Alter.80 ゴーレムの造り方♪
実収の節 10/15 22:00
シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド
格納庫
設計図を手にしてから半月。
帝国軍の侵攻がいつ始まってもおかしくない緊張感の中、ナイトの準備は最終段階に入っていた。
異端核保持者をかき集め、巫女に指揮権を委譲する。そこまでは順調だった。
だが、前線の壁となる「戦闘用ゴーレム」の量産において、致命的な問題が発生していた。
――増やせないのだ。
ナイトの持つ『増殖チート』は、無機物であれば即座にコピーが可能だ。
しかし、何度試してもゴーレムの下半身――あの馬のような駆動部分だけが、エラーを吐き出して生成されない。
システムが意図することは一つ。
増殖チートは、生物を複製させることは出来ないということ。
「……生物、だと?」
深夜の格納庫。冷え切った空気の中で、ナイトは整備中のゴーレムを見上げた。
上半身は鋼鉄と歯車だ。だが、下半身の装甲の奥から、微かに、本当に微かにだが、異質な気配が漂っている。
獣の臭いではない。オイルの臭いに混じって、何かもっと生々しい、鉄にも似た臭み。
下半身の構造は最重要機密とされ、末端の兵士には整備マニュアルすら公開されていない。
ナイトは周囲を警戒し、誰もいないことを確認してから、中身を見てしまった。
本来は開けてはならないメンテナンスハッチ。その極小の隙間に、ファイバースコープのような細工を滑り込ませる。
内部の暗闇。
そこに映ったのは、歯車でもピストンでもなかった。
ぎちり、と押し込められた、肌色の肉塊。
鋼鉄の拘束具に手足を固定され、四つん這いにさせられた「それ」は、規則的に脈打っていた。
脊髄には無数のパイプが直結され、脳からの信号を強制的に足の駆動へと変換させられている。
その顔は、ほとんどが削られ苦痛に歪んだまま凍りついていたが、見間違いようもなかった。
「……巨人」
北西の山脈に住むと言われる、人食いの亜人。
それが、無理やりこの狭い装甲の中に圧縮され、生き埋めにされている。
「ッ……!」
ナイトは反射的にハッチを閉め、数歩後ずさった。
胃の腑から酸っぱいものが込み上げてくる。
我々は、こんなものを乗り回していたのか。
狩られる側だと思っていた巨人を狩り、脳を弄り、使い捨ての電池のように扱っていたとは思いもよらなんだ。
「冬が来る前に……数が足りない理由が分かった」
部品が足りないのではない。「材料」となる巨人の在庫が足りないのだ。
これ以上、この悪魔の兵器を増やすことはできない。いや、生理的嫌悪感がそれを拒絶している。
ナイトは荒くなった呼吸を整え、冷たい壁に背を預けた。
――方針転換だ。
こちらの戦力を増やせないなら、敵の戦力を削ぐしかない。
このふざけた肉塊戦車を、確実にスクラップにする方法。
「馬に対する兵器……地雷か」
だが、ナイトは地雷について知っていても、地雷の作り方は知らなかった。
単純な火薬式では、ミスリル装甲で覆われたこの怪物たちに傷一つつけられないだろう。
必要なのは、足元から内部の「肉」ごと吹き飛ばす、極大の破壊力。
「……材料がいるな」
ナイトは格納庫の闇を睨みつけた。
もはや、この国を守るための「綺麗な戦争」など存在しないと悟った。
あるのは、狂気に対する狂気だけだ。
彼は踵を返すと、ある人物の元へ向かった。
必要なのは火薬と、強力な魔力媒体。
そして、今は絶賛喧嘩中の、巫女様の力だ。




