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訓練所

 これでは近接戦闘以前の話だが、それでも一つずつ教え込んでいくしか無い。

「まずは、足音に注意して動く様にしろ。四六時中忍び足してろって訳じゃない。だが……」

 ヴィルは前回の状況を踏まえて、その時のトマスがどうすべきだったかを説明していく。

「少なくとも、俺達が教会近くに着いた時に、その周辺のクリアリングは済んでいた。その辺りまでは、まず大丈夫だったと考えて良い」

 問題なのはヴィル達もエルフィルも探知していない未知のエリアにトマスが突っ込んでしまった事にあった。

 もっとも、彼の思いつきが誰も予期していない場所で騒いで敵の気を引く……だったのだから未知のエリアに行ってしまった事に筋は通るのだが……。

「通路の角を曲がる時は特に注意しろ。出合い頭なんかじゃいきなり斬られてもおかしくないんだからな。門の先を確認する時はこんな風に……」

 ヴィルは実際に素早く片目を壁際から出したり引っ込めたりする様子を実演して見せる。

「でも、そんな事覚えたって戦いの役には立たないじゃないか。僕は皆の役に立てる様になりたいんだ」

 どうもトマスはせっかちなのか冒険者としての正解を知りたがっている様だ。

 しかし、そんな近道があるはずも無く仮にあってとしてトマス

に出来るとは限らない。

 まるで令和キッズの様な無駄を嫌がる仕草にヴィルは

「冒険者ってのは経験の積み重ねだ。それに、今教えている通路の安全確認はこれからの魔王城攻略の時に必ず役立つはずだ」

 仮にヴィル達が全滅の憂き目に遭ったとしてもトマスが脱出出来さえすれば何とかなるパターンがあるかもしれない。

 レベル50帯のパーティーメンバー達の中でレベル2のトマスでは戦闘力は役に立てないかもしれない。

 しかし、十代半ばで幼さも残るトマスは直接活躍し脚光を浴びる様な分かりやすい英雄像への憧れが大きいのだろう。どうしても地味なヴィルの教育は身に入らない様だ。その原因は……

「僕は魔王をこの手で倒してやりたいんだ! だから僕には余計な事をしている暇は無いんだよ!」

 トマスはそう叫ぶと三匹の動物達をそのままに一人で訓練所から出て行ってしまった。

「俺の言う事なんか素直に聞く訳ないか……」

 だだっ広い訓練所に一人取り残されたヴィルはこれから先の旅に確かな不安を覚えるのであった。

「……お前ら、飯食いにいくか?」

 肝心のトマスが居なくなってしまったヴィルが残された三匹に声を掛けると

「ワンッ!」

「キキッ!」

「クェッ!」

 三匹の即答が帰ってきた。こうしてヴィルは街の屋台に三匹を連れて昼食の為に出向いていくのであった。



(どうすりゃ良いんだよ……)

 トマスとの関係改善に悩むヴィルは三匹を連れて屋台街をトボトボと歩いていた。

「なんか、食べたいモンあったら言ってくれ。でないとこっちで決めちまうからな」

 言葉が通じてるかイマイチ分からないが連れている三匹に声を掛けると

「ワンッ!」

「ウキャッ!」

「クェッ!」

 きちんと返事が返ってきた。ヴィルは三匹の好物など知る由もない。

 だが、三匹ともいつもギルドの適当な盛り合わせを食べている辺り、そこまで気にしなくても大丈夫だろうとヴィルは串焼き屋の屋台に目を付けた。

 ヘルハウンドのクロなら肉、ヤミキザルのモン吉ならとうもろこし、サンドペンギンのペン太なら川魚……と、一箇所で済ませられると安直に考えてみたのだが……。

「ここでどうだ?」

 ヴィルが三匹に尋ねてみると、三匹ともそっぽを向いてしまった。飼い主同様、三匹とも一筋縄ではいかない様だ。

「じゃあ、なにかあったら声掛けろよ。聞いてやっから」

 仕方なくヴィルが屋台街を歩き始めると

「おいおい、天下のヴィルヴィル様が転職でもしちまったのかぁ?」

 不意に誰かに声を掛けられた。振り向くとそこにはガラの悪そうな冒険者の一団がヴィルの方を見てニヤついているのが見えた。

(誰だっけ……?)

 ヴィルヴェルヴィントとして目覚めて日が浅いとは言え、パッと思い出せない辺りそれほど親しい相手では無いのだろう。

 昔からの馴染みだったり悪友だったりしたら話がややこしくなりそうだが、彼等には気を使わなくても平気に思える。

「どこの誰だか知らないが……」

 うざ絡みしてくる冒険者達に一言、言い換えしてやろうとヴィルが一步を踏み出したその時

(こいつは……!)

 彼等と自身の過去の記憶が蘇ってきた。彼等は事あるごとにトマスを虐めたりしていた所謂いじめっ子枠的な集団だった。

 名前は一々覚えていなかったがリーダー格のドレッドヘアーはギルベットとか言っただろうか……?

「お前等、悪い事は言わねぇからコイツ等にもトマスにも手を出すな」

 現時点で経験値が65564貯まっているトマスが何の拍子でレベルアップしてしまうか見当も付いていないヴィルなだけに、トマスを刺激するのは最も避けたい選択肢なのだ。しかし

「なんだよ、天下の勇者様がテイマーなんぞに気を使っていらっしゃるぜ〜!」

「なんだったらそのテイマー君探してきてやろうぜ」

「そりゃ良いや。尻に敷かれる勇者様を拝める良い機会だぜ」

 ギルベット始めの、冒険者達はトマスをここに連れてくるつもりである様だ。それも彼等の事だから力付くになるのは想像に難くない。

「止めろっつってんだろ!」

 彼等の思考回路は単純でヴィルに嫌がらせがしたい。又は弱いものイジメがしたいというものなのだろう。動機に心当たりは無いのだが……。

 ヴィルが彼等に詰め寄ろうとしたその時

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