟く。姿を見せなくなったトマスだが、今朝にでも冒険者ギルドに顔を出すものと思ってたのだが……。

 だが、少なくとも街に居るだろうとは思う。この街近辺は魔王城が近い事もあってか普通に出歩くのも気を使わなければならない地区なのだ。

 土地勘も無いトマスが街から出るはずが無い……それが今のヴィルの認識だった。

「お二人共、こちらです」

 アリーナに案内されてヴィル達が付いたのは小さなコロッセオの様なすり鉢状の空間だった。

 周囲の観客席?から中央に居る、神官の姿が見える様になっており、さながらコンサートホールの様だった。

 会場の一角にはパイプオルガンが置かれ、ミサが一度始まれば荘厳な雰囲気で信者達を魅了するのだろう。

「こっち空いてますよ。ここにしましょう。皆さん、暫く静かにしていて下さいね」

 適当な席を見繕ったアリーナはヴィル達に声を掛けつつ三匹の魔物達に大人しくしている様に言い含めている。

「クーン……」

「キィ……」

「クェ……」

 クロは身体を地面に伏せさせて大人しく待機の構えを取る。モン吉は辺りをキョロキョロしつつも自身が場違いな場所にいる事を自覚したのかやはりしゃがんで静かにしている。

 ペン太だけは会場の雰囲気に圧倒されて落ち着かない様子でアリーナのコートにしがみついていたが

「いい子ですから静かにしていましょうね」

 しゃがんだ彼女に目線を合わせての頭ナデナデをして貰ったおかげかすぐに静かになりモン吉の隣で大人しくなってしまった。

 これでは彼女がテイマーと変わりないのではないか。トマスが帰ってきたら彼にテイマーとしての自覚を促さなければならないが……。

「お集まり頂いた信徒の皆様、ありがとうございます。本日はミサの為に王都から……」

 ヴィルが考え事をしている間にミサが始まろうとしていた。会場の中央では進行役らしい神官が王都からやってきたらしい司祭様の紹介を始めている。

「お集まりの信徒の皆様、こちらのブリムフォードの街が魔王城から近いにも関わらずこれまで被害無く過ごしてこられたのは間違いなく偉大なる豊穣神レア様の加護によるものです。これからの街の繁栄の為に祈りを捧げましょう。フェクンディタス・エテルナ」

 司祭が言葉を終えると周りの信徒達が声を揃えて

「フェクンディタス・エテルナ」

 と、唱和しているのが聞こえてきた。何を言っているのか分からないヴィルがアリーナに尋ねてみると

「これは、豊穣の女神様を称える言葉なんですよ。フェクンディタス・エテルナ……永遠の豊穣を願うと共に女神様の永遠もお祈りしてるんです」

 笑顔で答えるアリーナの手前、何と言ったのかよく分かってないとは言えず、ヴィルが唱和に付いていけずに居ると

「フェクンディタス・エテルナでしょ? アンタも紛らわしい名前してんだからこんくらいスパッと覚えなさいよ」

 隣のエルフィルがしてやったり顔で周りの唱和に合わせていた。

 何度か司祭の言葉と信徒達の唱和が繰り返された辺りで、パイプオルガンによる伴奏が始められた。

 会場の信徒達は曲目が何なのか説明されずとも理解しているらしく、皆が伴奏に合わせて合唱を始めていた。

(綺麗だ……)

 歌うに歌えず戸惑うヴィルの耳に入ってきたのは、透明感のある透き通った声で奏でられるアリーナの歌声だった。

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