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単独偵察

 一夜明けたハスヴィル村の教会では街に帰るヴィル達勇者パーティーを見送りに村人達が集まっていた。

「いやぁ〜、勇者様方。今回は本当にありがとうございました」

 村長さんからお礼の言葉を受けたヴィル達がさぁ帰ろうとなったところで

「ねぇ、私やっぱり魔王城偵察に行ってくるわ。ここからなら近いし」

 エルフィルがそんな事を言い出した。彼女の中ではこのまま街に帰るというのは引っ掛かるものがあったのかもしれない。

 確かにこのハスヴィル村から魔王城は近所と言う程でも無いが歩いて行けない距離でも無い。

「一人でなんて危険じゃないか? なら皆で……」

 皆で行こうと言いかけたヴィルを手で制止したエルフィルは

「皆でゾロゾロ行ったらすぐにバレちゃうじゃない。こういうのは一人で良いの」

 そう言うと彼女は一人で村から出ていこうとしたその背中に……

「エルフィル、無理すんじゃねーぞ」

「エルフィルさん。どうかご無事で……」

 エルフィルを気遣う様にヴィルとアリーナの二人声を掛ける。

「エルフィル、これ持ってって」

 ミリジアからは羊皮紙を蝋で封じた巻物の様なモノがエルフィルに向けて投げられた。それを受け取ったエルフィルが

「何これ?」

「ファイアーストームのスクロール。使う時は気を付けなさい」

 ミリジアに尋ねると、彼女から炎の嵐の魔法が封じてあるとの返答が。

「ありがと。じゃ、ちょっくら見に行ってくるから〜」

 エルフィルはそう言うと魔王城に向けて警戒に走り去っていった。

「俺達はひとまず街に戻ろう。トマスの再教育もしてやらないとな」

 やる事山積みになってしまったヴィルだが、とりあえずブリムフォードの街に向けて出発するのであった。



 約二日後、エルフィルは魔王城が見える位置まで無事に到着していた。

 一度退けたとは言っても、もし魔王軍に後備の部隊が控えていれば村が再び襲われてしまう。

 ヴィルが話していた四魔将……これまで聞いた事の無い魔王軍幹部の存在は、エルフィル達勇者パーティーにとって新たな脅威となっても不思議は無い。

 そんな訳で魔王城の偵察にやってきたエルフィルだったのだが

「あの城……不用心過ぎじゃない?」

 やや遠目に見える魔王城は薄暗い森を抜けた先の荒野にあり、なぜか正門が全開に開放されている城は異様な静けさを見せていた。

 門番のオークは居るものの彼等は呑気に掃き掃除をしている。彼等の意図を探るためエルフィルが耳を澄ませてみると……

「ルナフィオラ様も人使い荒いブヒィ」

「勇者達がいつ来ても良い様に綺麗にしておけなんて面倒ブヒィ」


ーザッザッザッ……ー


 オーク二匹はボヤきながら掃き掃除を続けている。これは劣勢側が優勢な敵軍を迎え撃つ時に使われる事がある空城の計と呼ばれる戦術である。

 このまま攻め込んだら甚大な被害を被るかもしれないと相手に思わせるハッタリに近い心理作戦なのだ。

「う〜ん……姿消してれば中には入れそうね」

 エルフィルは光の精霊ウィル・オー・ウィスプを呼び出すと、自身にインビジビリティの魔法を掛ける。


ーブウウウゥゥンー


 これは光の屈折率を操作して相手から視認されなくなる魔法である。

 しかし、素早い動きには光の屈折処理が間に合わなくなる為、徒歩程度の速度が精々なのだ。

 こうしてエルフィルはオーク達が掃き掃除をしている正門から中へと忍び込んで行く。

(こいつら、何考えてるのかしら? まぁ、楽だからいいんだけどね〜)

 異世界人であって特に戦術家でもないエルフィルにルナフィオラの空城の計など知る由もなく彼女の心理戦は通じない。

 結局、ルナフィオラは勇者パーティー斥候の正門素通りという失態を図らずも犯してしまうのであった。



(魔王城……思ったより簡単な造りみたいね)

 静かに音もなく歩いているエルフィルは魔王城の誰にも見つけられる事無く偵察出来ていた。

 幸いな事に魔王が居るであろう玉座の間に続く大きな両開きの扉も目の前にある。

 正門からほぼ真っすぐに続く通路にはトラップも無く、拍子抜けしてしまいそうな程簡単に来れてしまった。

(これで終わりじゃないのよね……)

 しかし、彼女の偵察の今回の目的はマッピングでは無く敵情把握であり、彼女達がまだ知らない四魔将の情報収集なのだ。

 いくら姿を消しているとは言え、完全に安全で無い事を熟知しているエルフィルとしては不用意に大勢が居る場所に近寄る訳にもいかない。

(あの辺で良いかな……)

 エルフィルは魔王が入っていそうな両扉の前で辺りを見渡すと、適当な通路の物陰を見つけそこに隠れる事にした。

(これで四魔将ってのがいつ来ても分かるわね。私としてはそんな連中居ないと思うんだけどね〜)

 彼女が魔王城にわざわざ偵察にやってきたのは初耳である四魔将の存在を確認する為であった。

 ぽっと出の魔王軍の幹部など居るはずが無いと、彼女自身は信じていなかった訳だが……

(ヴィルのやつが気にしてるんだから仕方ない……か。まったく、世話の焼けるやつなんだから……)

 パーティーリーダーであるヴィルが気にしてるから確認しに来た様なものなのだ。

 たから、自分が四魔将の有無を確認出来ればヴィルの役に立てたと言える訳だが、こうして彼女が単独偵察をするに至ったのも自身の有能さアピールしたかっただけなのだ。

(それにしても……誰も来ないわね)

 しばらく息を潜めて扉を見守る事数時間、訪問者はおろか退出者もおらずここが魔王の部屋なのか心配になってくる程だった。

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