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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章後編:護身竜の村奪還作戦【完結編】

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Alter.72 レインコートチルドレン

【今日の今北産業】

・グスティは沢山人を殺したことを改めて理解した。

・チートを沢山手に入れた。

・チートの説明をするチートもあることを知った。


実収の節 9/30 12:00

シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド

プラザ・デル・ソル 酒場




フェリシア・デラクルスによる人災から一ヵ月と少しが経過し、トーレッドの街並みは見違えるほどに、活気を取り戻しつつあった。


大通りであるプラザ・デル・ソルの端には石材が積み上げられ、壊れた窓枠には真新しいガラスが嵌め込まれていく。雨に濡れた石畳は鈍く光を返し、雲間から差し込む光が、その修復作業をそっと労うように降り注いでいた。


丁度お昼の鐘が響く酒場には、雨宿りと昼食を兼ねた労働者の行き来が絶えない状態が続いていた。彼らの賑やかな声が、雨音と混じり合って街に響く。


そんな酒場の雑談からは、トーレッドに流れ始めた新しい噂が聞こえてくる。


「知ってるか、レインコートチルドレンって」


店の奥、薄暗い席で男の一人が身を乗り出すように囁いた。それにつられ、つまみに伸ばした手を止めるもう一人の男。


「なんだいそりゃ」


「百人ぐらいのレインコートをきた子供が、トーレッドの外に出ていくんだ」


「不思議な話もあったもんだねぇ」


男は片膝を立て、ジョッキと耳を傾けた。


人攫いもいるこのご時世だ。数十人なんてことはよく聞くが───百人は流石に多すぎる。


旬の魚だって、そんなに群れはしない。手前に置かれた焼き魚を摘まみながら、男はそんなことを思う。それにレインコートを着ているとは、また奇妙な話だ。


レインコートなんてなめし革で作られた高級品ばかりで、着ているのは貴族の子供がいいところ。庶民の子供が理由も無しに着ているなんて、盗んでくれと言っているようなものだ。


「そのレインコートチルドレンってのは雨の日だけなのかい。晴れの日は? 」


「晴れの日もレインコートを着ているらしいぞ。行列を作ってプラザ・デル・ソルを駆けていたのを見たって連中が山ほどいる」


「はぁ~……ソイツは変な話だな。どこの子なんだい? 」


「いや、それがその子どもたちが帰ってくるところを誰も見たことがないんだとよ」


「帰ってこないってのは、行方不明になってるってことかい。しかし、そんな話なら俺の耳にも入ると思うんだが」


男は視線を自分の胸元に落とした。そこには衛兵の証である鎖帷子と、精巧な刺繍が施された衣装がしっかりと身を包んでいる。この装いは、モット卿に仕える戦士としての誇りだ。街の守護者たる自分の耳に入らないなんて、もっと奇妙だ。


「それが都の子供は誰も外には出てないっつーのよ。帝国兵がいつせめてくるかも分からねえこのご時世だ。親が止めるんだと」


「じゃあ一体そのレインコートの子供達ってのは……」


男が訊くと語り手の男は、ニヤリと魚の小骨が刺さった歯を見せながらこう言った。


「テロで亡くなった子供の、魂が彷徨ってるって噂が有力だな」


男は随分と酔っているようで、饒舌に舌が回っているようだった。そうして男はようやく理解した。なるほど、コレは分かりやすい冗談らしい、ならばその冗談に今は乗った方が楽しそうだ、と。男は前に座る男と同じ量の酒を飲んで、キリッと眉を顰めて、


「そうか……魂はまだ、この都に残ってるのかも知れんな」


と意味ありげに呟いた。


酒場で楽しそうに酒を飲む男達がそのような話をしているのを偶然、小耳に挟んだ人物がいた。リハビリ明けのイナンナだ。


イナンナは酒を水のように飲み干しながら肉にかぶりついていると、その耳に偶然にも噂話が届く。


「ほう……亡霊とはまたよくある話だが、子供の亡霊、それも百人規模となると……」


心の中で呟きながら、料理に残ったニンニクとバジルの辛口ソースをパンでスカルペッタして口に放り込む。午後から予定がなければこんな料理は食べられない。イナンナにとって今日は午後に何もない特別な日だ。


綺麗になった皿の隣に支払いの銅貨を置いて彼女は席を立つ。これから雨音を枕に昼寝をするという重要な仕事が残っているのだ。


「面白い話を聞けた」


イナンナは雨傘を開くと、革のブーツについた泥を爪先で軽く叩き落とし、軽い足取りで城へと帰宅した。



実収の節 9/30 12:40

シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド

モット卿の城 ザバーニャの部屋 



城へ戻るとイナンナは早速、酒場で聞いた話をザバーニャに語り聞かせた。


「へぇ……レインコートチルドレン。大方地下水路でも使って夜に帰ってきているんじゃないの。子供ってそういう抜け駆けってよくするものよ」


「それでいうと、巫女様もよく一人で社を抜けて温泉に行っていたな」


生贄として扱われていた彼女には温泉以上の外出は存在しなかった。彼女にとって一番の遠出、それが温泉だった。


「いわれのない理由で監禁されていたんじゃ、フラストレーションだって溜まるじゃない? ……………なによその顔は?」


「いえいえ、巫女様のおっしゃる通りでございます」


「ちょっと……今日はお休みの日でしょ? 別に今日は名前でも良いんじゃない? 」


「ふむ……休日ぐらい、ザバーニャと呼ぼうか」


「いいわね。……やっぱりこれからも名前で呼び合わない? 巫女と言っても形骸化した役職名だし、いっそのこと……」


「いや、それは許可できない。私は日頃の習慣がいざと言うときに出てしまうからな。いつもザバーニャと呼んでいたのでは、いざと言う時にミスをしかねない。───それに私だけ名前呼びを許可されると悲しそうな顔をするヤツがいるだろ? 」


「あのヘンテコ生物の話は今はしないで。イライラしたくないから」


「分かった。それで子供の脱走の件、一応調べておこうか? 」


「あー………その件ね。……一旦あのヘンテコ生物に訊いてみてくれる? 」


巫女様は面倒臭そうにイナンナにそう伝えると、イナンナも苦笑いしてそれに応じた。


「巫女様もどうやら私と同意見のようで」


数が多い、子供と言うだけで嫌でもイナンナの頭には、グスティ・ビショップの顔が浮かんだ。彼女はあれからというもの、リハビリの時には常に付き添いで立っていてくれた。


リハビリの必要がなくなってからその姿を見なくなったが、彼女もまたチルドレンの一人として、都の外に出ているのかも知れない。そう考えると少し会いたい気持ちも湧いてくる。


「じゃあこの話はお終い。本当はアイツのことなんて一秒たりとも考えたくないんだから」


「承知しました」

次回:嫌い

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