殺戮の救世主
死者の行進は続き、各地で戦火が広がる中でナイトの行動は明確に研ぎ澄まされていった。
これまでに屠った幾百、幾千の命の対価、その全てを帝国の命で持って贖わせることが、最大の償いなのだと、ナイトは武器を構える。
彼は安堵していた。まだ、戦える。まだ、この怒りをぶつける事のできる相手がいることに。そして彼は気づいていなかった。戦場の中で戦い続けること、それこそが彼の中で手段が目的に代わりつつあることを。あらゆる準備をしてきた、その時間が無駄にならないことに幸せを感じていた。
ナイトは濁流のようにやってくる帝国兵を次から次へと、斬り伏せて行く。ある時は仲間の援護をもらい、ある時はザバーニャが空中から火炎放射を放ち、火の海になった戦場を駆け抜けていく。他者の命を奪うことによる支配欲と安堵の共存。彼にとって至上の幸福とは戦場にこそあったのではないかと、その人間性を己が魂に訴えかける。
「全員だ。全員殺す」
ゴーレムの操縦桿は前に倒されたまま引かれることはない。狩り尽くす、自身がどのような罪に問われようとも。そのような問答は無意味と知った頃から、もはや彼の中に迷いはなかった。
五万の軍勢に数百の軍勢で挑むことなど、無謀を越えた戦いだ。だからこそ、生存を諦め、死を振りまくことに専念することができる。
屠殺、滅殺、殺戮。あらゆる死が蔓延し続ける戦場で、血染めのゴーレムは躍動した。帝国兵はゴーレムから異端核保持者まで数多くナイトの前に現れたが、躊躇わなくなった彼にとって、彼らは風の前の塵に等しく、悉くがその歴史の刹那に消えて行く。
「あぁ。終わる、終わってしまう。全てが、全てが灰に」
気づけば、ゴーレムは血に塗れ、周囲には敵とも仲間とも区別できぬ死体の山を築いていた。その中の一つから、這い出るように髭の男が死体の中で蠢く。
「アァ……まだ生きていたのか」
ナイトはもはや、自分がどうなっているのかさえ分からない。常軌を逸した軌跡を描いて、動かした機体の中身がどうなっているかなど、想像に難くはない。しかし彼にとってもはや肉体という概念すら気迫になりつつあった。
どうせ分裂すればいい。回復の霧チートがある。そう思えば思うほど、彼は人の道を逸れていく。
「お前のような存在が、なぜシュヴァルツ諸侯同盟に与する……お前は何だ」
ダニカは血を吐いて跪く。正体不明。動機不明。なぜこのような存在が戦場に現れたのか。彼は本当に理解できない様子で、縋りつくように訊いた。
「私は……間違っていたのか?」
戦略も戦術もあったもんじゃない。あるのは、圧倒的な理不尽に潰されるという絶望のみ。この戦いで、ナイトが行った殺戮はそういうものだった。殺戮チート、それが意味する最大の理由は、使えば使うほど人間の精神を蝕むというもの。その効果に本人は気づかず受け入れ、使い続けた。
これはそうして生まれた結果だった。周囲に仲間はいない。どこかで朽ち果てたのかも知れないし、彼一人がツッコんだせいで、その皺寄せを食らっているだけかもしれない。しかしナイトの復讐という点では、この男を殺したその瞬間、終わりを告げるのだ。
「神にでもなったつもりか……貴様……答えろ」
「俺が……神? 違うな、俺は救世主だ」
ナイトはダニカの首を刎ねた。




