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世界を救う勇者なんですが役立たずを追放したら破滅するから全力で回避します。  作者: 大鳳
第一部 魔王討伐編

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魔族の少女

「この四天王の一人であるルナフィオラが直々に相手をしてやろう。掛かってくるがよい。……ヴィルヴィルヴィント」

 余裕たっぷりな態度ではあるがヴィルの名前を呼ぶところだけ自信少な気に迷いながら口にし出した。

「いや、俺の名前ヴィルヴェルヴィントなんだが……それに四天王はすでに四人全員倒してるんだけど。お前もしかして……」


ービクッ!ー


「ぬうっ!」

 ヴィルは自身の名前と四天王についてルナフィオラに一応問い質しておく事にした。

 ルナフィオラもその点に触れられたく無かったのか何故か動揺している。

「お前、もしかして四天王の五人目とか言うつもりじゃねぇよな?」


ーギクッ!ー


「んがっ!」

 四天王なのに五人いるというネタはヴィルの前世である世界では比較的メジャーとなっている。

 割と擦られ気味なネタを自信満々に振る舞うルナフィオラにヴィルはツッコまざるを得なかった。

 一方、ルナフィオラもルナフィオラで内心ではかなり動揺している。

(な……名前間違えた〜! 人間の名前など紛らわしくて一々覚えてられるか!)

 威厳ある魔王軍の幹部として勇者を威圧するつもりだったのに肝心の勇者の名前を言い間違えてしまった、しかも自信満々に。

 これでは面目丸潰れだ。おまけに四天王五人目ネタも既に看破されてしまっている。

 全てが読まれてしまったのかと動揺したルナフィオラは

「ふ……四天王など魔王軍の幹部としては小者。妾は魔王軍の四魔将ルナフィオラであるぞ!」

 精神的優位を保とうと即興で新たな設定を作り始めた。そこで面食らってしまったのはヴィルである。

 まさか四天王の上の存在があるとはしかも名称から考えてルナフィオラ以外に三人も……。

(こいつ以外に後三人……魔王倒して終わりだと思ってたってのに……)

 いきなりゴールが遠のいた感覚にヴィルは胃が痛くなってきていた。

 今回ですら自分勝手な行動で自爆したトマスの手綱をこれからも握りながら旅を続けなければならないのかと……。

 自分はともかくミリジアやエルフィルからはまた不満が出そうだと……ヴィルは今から頭が痛くなってきていた。

「どうした? ヴィルヴィルヴェント! 今更魔王軍の恐ろしさに恐れ慄いとるのか! アーッハッハッハッハッ!」

 目の前のルナフィオラはヴィルが攻撃を止めた事を自分への恐れと勘違いしている、しかもまだ地味に名前を間違えている。

(これは……指摘しない方が良いのか?)

 ヴィルはこの時改めて萩原と荻原で間違われる人の気持ちが分かった気がしていた。

「俺の名前はヴィルヴェルヴィントだ!」


ーヒュンヒュンヒュン!ー


 ヴィルはルナフィオラが間違いに気付く事を願いつつ三連撃を彼女に打ち込むが


ーキンキンカキーン!ー


「ヌルい、ヌルいぞ! ヴィルヴェルヴェント! その程度で四魔将たる妾が倒せるものか!」

 三連撃はいとも簡単に両手の爪で防がれてしまった。圧倒的に余裕を見せ付けるルナフィオラだが……

(気付けよ! せっかく名乗ってやったのに聞いてないのか、コイツは!)

 名前を間違われたままではどうにも締まらない。そんな複雑な思いを抱えたままヴィルがルナフィオラと戦っていると

「ルナフィオラ四天王代理! 負傷したオーガ達の退避終わりました!」

 魔族の兵士が報告に現れた。しかし、それを聞いたルナフィオラは

「敵の目の前で役職まで口走る奴が居るかぁ!」


ースパアァァン!ー


「んげえっ!」

 ルナフィオラが兵士に後ろ回し蹴りを決めると、兵士は綺麗に吹き飛んでいった。

 確かに彼女の言う事はもっともかもしれないが……正直、今更感がある。しかも彼女は四天王代理であるらしい。

「コホン、え〜……ここは引き上げてやろう、ヴィル……ヴェルヴェントよ」

 ルナフィオラは少し顔を青くしながらヴィルに話し掛けてきた。どことなく目が泳いでいる彼女は恐らく四魔将が自称である事がヴィルにバレたと思っているのだろう。

「そ、そうか……、次は決着を付けてやるぞ。四魔将ルナフィオラ」

 ヴィルは少し気を使って彼女の設定に乗っかる事にした。そんなヴィルの言葉を聞いたルナフィオラは

「そ、そう! 次こそはお前達に地獄を見せてやろうぞ! 首を洗って待っておるが良いわ!」

 少し声のトーンが明るくなり、どちらかと言えば屈託の無い笑顔を浮かべて退却していくのだった。



「なんとかなったわね〜、あー、つっかれたぁ〜!」

 ルナフィオラ達、魔王軍が撤退するのを見計らってヴィルの所にやってきたミリジアが


ーバシッバシッ!ー


 伸びをしながらヴィルの背中をぶっ叩いてきた。

「いてぇーな、何すっだよ?」

 やや、訛り気味に返すヴィルに

「魔族取り逃がすなんて、アンタいつからそんな甘ちゃんになったのよ」

 ミリジアからのダメ出しが入る。中身が違うヴィルの行動が引っ掛かったのかもしれない。

「魔族統率してる奴殺したら残りの魔物どうすんだよ。打ち漏らし多かったんだから、無秩序に暴れ出す事も考えたら、素直に帰ってもらった方が良いだろ?」

 初手のミリジアの魔法で一網打尽に出来ていれば、結果も変えられたのだろうが……こうなってしまったのも仕方が無いというのがヴィルの考えだ。

「ふ〜ん……、まぁ村は救えたんだし良しとするけど……」

 ミリジアがヴィルを見る目は疑問が混じっている。

(魔族皆殺しのコイツも少しは成長したのかしら……?)

 そんな事を考えているミリジアとヴィルに

「ねぇ〜、一体何がどうなっちゃったの〜?」

 民家の屋根の上からエルフィルが声を掛けてきた。彼女は村の中に魔物が残っていないか探索してくれている様だ。

「魔王軍追っ払ったから、エルフィルはそのまま村の安全確認してくれ。俺達も手分けして回るからさ」

 ヴィルがエルフィルに簡単に指示を出していると


ーガチャガチャー


「皆さ〜ん、お怪我をされてる方は居ませんかー?」

トマスの道具入れを背負ったアリーナがヴィル達のところにやってきた。

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