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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第一部 魔王討伐編

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一宿一飯

「あの……このまま私達が帰ってしまってこの村は大丈夫でしょうか?」

 アリーナはこのまま街に帰る事に疑問がある様だ。彼女は比較的魔王城に近くにある村の安全が気になるらしい。

 確かに四魔将ルナフィオラは退かせたが、彼女が率いていた人員そのものにはまだまだ余力があった。

 もし今回の退却が偽装撤退だとしたら……頭が回るフシがあるルナフィオラであればその位の事はしてきても不思議は無い。

(ふむ……)

 確かに奴等に打撃は与えたし今のところは魔王軍の影は感じない。しかしこれから再び戻ってこないとも限らない。

 おまけに時間はもう夕暮れか近い。今から街に帰ったとしても、おそらく今日の宿を探すのも一苦労だろう。

「よし、じゃあ一宿一飯の宿を頼めるか聞いてくるわ」

 ヴィルは皆に片腕を立て言葉を残すと村人達の所へと去っていくのであった。



 その夜、ヴィル達パーティー一行は一夜を村の教会にて一泊させて貰える事となった。

 村人達からはパンとチーズ、スープの持て成しを受ける事となったが、魔王軍に襲われた村からすればこれだけでも大変なハズだだ。

 しかし、村人達は嫌な顔をする事無く精一杯の対応をしてくれていた。

 教会の入り口付近で焚き火を囲んでヴィル達皆で夕食を摂っていると

「ワン! ワン!」

「キキィッ!」

「クエッ!」

 不意にトマス配下の魔物三匹が鳴き始めた。すると

「すみません。今、行きますから……」

 アリーナが席を外し街の外へと三匹を連れ出していった。それを見たヴィルは

(そういえば……)

 これまでの生活で何故かアリーナが三匹を連れ出して何処かへ行くのを見てきたのを思い出していた。

 ヴィルヴェルヴィントだった頃はそんな事を気にする事が無かった為かそこから先に何があるのかは分からなかったが……

「ちょっと外すわ」

 慣れた様子で街の外へと向かうアリーナの後をヴィルは追い掛けるのだった。



「神聖なる輝きよ、今ここに降り、

心と大地を清廉に還し給え……

ピュリフィケイション!」


ーパアアァァー


 アリーナを追って街の外にやってきたヴィルは彼女が城下の魔法を使っている光景に出くわした。

「あ、ヴィルさん……! どうされたんですか?」

 魔法を発動させ終えたアリーナがヴィルに気が付いたのか意外そうな顔をしながら尋ねてきた。

「あ、いや……いつもそいつら連れてどっか行ってたみたいだからさ」

 頭を掻きながら答えるヴィルは三匹の…魔物達の地面の一部が浄化されていくのに気が付いた。

「アリーナ。お前、もしかして……」

 彼女が三匹を人気の無い場所に連れてきたのは三匹のトイレ処理をする為だった様だ。

「これ、私じゃないと出来ませんから……」

 異世界のそれもペットのトイレ事情となるとシャベルで掬ってビニール袋にポイと言う訳にはいかないのは分かるが……

「トマスのヤツ、ずっとアリーナに任せきりなのか?」

 ヴィルが尋ねるとアリーナは少し恥ずかしそうに静かに頷く。出来る事が無いにせよ完全に他人任せというのは……

「これもトマスに注意しなきゃならないか……」

 ヴィルは、ペットを飼うだけ勝って世話をしない小学生の子供に注意しなければならない保護者の心境だった。

(今なら大丈夫か……?)

 今、ここに居るのは三匹を除いてアリーナと二人きりである事を確認したヴィルは

「な、なお? もし病気になったら……どうすりゃ良いんだ?」

 先日から気になっていた、心配事の解決法を専門家であるアリーナに尋ねてみた。

「え……ヴィルさん? どこかお加減でも……? 私で良ければ見せて下さい!」

 ヴィルが話を打ち明けるとアリーナはやや前のめりになってヴィルに迫ってきた。しかし

「あ、いや……そこまで深刻じゃ……ないとは思うんだが……気になってさ」

 アリーナに対応するヴィルの歯切れは悪い。頭を掻きながら大事じゃないと取り繕うヴィルが彼女にすんなり打ち明けられないのには事情があった。

(まさか、性病持ってるかもなんて……言えないよなぁ)

 ヴィルがこの身体の主人格と目覚める前のヴィルヴェルヴィントであった頃、彼は娼館通いをしていたらしい。

 ここは当然マトモな避妊具なんて無いであろう異世界である。そんな環境では病気の一つや二つ貰ってしまっていても不思議は無い。

(見返り無く性病貰ってるなんてどんな罰ゲームだよ! そんな勇者が居てたまるか!)

 ヴィルが我が身に降りかかっている理不尽な現実に憤慨していると

「ヴィルさん、教会でお祈りされてみては……どうでしょう? 女神様に声が届けばお聞きになって頂けるかも……」

 アリーナからの提案は神頼みだった。普段ならオカルトか何かとして取り合わない類の話だが……

「それってどこの教会でも良いのか?」

 ヴィルは既に女神と相対し会話まで交わしている。神の存在に対し疑う余地などどこにも無かった。

「そうですね。教会では女神様が良く私達の声をお聞き下さいますので……」

 アリーナは自身の経験から教会での懺悔や祈りが女神に繋がる方法であると説いてくる。

「ありがとう。帰ったら神様に祈ってみるよ」

 悩みの解消に道筋の立ったヴィルがアリーナにお礼の言葉を口にする。

「そ、そんな……ヴィルさん、街に戻りましょう。子の子達も用事は済みましたから」

 腰の低い今のヴィルに慣れないのか、アリーナはやや照れながら村へ戻るのを提案してきた。

 こうして二人は三匹を連れながら皆の居る教会へと帰っていくのだった。

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