魔界からの助っ人
「ま、魔王様ぁ〜! ゆ、勇者パーティーの斥候が不遜にも我が城に偵察に来ておりましたぁ〜!」
息を切らせながら魔王ケイオスブラッドの謁見の間にやってきたルナフィオラは開口一番、エルフィルの事について報告する。
「ほう……勇者パーティーの斥候と言えば名うてのエルフだろう? で、そいつは始末したのか?」
魔王からすれば勇者パーティーの戦力ダウンは喜ばしい報告である。当然、彼の関心はそこになる訳だが……
「それどころじゃ無いんですよぉ〜! あいつら四魔将の設定に疑い持っててここまで確かめに来たみたいなんですよ〜!」
「……で?」
天下の一大事だと言わんばかりのルナフィオラに対し魔王の視線は至極冷ややかだ。
「今、外で待って貰ってるんですけど四魔将の他三人の設定説明しないと私の世間体が一大事なんです〜!」
「そんなんテキトーに答えとけよ。面倒くさい……」
ルナフィオラと魔王には明確に温度差があった。自分の魔王軍参謀長としての世間体が掛かっているルナフィオラからすれば死活問題に近い。
「そんな……もし私が…討ち死にして、魔王様が勇者パーティーと対面したらどうするんですかぁ? 話に整合性無かったら私ホラ吹きになっちゃうじゃないですかぁ!」
「もっともだけど、既に半分ホラ吹いてんじゃねーか」
確かにルナフィオラと話を合わせなければ単なるハッタリとバレてしまのは確かだ。
しかし、正直魔王ケイオスブラッドからすれば四魔将云々は欺瞞工作でしか無い為バレたところでどうでも良いまである。
「分かった分かった。今、魔界の悪魔様に確認してやるからちょっと待ってろ」
謁見の間でピーピーと泣き喚いているルナフィオラを見かねた魔王は急遽、魔族達の天国と同義である魔界にコンタクトを取るのであった。
「あ〜、はい。……そうです。はい……はい……あ、そうですか。それは助かります。お待ちしております」
魔王が魔界にコンタクトを取り始めて数分、明らかに魔王の声の感じが明るくなっていた。
そんな様子を固唾を呑んで見守るルナフィオラに魔王は
「話がついたぞ。魔界の悪魔様が人員を手配して下さるそうだ。ルナフィオラ、どうせだから勇者パーティーの斥候連れてこい」
まさかの上役の登場である。これを人間側で例えるなら女神や天使が下界に降りてきて手伝ってくれるみたいな奇跡なのだ。
その奇跡をエルフィルに直接見せつけて勇者パーティーの戦意を挫く……あわよくば魔王討伐を躊躇させようというのが、魔王ケイオスブラッドの意図なのだが……。
「わっかりました〜! 少々お待ちを〜!」
魔王の意図を知ってか知らずかルナフィオラはファミレスの店員みたいな文言を残して謁見の間を後にしていった。
彼女のテンションの高さはどう考えても自、身の世間体が守られた事による心配事の解消という利己的な理由でしかないのだが……。
「魔王様〜! お連れしました〜! 勇者パーティーの斥候、エルフィルさんで〜す!」
とんぼ帰りで謁見の間に戻ってきたルナフィオラは、両脇に魔族の兵士によって固められたエルフィルを連れ帰ってきていた。
普通に考えれば宿敵である魔王の前に単独で突き出されるなど死刑宣告以外の何物でもない訳だが……。
エルフィルは逃げる素振りも慌てる様子も見せずに言われるがまま従っていた。
(まぁ、襲いかかって来ない辺り、向こうにも考えがあるんでしょ……)
一応の切り札が控えているという安心感も手伝ってエルフィルは向こうの出方を見ようという気になっていたのだろう。
「よくぞ、我が姿に恐れず顔を見せる気になったものだ。矮小なる森の民よ
……その度胸に免じて我が魔王軍の精鋭の姿、その目に焼き付けるが良い!」
ーブウウウゥゥンー
玉座に座っていた魔王の言葉が終わったタイミングを見計らって、魔王の前に三つの黒い渦が現れた。
黒い渦は段々と大きくなり稲妻を走らせながら左の渦の中から背の高い人影が姿を現してきた。
「我が家はトーデスエンゲル、我が大鎌であらゆる人間の魂を刈り取ってやろうぞ!」
渦から現れた背の高い人影は黒いボロ布を纏った骸骨の様な男、その姿は死神そのものだった。
ーシュウウゥゥゥ……ー
死神の口上が終わったら次は右の黒渦から人影が露わになってきた。
今度は明らかな肥満体ではある。しかし、まるっきりの脂肪の塊と言う訳では無く筋肉質なデブとでも言おうか、有り体に言えば動けるデブである。
「我が家はグリンブルスティ! 魔族に逆らう人間どもは俺様の玩具だぁ! グッヘッヘ!」
その姿は緑色のオークとも言うべき異形の姿だった。悪魔羽根と尻尾があるのがオークとの決定的な違いだろう。
次は真ん中か……とエルフィルが視線を真ん中に向けるが今度は中々渦が収まらない。
明らかにさっきまでとは段取りが悪くなってきている。更に
「いきなりアドリブとか無理ですって! せめて名前とか設定とか教えて下さいよ!」
黒い渦の中から女の子の抗議する様な声が漏れ聞こえて来ている。それはエルフィルの長ぃ耳だからこそ聞こえた声なのだが……
ーシュウウゥゥゥ……ー
真ん中の黒い渦が収まると今度は小柄な人影が見えてきた。
「わ、我が名は四魔将軍? 四魔将の一人リリス! ……え〜と……」
次に現れたのは銀髪ツインテールの褐色エルフの様な少女だった。
上半身がガッチリとした金属黒鎧なのに対し下半身は黒のロングブーツのみで、後は黒い水着の様なインナーを着ているだけである。
赤いマントを纏っているのが特徴とも言えるが、若干ルナフィオラとキャラが被り気味である。
しかし、そんなリリスも口上の途中ですっかり止まってしまった。やはり付け焼き刃は駄目だったのか、彼女が本番に弱いのか……謁見の間に微妙な空気が流れ出したその時