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魔王城

 勇者一行と戦い、落ち延びた魔王軍の一団はその日の夜には無事に魔王城デモンズガーデンへと帰還していた。

 怪我を負った魔物はそれぞれが救護室へ、無事なものは食事を摂ったり休んだりとその辺りは人間社会と大差は無かった。

 当然、組織の長にはそれなりの責任が伴うものであり、それは魔族とて組織である以上は逃れられない摂理であった。

「再編なった魔王侵攻軍を預けたというのに、橋頭堡を築くどころかとんぼ返りとは何事だ? ルナフィオラよ」

 薄暗い謁見の間、所々に魔法の明かりが灯された部屋の奥……髑髏をあしらった玉座に座る大きな人影があった。

 筋肉質の肉体を覆う黒の全身鎧に赤マント、黒く立派なヤギの角を携えた短髪白髪頭の魔族の大男……魔王軍の首領たる魔王ケイオスブラッドである。

 彼は自身の目の前に跪いているルナフィオラに対し

「弁明があるなら聞いてやろう。出来るものならな」

 詰問口調で厳しく問い詰める。そんな魔王に対し後ろに並べている魔族の兵士達も同様に頭を下げている中彼女は

「申し訳ございません、魔王様。勇者ヴィルヴィルヴィントですが、事前の情報と違いバカではありませんでした」

「ヴィルヴェルヴィントな? 情報は正確にしろ。で?」

 細かいミスだがきちんと訂正しておかなければ後々面倒な事にもなりかねない。魔王は一応勇者の名前を訂正するが……

「失礼しました。その勇者ヴィル……ヴェルヴェントが賢しい奴だったもので、今回は撤退を優先させました」

「まぁ、確かにウチは戦力に余裕ある訳じゃないからな。四天王も配下の軍団も壊滅してたしな」

 魔王ケイオスブラッドの言葉にルナフィオラがピクッと反応を見せる。そして、それを見逃す魔王では無かった。

「ルナフィオラ、お前……我に何か隠しておらぬか?」

「い、いえ……ととと、特に何も……」

 魔王の質問に即答するルナフィオラだが、その目は完全に泳いでいる。

「今のお前は四天王代理だ。それは勇者達にちゃんと伝えたんだろうな?」

「え〜と……まぁ、そんな感じでサラッと……?」

 更にガン詰めする魔王の問いにルナフィオラの歯切れは悪い。

「本当の事を話せ」

「は……はい。四天王代理じゃカッコ悪いから……四魔将って……見栄張りました」

 魔王の圧に耐えかねたルナフィオラは仕方なく四魔将を自称した事を魔王に打ち明けたが……

「お前のそういうトコだぞ! お前を四天王の正式メンバーにしなかったのは! 自分を大きく見せようとばっかしてるから!」

「お待ち下さい、魔王様! これは決して見栄だけでは無く、我が軍にはまだまだ余力があるというブラフでして……それなら盛った方が良いかなぁって……」

 ルナフィオラはそれてもハッタリを踏まえた魔王軍の為の行動だったと自身の正当性を主張したが……

「だからって四魔将は盛り過ぎだろ! 後三人どーすんだよ!

今、勇者達が攻めてきたら!」

「そ、それは交代で休暇とってる事にすれば解決ですよね」

 まぁ、無くはない話ではある。部隊そのままに激務の司令部が交代制というケースも稀にある。しかし

「四人中三人が休暇ってどんなローテだよ! 皆で夏休みか! こんな事ならお前副将にした方がマシだ!」

 魔王は新たに三人の幹部を都合しなければならない理不尽に頭を抱えている。一方のルナフィオラは

「え、私が副将……!」

 まさかのNo2昇格にまんざらでもない顔で照れている。

「照れんな! そういう意味じゃねーから! ただの人数の問題だ! もうお前下がれ! 勇者強襲に備えとけ!」

 微妙に話が噛み合わないルナフィオラに匙を投げた魔王は彼女に勇者対応を委ねるのだった。

「はっ! 魔王軍参謀ルナフィオラ! 謹んで御命令をお受けします! 往くぞお前達!」

 やや嬉しそうな表情でルナフィオラは部下の魔族の兵士達を引き連れ謁見の間から退出していく。

「……今のところ使えるのアイツだけだもんなぁ」

 意気揚々と去っていくルナフィオラ達を見送った魔王は、心の中で今勇者が攻めてこない事を神に祈るのであった。



 ハスヴィルの村での夕食を終えた勇者パーティーは焚き火を囲んで、今後の方針について話し合っていた。

「魔王軍逃げてったんだしさぁ、このまま攻め込んでも良いんじゃない?」

 ミリジアは魔王城への早急な攻勢を主張しており隣のミノさんもウンウンと頷いている。

「確かに今が好機かもしれないけどさ……」

 ヴィルとしてもさっさと魔王を倒してトマスとの関係を清算したいのだが、逃げていった魔族の指揮官ルナフィオラが話していた内容が引っ掛かっていた。

「俺達が知らない魔王軍の幹部が待ち構えていたら……返り討ちに遭うかもしれないだろ?」

 ルナフィオラが語った四魔将設定、単なる彼女の見栄の産物なのだが、彼女自身が中途半端に実力者だった為かヴィルの中に少なくない疑念を残していた。

「私、これでも長い事生きてるけど魔王軍の四魔将なんて聞いた事も見た事も無いわよ?」

 長命なエルフであるエルフィルが知らないとはよっぽどだろう。

 一応、トマスに任せているアイテム箱は手つかずな為、継戦能力は十分だから魔王城に攻め込む事は出来るだろう。

 が、それはあくまで魔王城に居るのが魔王だけという前提である。

「敵の話を鵜呑みにするのも何だが、俺はここで突っ込むのは止めるべきだと思う。攻めるなら情報収集を終わらせてからでも遅くは無いと思う」

 早く魔王を倒したいのは山々だが、ここで焦っても仕方が無いとヴィルは街に帰る判断を皆に伝えるのだった。

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