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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章後編:護身竜の村奪還作戦【完結編】

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Alter81. 約束

秋晴れの空の下、プラザ・デル・ソルを歩く二つの影があった。


 一人は、私服姿のグスティ。

 今日は珍しく、全ての分身体を解除した「完全体」だ。

 千の人格、千の思考。それら全てが、たった一つの目的のために統合されていた。

 ――ザバーニャとの、デートである。


 もう一人は、頭から顔布を被り、隠しきれない高貴なオーラを放つ竜の巫女、ザバーニャ。

 布越しでも分かるほど不機嫌な彼女の横を、グスティは上機嫌で歩いていた。


 千人の自分が満場一致で可決した議案。

「今日は生産活動を全て停止し、彼女と散歩をする」

 これほど無駄で、これほど贅沢な時間の使い方はなかった。


「……アンタ、よく私を誘えたわね」

「いいだろ、たまには。天気もいいし、話したいこともある」


 隣を歩いているだけで、彼女から発せられる熱気が伝わってくる。

 最近習得したという『纏衣』の影響か、今日の彼女は陽炎のように揺らめき、周囲の気温を少しだけ上げていた。

 それが、グスティには心地よかった。


「御託はいいわ。アンタ、裏で何をしているの?」


「話してもいいが、その前に確認しておきたいことがある。巫女様の優先順位だ。一番は身近なイナンナ、これは間違いないな?」


 ザバーニャは無言で頷く。


「じゃあ、次だ。護身竜の村の民と、この都市の人々。巫女様にとって、その二つは等価か?」


「当たり前でしょ」


「じゃあ、どちらかしか助けられないとしたら?」


「……何を言ってるの? そうはならないわ」


「仮の話さ。戦いを起こすなら、負けた時のことも考える。それが上に立つ者の責任だろ」


「アンタね……戦う前から負けを考えるの?」


「可能性の話をしているだけだ。民衆を束ねるなら、最悪の事態を想定して動くのが義務だ」


「支配者気取り?」


「否定はしないさ。現に、巫女様のカリスマ性を利用して世論を動かしたのは俺たちだ」


 グスティは淡々と告げた。

 叙事詩の英雄のように仕立て上げられた彼女。その虚像と実像のギャップに、ザバーニャは深い溜息をついた。


「……勘弁してよ」


「だからこそ、巫女様には選択の時が来る。敵の少年兵を殺し、味方を見捨てる冷徹な判断が必要になる時がな。だから聞いておきたかったんだ。巫女様が本当に守りたいものを」


 そこに「自分グスティ」が含まれていないことは、聞かなくても分かっていた。

 この感情は、どこまで行っても一方通行の献身だ。

 だが、それでいい。


「……アンタがコソコソ動いてるのも、それに関係してるの?」


「ああ。俺は巫女様ほど視野が広くない。だから決めてあるんだ。何があっても、巫女様とイナンナ、村の皆だけは絶対に守るってな」


「帝国に寝返る気――んぐっ!?」


 物騒な単語が出そうになり、グスティは慌てて彼女の口を覆った。そのまま路地裏の人気のない場所へと引き込む。


「それも可能性の一つとしては考えた。だが、最後の手段だ。俺には、もっと巫女様好みの『プランA』がある」


「……プランA?」

「ああ。大虐殺ルートだ」


 グスティは笑みを消し、低い声で告げた。

 深夜の天変地異。透明化した巨岩による質量爆撃。そして、逃げ惑う敵を一方的に狩る透明な兵隊たち。

 最も効率的で、最も慈悲のない殲滅戦。


「いいじゃない。それの何が不満なの?」


「……以前、森で会った人魚を覚えているか?」


「ええ。忘れもしないわ」


「あいつレベルの怪物が、もし十人いたらどうなる? 空から岩が降ってきても、奴らは死なないかもしれない。そうなれば泥沼だ」


 一撃必殺。

 相手に名乗りを上げさせる隙すら与えず、墓場へ直行させる。それが心労も少なく、相手も苦しませない、絶対条件だった。

 反撃の芽を摘むための準備。そのために、彼は奔走しているといえた。


「……アンタ、てっきり尻尾巻いて逃げるつもりかと思ってたわ」

「ま、本音を言えばそうしたいけどな」


「……はぁ?」


「だが、俺の肩はもう重くなりすぎた。やるしかないんだよ。だからもう少し、頑張れるか? 巫女様」


 グスティの問いかけに、ザバーニャは苛ただしげに顔を背けた。


「いっつも上から目線なのが凄くムカつくけど……。何か策があるなら全部話しなさいよ。まだ隠してることがあるんでしょ?」


「こんな場所で話せることじゃない。もっと詳しく知りたいなら、部屋に戻ってからだ。……流石に足先が冷えてきた」


「じゃあ何で外に連れ出したのよ。わけわかんない」


「単純に、巫女様と二人で散歩したかっただけだぞ?」


「…………はぁああ?」


 ザバーニャは大きく目を見開き、次いで盛大な溜息をついた。


「ああもう、いいわ。アンタについて考えるのは時間の無駄みたい。あぁ、本当にムカつく……!」


「イナンナに土産でも買って帰るか」


「……そうしましょ」


 不機嫌そうに、けれど離れようとはせずに歩き出す彼女の背中を、グスティは千人分の幸福感と共に追いかけた。


今はとにかく、奪還編が終わるまでを目指して書き進めます。



それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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