これからの展望
(問題はこれからトマスの奴をどうするか……だ)
ヴィルは周りの様子を覗いながらパーティーメンバー達の挙動を確認する。
(ミリジアとエルフィルの二人はトマスの奴に愛想がつきちまってる……)
既に二人は意見表明を終えており、今はヴィルの次の行動を待っている状態だ。
(ミノさんは……ミリジアの意見に従うって感じだな。後は……)
ヴィルが自分の隣に座るアリーナの様子をそれとなく見てみると……
「わ、私も……トマスさんはパーティーを抜けられた方が良いと思います」
ヴィルが意見表明の機会を振ったと思ったらしく、アリーナもトマスに対する考えを話し始めた。
「これから私達は魔王の住む居城に乗り込まなければならないんです。トマスさんでは……その……」
言葉を選びながらトマスを外す意見を述べるアリーナの行動はヴィルにとってナイスなアシストとなった。
これなら、流れ次第では円満にトマスをパーティーから外す事も夢では無い。
(トマス、お前は一人だけレベル2な事もある。お前は此処でパーティーを降りろ……よし、これで行こう!)
ヴィルは頭の中での文言の整理を終える。アリーナの意見に乗っかる形となるが、今がチャンスと判断したのだった。
「あ〜、トマス。お前は……」
「僕に出ていけってのか! 追放なんてあんまりじゃないか! 冒基に訴えてやる!」
少々食い気味にトマスが反発してきた。彼が言う冒基とは冒険者基準監督署の事だろうが……。
こんなモノが異世界に作られたのも先人達がいい加減な冒険者稼業をしてきたからなのだ。
歴史の後続は蓄積された知識や技術の恩恵を受け取れる代わりに、先人の負債まで背負わなければならないのが理不尽ではある。
「おいおい、落ち着けって。誰もそこまで言ってないだろ」
と、ヴィルはトマスを必要以上に刺激しない様に宥めに掛かるが……
「そーよ、クビ。これは私達の総意で決まってるの」
「そうそう。さっきも言ったでしょ。アンタはお払い箱なのよ」
(お前らああぁぁぁっ〜!)
一向に話が進まない事にうんざりしたのかミリジアとエルフィルの二人が口を挟んできた。
二人とも食い気味に宥めようとしていたヴィルの言葉を遮ってトマスにクビの宣告をしてきた。
なんとかして場を収めたいヴィルの気苦労など知る由もない二人はトマスに言いたい放題である。
「アンタ、この前間違えてエリクサー渡してきたでしょ! あれどんだけの価値があると思ってんのよ! たかがゴブリン戦に何考えてんのよ!」
魔術師のミリジアはトマスに不満をぶちまける。また、それはエルフィルも同じな様で
「後ろから声掛けるなら分かりやすく言ってって何度言えば分かるの! 危ない! とか 左から敵だ! じゃ、余計混乱するんだからね!」
戦闘中のトマス使えないエピソードの披露を始める。ついさっき目覚めたばかりのヴィルとは違い、彼女達にはこれまでの蓄積があるのだろう。
しかし、今の彼女達のトマスへの叱責は、ヴィルからすれば地雷原でタップダンスを躍るが如き悪手でしか無い。さらに
「トマス。お前、動物邪魔。ちゃんと躾けろ」
ここで食事が一段落したミノが会話に参加してきた。彼にもトマスに対し思う所はある様だが……
「そう! アンタのペット! 戦闘中うろちょろさせんじゃないわよ! 何度魔法に巻き込むかと焦らされなきゃなんないのよ!」
「かと思えば、弱った敵をハイエナしていっちゃうしさぁ! ホント勘弁して欲しいわ!」
ミノの言葉に思い出した様にミリジアとエルフィルの二人が食い付いてきた。
彼等の言う通りトマスはテイマー……所謂魔物使いな為、何匹かの魔物を従えている。
まず、ヘルハウンドのクロ。ヤミキザルのモン吉、そしてサンドペンギンのペン太の三匹ゼットである。
(なんで犬、猿……ときてキジじゃねぇんだよ! せめてそこは揃えろよ!)
ヴィルの脳裏にもこの三匹が戦闘に役に立たない事実が蘇り始めていた。
彼等も適正レベル帯の相手であれば役に立つのかもしれないが……。
それでもサンドペンギンというニッチな種族の活用方法はヴィルには思いつかない。
(大体なんで砂漠のペンギンをそこら辺平気で連れ回してんだよ! まるっきり虐待じゃねーか!)
ヴィルが頭の中で葛藤している間にパーティーの三人から責められたトマスは
「ぼ、僕だって頑張ってるんだ! そんな言い方無いじゃないか!」
パーティーメンバー達は言い争いに発展しかけていた。
「み、皆さん落ち着いて……! 怒鳴りあっても何にもなりませんから」
緊迫した空気に状況を見守っていたアリーナが仲裁に入るが……
「ヴィル! さっさと言ってやりなさいよ! 私はこれ以上、足手まといと一緒になんかやってらんないのよ!」
「私も〜! 生命が幾つあっても足りないわよ!」
「トマス、一緒……無理」
ミリジア、エルフィル、ミノの三人が声を揃えてトマスの追放を迫ってきた。このままでは魔王倒す以前にパーティーが崩壊してしまう。
「ヴィルさん、皆さんを止めて下さい……! このままじゃ……」
仲裁を試みていたアリーナも手に負えずオロオロとヴィルに助けを求めてきている。
トマスを追放してしまったら詰んでしまうからそれは避けたいヴィルだが、現状維持もパーティーメンバー達が許してくれそうに無い。
(くそっ……)
八方塞がりとなったヴィルが取った決断は