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それぞれの日常

「とりあえずトマス。明日は朝イチでシャベル買ってこい」

 今日はもう道具屋がやっていないのを勘案してトマスの三匹の世話は明日からさせる事になった。そうなると

「アリーナ、すまないが今日は頼む」

 必然的に処理は彼女の仕事になってしまうのだが……

「ワンッ!」

「キャキャッ!」

「クェックェッ!」

 空氣を読んだのか、三匹からトイレ希望の声が掛けられた。

「はい、ちょっと待ってて下さいね」

 いつもの事に慣れてしまって自然と席を立つアリーナに続き

「トマス、俺達も行くぞ」

 席から立ちアリーナとの同行を促すヴィルに、トマスもアリーナもキョトンとして彼を見つめている。

「明日からはおまえがやるんだ。処理はアリーナがするにしても三匹の習性くらい知っておいても良いだろ」

 ヴィルの言葉にトマスは不服そうな顔を見せるが

「まぁ、明日からはお前がやるんだ。今日は好きにすりゃ良いさ」

 ヴィルは率先して冒険者ギルドから出ていくのだった。



 冒険者ギルドの外に出てみると、日が落ちたばかりともあって仕事を終えた冒険者達が街に帰ってくる光景が繰り返されていた。

「それじゃ、行きましょう」

 アリーナが人気の少ない街の入り口を見繕うと三匹を先導する様に歩き始めた。

 ヴィルもそんな彼女の後を歩くヴィルだったが、念の為ギルドの入り口を見やるが……トマスが追いかけてくる様子は無い。

(まぁ、ただのトイレの世話だしな……)

 出来ればトマスに付いてこさせるのが理想だったが、無理強いさせても仕方が無い。ヴィルは溜め息を付きながらアリーナの後を追うのだった。



「神聖なる輝きよ、今ここに降り、心と大地を清廉に還し給え……ピュリフィケイション!」


ーパアアァァー


 街外れの人気の無い平地に来ていたヴィル達は、トイレを終えた後処理の為にアリーナが浄化の魔法を唱えていた。

「すまなかったな。これまで気付いてやれなくて」

 魔法を唱え終えたアリーナにヴィルは謝罪の言葉を述べる。

「そ、そんな……! これは女神様のお力ですから……私は特にそんな……」

 ヴィルに頭を下げられたアリーナは首をブンブン横に振って謙遜する。

「そんな事は無い。暑いだって雨の日だってほぼ毎日だったはずだ」

 魔物とは言え生理現象が天候の都合を考慮してくれるはずが無い。おそらく、これまで辛い時は幾度もあったはずだ。

「アリーナの厚意に甘えていたのはトマスだけじゃなく俺もだ。申し訳無かった」

 ヴィルが真摯に頭を下げ続ける彼らしからぬ行動を目の当たりにしたアリーナは

「あ、あの……お気になさらないで下さい。これは……私にしか出来ない事ですから……」

 申し訳無い気持ちにさせてしまったのか、ヴィルに頭を上げる様に促してくる。

 謝罪していたヴィルが頭を上げるとアリーナと目が合った。

「あ……!」

 ヴィルと目が合ったアリーナは反射的に目を逸らしたが、彼女は頬を赤らめながら

「あの……、ありがとうございます。私なんかの事を気に掛けて下さって……。ずっと……見て頂けてたんですね」

 正直、彼女がやってきた事を以前のヴィルヴェルヴィントは気にする事は無かった。

 しかし、アリーナが度々動物達を連れて席を外す光景はヴィルの記憶に確かに残っていた。

 彼女が聖女であるとしても普通の少女である事に違いは無いだろうし、感情もいずれは疲弊して擦り切れてしまうかもしれない。

 死と隣り合わせな冒険者であるからこそ、パーティーメンバーのメンタルケアはきちんとしなければならない。

「あ、ああ。これからも悩みとかあったら遠慮なく言ってくれよ? 皆、大事な仲間なんだからな」

 ヴィルはそう言って冒険者ギルドへと引き返し始める。そんな彼の後ろ姿を眺めながら

(大事な……仲間……ですか)

 アリーナはヴィルの返事にほんの少しガッカリした様な気落ちした様な複雑な表情を見せるのだった。



 ヴィル達がブリムフォードの街で過ごしていたその頃、馬車で三日程揺られて王都グランフェルムに到着していた大魔術師のミリジアと狂戦士であるミノさんの二人の姿があった。

「いや〜、馬車は楽だけど座りっぱなしで身体バッキバキになるわ〜」

「王都着いた。どうする?」

 王都の目抜き通りを前に身体を伸ばしているミリジアにミノさんが行き先を尋ねる。

「まずはフィオレット王女様が無事かどうか確認しとかないとね」

 彼女達が真っ先に向かったのは王族が居を構える王城グランキャッスルだった。

 ミリジアの気掛かりはヴィル達とハスヴィル村の救援に向かった際に途中で行き合ったフィオレット王女の安否であった。

「王女様、ちゃんと直帰してれば良いんだけど……」

 グランキャッスルの入り口を進むミリジア達は衛兵に止められる事も無く顔パスである。

 これは彼女達が勇者パーティーのメンバーであるという事もあるのだが、ミリジアに関しては勇者関係なく顔パスなのだ。

「これはミリジア様、奥の謁見の間にて国王陛下がお待ちしております」

 謁見の間を警備する衛兵ですらミリジアを止める事は無い。


ーギギィ……ー


 左右の衛兵が開けた両扉をミリジアが潜るとその部屋の奥には玉座に座る白く長い髭をたくわえた威厳ある老人のすがたがあった。

 ミリジアとミノさんの二人が彼の前まで歩を進めると

「おお、勇者パーティーの大魔術師ミリジアではないか。主らの事は娘から聞いておるぞ」

 彼はこの国の国王であるグラント王。彼は玉座から立ち上がるとミリジアに握手と抱擁を求めてきた。

 王様にしては不用心に見えるかも知れないが、ミリジアに対する信用の表れとも取れる。

「フィオレット様がご無事で何よりです。それで彼女は今は何処におられますか?」

 また、当のミリジアも国王の行為に嫌な顔を見せること無く自然に受け入れていた。

 抱き締めてくる国王を抱き締め返しながらミリジアはフィオレット王女について尋ねる。

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