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王女様

「娘なら兵士達の中からハスヴィル村の警備に向かう志願者を募りに行っておる」

 国王はミリジアから身体を離すと、フィオレット王女の近況について語る。

 魔王軍に襲われたハスヴィル村をそのままにするつもりは無く、しばらくは衛兵による警備を敷くつもりである様だ。

 魔王城に近い位置にある村だけに、王国として人員を出すなければならないと今回の件で自覚したのだろう。

 王国と魔王城はほとんど隣国同士と言っても良い関係性であり、隣国同士であれば利害関係の衝突が起きるのも不自然な話では無い。

 魔王軍は既に全世界相手に宣戦布告をしてしまった後であり、魔王軍の主力であった四天王配下の四軍団はヴィルヴェルヴィント達勇者パーティーによって壊滅させられている。

 現在の状況は勇者パーティーが魔王城に乗り込めば全てが終わるというエンディング目前の消化試合に近い状態なのだ。

 しかし、これはゲームでは無く異世界の現実である。時間と共に魔王軍も新たな動きを見せるし、人間側も勇者任せでのほほんとしている訳にはいかないのだ。

「では、私はフィオレット王女様にお話をお窺いして参ります。それと……」

 ミリジアは何かを思い出した顔を見せて言葉を続ける。

「魔王軍から新たな幹部、四魔将の存在が仄めかされました。王国の皆様におかれましても、ご留意下さいますようよろしくお願い致します」

 ミリジアの言葉にグラント王は深く頷く。ミリジアはそんな国王に対し深く一礼すると、ミノさんと共に謁見の間を後にするのっあった。



「皆様の中にハスヴィル村での警備任務に志願する方はいらっしゃいませんか!」

 フィオレット王女に会いに城の中庭を歩いていたミリジアの耳にフィオレット王女の声が聞こえてきた。

 声は王女だけでは無く、大勢の兵士らしき男性達のどよめく声も聞こえてきている。

 村の警備の為の人員を募っているとグラント王は話していたが……やはりと言うか何と言おうか、もうすぐ全てが終わるであろうタイミングでわざわざ危険な僻地に行こうという物好きはいない様だ。

「どなたも、困っている王国民の為に力を貸そうという方はいらっしゃらないのですか?」

 先程から王女は必死に村の窮状を訴えてはいるが、やはり遠く離れた僻地の村の事など他人事に過ぎないのだろう。

「ハスヴィル村って言ったってなぁ……魔王の城から近いトコだろ?」

「そんな村の警備を今更やるなんて……なぁ?」

「もし魔王軍が攻めてきたら、すぐにやられちまうんじゃないか?」

 そんな場所に命を賭けに行くには彼等にそうさせる理由が乏しかった様だ。

「あんたら、王女様がこうやって必死になって頼んでるのに何とも思わないワケぇ? 私は最前線で命張ってるってのに……良いご身分じゃない!」

 あらぬ方向から聞こえてきた怒鳴り超えに兵士達に動揺が走る。

「言っとくけど、いつまでも王都が安全だと思わない事ね! 魔王軍には四魔将っていう新たな強敵が現れたの!」

 兵士達からの注目を集めたミリジアは彼等が知らないであろう事実を話し始める。

「私ら勇者パーティーが魔王城攻めてる間に、ここに攻めてくるのもありえない話じゃないのよ!」

 ミリジアは存在が不確かな四魔将をブラフに使うつもりであるらしい。

 勇者パーティーが遠く離れている王都で留守番するより、勇者パーティーが近くに居るハスヴィル村での仕事の方が安全だろうという論理である。

「それに、ご無理を言って前線に赴いて頂くのですから……お給料にも配慮はさせて頂きます」

 ミリジアの言葉に乗っかる形でフィオレット王女も危険手当の存在を匂わせはじめた。すると

「第三小隊、ハスヴィル村の警備任務に志願します!」

「第五小隊、同じく!」

「第八小隊、志願します」

 あっという間に三小隊三十名が警備任務に志願してきた。

 三交代で警備を実施させても二十四時間の警備も不可能では無い。

「ありがとうございます! あなた達の献身に感謝致します! 爺! 志願者の皆さんにお仕事の説明を」

 フィオレット王女は実務を爺やに任せると自身はミリジアの所へと歩いていき

「ありがとう、ミリィ! あなたのお陰で助かりました」


ーギュッー


 ミリジアの手を両手で取ると彼女に感謝の言葉を述べながら頭を下げてきた。

「あの、フィオレット王女様。私は一介の魔術師に過ぎません。勿体ないお言葉を……」

「もうっ、私と貴女の仲でしょう? 私の事はフィーで結構です」

 フィオレット王女の口ぶりからするとミリジアとは王女と勇者パーティーのメンバー以上の親密な間柄である事が見て取れるが……。

「ミリィ、私のお部屋においでになって? お話したい事が山の様にありますの」

 こうして、ミリジアとミノさんの二人はフィオレット王女に誘われるがまま、彼女の自室にお邪魔する事になるのであった。



 ミリジア達が王都にて国王や王女と面会している頃、ヴィルは冒険者ギルドの訓練所でトマスのCQBに関する訓練に取り掛かっていた。

「つまり、お前は建物の角を曲がった向こうで敵と出くわしたって訳だ」

 ヴィルはトマスから前回のハスヴィル村での状況をトマスから聞き出していた。

 進路のクリアリング以前にそこに辿り着いた時点でトマス達の存在が敵に知られていた可能性が高い。

 何故なら足音に気をつけるでも無く、三匹の動物達にも特に特別な指示をだしていた訳でも無く、トマスは本当に行き当たりばったりで村の中を進んでいたらしい。

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