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イチャコラバカップル

 朝になると周りの部屋からも宿泊客が起き始める音が段々と聞こえ始めてきた。

 明け方に目が覚めてしまったヴィルは色々あってか寝付けずにそのまま椅子に座ったまま朝を迎えてしまった。

(今日は色々とやる事があるよなぁ……)

 まずは冒険者ギルドに顔を出してトマスの有無とギルベット達とのイザコザの無実を伝えてこなければならない。

 その後で教会に行き、女神にこの世界の教義がどれほど正しいのか確認して来なければならない。

 トマスの新スキルに関する心配事だけでも一杯一杯なのに、日を追うごとに不安の種が増えてしまうのは一体何なのか。

 ヴィルとしては早いとこ魔王を倒して全ての話を終わらせたい所なのだが……。

 別行動中のミリジアやエルフィルが帰ってこなければ話を進めようもないのが如何ともしがたくもどかしい。


ーカチャー


「お、おはようございます。ヴィルさん……」

 周りの部屋も騒がしくなってきたからか、アリーナも起きてきた。朝からしっかり身だしなみを整えているのは性格によるものがあるのだろう。

「おはよう。ゆっくり休めたか?」

「は、はい。え〜と……」

 ヴィルの言葉に返事しつつも、彼女は不思議そうに自分とヴィルの使っていた寝室スペースを見比べ首を傾げてている。

「どうかしたか?」

 彼女が腑に落ちない様子をしているのが気になったヴィルが尋ねると

「は、はい。え〜と……昨日夜に目が覚めてしまった気がしてたんですけど……寝ぼけていたみたいですね」

 彼女の記憶ではヴィルの寝室スペースに入ったはずなのに、朝起きてみたらきちんと自分の寝室で寝ていた事に困惑しているのだろう。

「あ、あの……気になさらないで下さい。大した事じゃありませんから」

 アリーナは照れくさそうにはにかむとヴィルと同じテーブルに着いた。

(アリーナ、昨日の事は知らないみたいだな……)

 ヴィルは彼女が寝室を間違えた事を覚えていない様子に心底ホッとしていた。

 彼女が寝言で口にしていた父親の事が気にならない訳では無いが、今この場で尋ねるのは場違いな気がしたヴィルは

「準備出来たなら、冒険者ギルドに行くぞ。トマスの奴も居るかもしれないからな」

 アリーナの身支度が整った事を確認したヴィルは、早速今日のスケジュールを話し始める。

「はい。行きましょう」

 アリーナは錫杖と自身の道具入れを手にするといつでも出られる体勢を整えていた。

 ヴィルも長剣と道具入れを持って、アリーナと共に宿屋からチェックアウトするのであった。



「え……?」

 魔王城にてリリスの何らかの能力によって眩い光に包まれたエルフィルが眩しい光が落ち着いた時に見たのは目と鼻の先にあるブリムフォードの街だった。

 自分の身に何が起きたのかさっぱり分からないエルフィルが辺りを見回し、改めて自分が転移によってブリムフォードの街に帰ってきている事実に安堵するのであった。

「ま、まぁ……何が何なのか分からないけど……皆に早く伝えなきゃ……」

 街に入るエルフィルの足取りは自然と早くなる。勇者パーティーとしての新たな脅威が自分達の前に顕然となってしまったからだ。

 死神の様な風貌のトーデスエンゲル。悪魔羽や尻尾を生やした緑色のオークの様なグリンブルスティ。そして、スクロールの火災旋風を瞬時に無力化してしまった銀髪ツインテールの女悪魔リリス。

 いずれも油断ならない強敵達だろうと思う。そんな相手がもし人間界に攻め込んできたら……

 とにかく今は勇者パーティーのリーダーであるヴィルに報告をしなければならない。

 何よりエルフィル自身が命懸けで入手してきた重要な魔王軍の情報である。ヴィルも流石に感嘆し自分を讃えてくれるだろう……。

 エルフィルが自分の仕事ぶりと有能さにほくそ笑みながら冒険者ギルドへと続く通りを足早に進んでいると

「アリーナ、冒険者ギルドに着いたらとりあえず朝飯にしよう。あんまり遠慮して肉食避けなくて良いと思うぜ」

「そ、そんな……私は大丈夫です。いつも通りですから……」

 いつの間にかお互いの距離感が縮まった様子のヴィルとアリーナの二人が並んで歩いているのに出くわした。

「今日、教会に行けば女神が答えてくれると思うぜ。そんな教義は教えたつもり無いってな」

「そ、そうでしょうか……。ちょっと私には想像出来ないです」


ープチッ!ー


 仲睦まじい様子の二人を見たエルフィルの中で何かが切れた音がした。

 自分がパーティーの為に身を張って大事な情報を仕入れてきたと言うのにあの馬鹿は能天気にも聖女様とイチャイチャしてくれやがっていたのだ。


ーダダダッ!ー


 怒りに燃えるエルフィルは何か考えるより先に衝動的にヴィルに向かって駆け出していた。

「何をしとるかぁ! 人が必死こいて仕事をしてる間にぃ!」


ーバギィッ!ー


「んげぇっ!」

 エルフィルはヴィルの背後にダッシュで近付き躊躇無く踵落としを彼の脳天に叩き込んでいた。

「良い御身分だわね! 人が命懸けで仕事してる間にイチャコラですか! この盛り勇者がぁっ!」

 地面に頭をめり込ませたヴィルを見下ろしながらエルフィルが仁王立ちで不届き者を見下げていた。

 エルフィルのあまりの剣幕に

「ご、ごめんなさい。エルフィルさん、一生懸命お仕事されてきたのに気が付かなくて……」

 アリーナはオロオロと謝罪の言葉を述べる。また

「クーン……」

「キキィ……」

「クエェ……」

 クロもモン吉もペン太も触らぬ神に祟りなしとばかりに壁際に寄って縮こまっていた。

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