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泥被り

「な、なぁミリジア? ここじゃ人の目もあるし……街に帰ってからにしないか?」

 他人の前で叱るというのは人に対する叱責の仕方としては悪手である。

 それも踏まえてのヴィルの提案だったのだが……

「あんたこそが真っ先に言うべきでしょ! こっちは命掛かってんの! 大した理由も無しに作戦潰されちゃ困るのよ!」

 ミリジアのトマスへの怒りは収まらずヴィルにまで延焼してきそうな勢いだ。

 しかし、ここでミリジアの思うままに叱責させたらトマスのパーティーへの心象が修復不可能なまでに悪化ししまいかねない。

 トマスがキレて自分から出て行くなんて事になってしまえば全ては御破算だ。

 とは言ってもトマスを追い出せない理由を一から十まで話すのも手間ではあるし、何より信じてもらえるかが分からない。

 トマスがあと経験値を一でも積んだらレベルアップして、全種族絶対隷属というチートスキルを入手してしまう可能性が大いにある事。

 そして、その矛先が自分に向くかもしれないという事も……下手したら今の状況は、パーティーメンバー全員が恨まれていてもおかしくは無い。

「次からはちゃんと言って分からせるからさ。エルフィルとも話したんだ。街に戻ったら俺がトマスの再教育するって」

 ヴィルがそう言いながらエルフィルに目配せをすると

「そうよ。トマスをどうするかはそれからでも良いんじゃない? 第一、今からポーター探して仕込むの面倒でしょ?」

 エルフィルはかなりのナイスアシストを見せてくれた。二人に説得されたミリジアは

「ま、まぁ……二人がそこまで言うなら矛を収めてあげても良いけど……」

 流石に二人にそうまで言われてはバツが悪いのか、トマスを責めるのを止めてしまった。

「そういう訳だ。トマス、街に帰ったら冒険者ギルドの訓練所に顔出せよ」

 ヴィルがそう言って話を纏めようとしたところ

「なんで今更訓練所なんだよ! 僕はこれでもベテランなんだ! 新入りと一緒にするな!」

 この期に及んでヴィルの提案すら拒否してきた。そんなトマスにヴィルは


ードガッ!ー


「うわっ!」

 ヴィルは正座しているトマスの腹に蹴りを入れて彼を蹴り飛ばした。

「何をするんだ! パワハラだぞ、冒基に訴えてやるからな!」

「好きにしろ。その代わり、俺もお前の失態を洗い浚い報告してやる」

 現状のままでは関係の修復に繋がらないと判断したヴィルは賭けに出るしか無かった。

 このままトマスの勝手を黙認していたらこのパーティーそのものが崩壊してしまう。

 かと言って、パーティーメンバー達に肩入れし過ぎる訳にもいかないヴィルは相当に加減した蹴りを食らわせてでもトマスの意識改革に踏み切るしか無かった。まずは

「今回の戦闘だけでも命令無視、独断専行、機密保持の失敗の三コンボだ。その上でこちらが提示した改善案にも従わないのであれば……どうしようもないよな?」

 ヴィルの話にトマスは少し考えた後

「それは違うんだ! 少しは話を聞いてくれたって良いじゃないか!」

「だから、訓練所で話を聞いてやるって言ってんだ。こんな公衆の面前でパーティーの言い争いでも披露させる気か? 少しは皆の世間体も考えろ」

 自身の正当性を主張しようとするトマスに、ヴィルは場所が適さないとして冒険者ギルドに帰ってから話を聞くと尚も彼に訓練所に来る様説得を試みる。

「わ、分かったよ。でも、僕だって考え無しに動いた訳じゃないんだ。皆の役に立とうと思っただけなのに……」

「あの……ヴィルさん? 私にお話って……?」

 村人達の治療を終えたらしいアリーナがヴィルに話し掛けてきた。確かにヴィルは彼女に聞きたい事があるのだが、パーティーメンバーが皆居るこの状況では少し話し辛いプライベートな内容なのだ。

「あ、あぁ……それ街に帰ってからにしたいんだ。それよりトマスの奴に付いててやってくれないか? また喧嘩しちまってな……」

 アリーナばかりにフォローを任せるのは心苦しいが他に適任が居ない。ヴィルは真摯に頭を下げて

「すまない、アリーナ。お前にしか頼めないんだ」

「そんな、ヴィルさん頭を上げて下さい……!」

 多分ヴィルヴェルヴィントとしては非常に珍しい行動だったのだろう。

 しかし、現世で社会人でもあった今のヴィルにはごくごく自然な行動だった。

「それじゃ、俺は村長さんに街に帰る事を伝えてくらぁ。皆もそれで良いだろ?」

「あんた……本当に変わった? そんなの私達に確認しないで勝手に決めてたじゃない?」

 初めての仕事だったので念の為に皆に確認したのだが……今までのヴィルからすれば意外過ぎる行動であったらしい。それはエルフィルだけでは無く

「あたしも別に街に帰るで良いけどさ。ヴィル……あなた悪いものでも食べた? なんか怖いんだけど」

 ミリジアも同意見である様だ。別にヴィルにとっては自身が転生者である事を隠す必要は無いのだが……やっぱり話したところで信じてもらえるとは思えない。

「ヴィル、多分 大人に なった」

 ミノさんが片言で鋭い意見を口にした。確かに元の十代後半のヴィルヴェルヴィントよりは元社会人の今のヴィルの方が大人なのだから、ミノさんの言う事に間違いは無い。

 そうして皆が街に帰るのに異論が無いとしたその時だった。

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