Alter.61 グスティーズ集結
【今回の今北産業】
・フェリシアを生かす決断をする。
・フェリシアの生存は正しい選択か?
・これが男であればグスティはたぶん殺している。
陽煌の節 8/20 21:00
シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド
高級住宅街 地下水路
ランタンの僅かな灯りが照らす地下水路に、一つの死体が浮かび上がっていた。魔法を限界まで酷使したと思われる模造品レプリカ少女のものだ。
巫女様は竜の右腕が凍り付いた状態で息を荒げており、近くには全身が凍り付いたジョーカーと、気を失っているケルヒャー二等兵の姿もあった。
凄惨な現場がその戦いの激しさを物語っていた。
「……最後の最後まで、話しの通じない相手だったわね」
巫女様はケルヒャーを抱え上げると、氷像となったジョーカーを置いて地下水路を出た。
暗闇の中で僅かな灯りを頼りに来た道を引き返していく。すると月光に照らされる出口を見つけ、ホッと一安心した。
外にはビショップや仲間達が待機しており、異端核保持者の邪魔をせぬように万全の準備が整えられていた。
木と布で作られた簡素な担架が用意され、そこに乗せられたケルヒャーは、異端核保持者専用の医務室へと運ばれていく。
「フィオレッタは? 」
「治しましたけど、医務室へ運ばれていっちゃいましたぁ」
「そう……」
傷ついた兵士に包帯を巻いているビショップを横目に、巫女様は地上でも、何者かによって街中で戦闘が起こっていることを気づく。
「あのぉ、ジョーカーさんは? 」
傷ついた兵士に包帯を巻きながらビショップは巫女様に聞いた。
「……地下水路の奥で氷像になってるわよ」
「あわわわ……助けに行かなきゃ! 」
大袈裟に慌てながら、ビショップは膝についた土埃を払う。それを見て巫女様はため息をつくと、彼女に質問をした。
「それよりアンタ、ビショップは何処にいる? 」
「ふぇ? 私ならここにいますけどぉ……」
口元を手で隠しながらビショップは不思議そうに、その言葉の意図を推測した。
「いいから。今、ビショップは何処にいるの? 」
二度目の巫女様の詰問に観念したのか、ビショップはらしからぬ溜息をついて、
「――ビショップでしたら、ベニスの下へ向かいました。プラザ・デル・ソルの方です」
と言った。
「そう。ご苦労様」
そう言って、巫女様はプラザ・デル・ソルで暴れる帝国兵の鎮圧に向かった。
修道服を脱いだジョーカーは、「――不可解。いつバレたのでしょう……? 」と不思議そうに首を傾げながら、彼女を見送った。
そんなジョーカーに、コマンダーからの指令が入った。
『グスティーズ各位、知らないかもしれないが、現在トーレッドは燃えている』
コマンダーは鐘楼から俯瞰してみた景色を全員に共有する。プラザ・デル・ソルから始まったテロは、街を尽く混沌に導いていた。
ベニスによって住民の一部が保護されたものの、多くの人命が帝国の画策したテロで命を落としているような状況だった。
そんな各箇所で起こる惨劇に、モット卿は、遠方からやってきていたガルシア少尉に助けを求めていた。
それに答える形となったガルシア少尉は緊急で鎮圧部隊を組織し、オールウィット隊の夜間組と共に集団テロの鎮圧に奔走していた。
人命の救助よりも敵の排除を優先する行動に、残された市民からは不満の声が上がったが、しかし彼女達は、そんな市民の声を無視して建物を破壊したり、テロリストの排除を行ったりと、効率よく事態の鎮静化に努めていった。
さらに後から合流した竜の巫女によってテロの拡大は防がれ、結果死傷者と怪我人は出たものの、想定されていた数よりもずっと少ない被害で、トーレッドに起きた大規模テロは収束の兆しを見せていた。
そんな時、鐘楼の上から全てを俯瞰して見ていたコマンダーは、不自然な兵士の動きを見つける。テロの鎮圧に向かっていた兵士達が小隊規模になって、街の外へと出て行っていたのだ。
この非常事態に、少ない常備軍を外に分けるなど普通はあり得ない。理由があるとするならば、危険な存在が外部からやってきたから、と考えるのが普通だろう。
急いでコマンダーは、グスティーズに緊急で指令をとばした。なにかあってからでは遅い、そう思い各自捕虜や、誘導した市民の状況を確認する。
一番初めに返事を返したのはベニスだった。
彼は市民をスラムへ逃がし、帝国と手を切った盗賊ギルドのメンバーと共に、避難民の管理を行っていた。
『こちらベニス。えー、プラザ・デル・ソルの人々はもう安全です。ご心配ありません。ハンサムとナイトの捕虜もコチラで管理する用意がありますが、連れてこれますか? 』
ベニスは盗賊ギルドに多額の金銭を支払うことによって、全面的な支援を受けれるようにした後、サーシャやフェリシアといった重要な捕虜を隠しておけるような準備も、また同時に平行して進めていた。
『サンキューベニス。すぐに向かう』とナイト。
『いやぁ、助かるね。俺もサーシャと一緒に、なるべく早くいく』とハンサムが続く。
ベニスはそんな二人はともかく、女性陣はどうだろうかと思っていると、スラムに一番乗りしたのは馬に乗ったアサシンだった。
地下水路で本を外に運び込もうとしていた帝国の工作員全員を暗殺し、残された馬を一頭盗み乗ってやってきたのだ。
「私が一番のり? 」
アサシンの問いかけに頷くベニス。そしてすぐにジョーカーとビショップもやってきた。続々と集まるグスティーズ。最後にコマンダーが到着すると、すぐさまトーレッドの城門前に移動した。途中入れ違いになったナイトの情報によれば、集められた軍隊は馬に乗りトーレッドを北上したという。
こんな状況でやって来るのは、タイミングを考えても帝国軍と考えるのが妥当だろうと、コマンダーは軍の動きから推測を立てる。
しかしもしこれが事前に予測された計画なのだとすれば、コチラの準備が不十分でも相手の準備は万端と言う可能性が高い。
護身竜の村とトーレッドの間には関所のようなものはなく、逆に敵が深く入り込むことが出来る森が広がっている。もしも先行して森を制圧されていたとすれば、大軍が迫っていても情報が入ってこないこともあり得た。
「ここでトーレッドの兵を失うワケにはいかない。俺たちが先行して、異常がないか調べに向かおう」
コマンダーの言葉に頷くグスティーズ。トーレッドは現在もテロ行為を受けている最中だが、大きな火種を消した今、残る問題は竜の巫女とガルシア少尉に任せ、自らは外へ視野を広げた。
「ハンサム、運命の糸チートを使え」
コマンダーの言葉に頷くハンサム。運命の糸チートが使われると、大量の赤い線が赤い川のように束になって北へ伸びていた。赤い線は誰かが死ぬ未来を指し示す。北で大量殺戮がある未来を、運命の糸チートは予見していた。
「オー……ビンゴ」
ハンサムは全員に視覚情報を共有する。今まで見た事のない死の赤線に、グスティーズは単に小競り合いでは済まない争いが近くで降りることを察知した。
『この線の数は戦争か? 』
ナイトはゴーレムの用意をしながら確認するようにハンサムに聞く。
『確定じゃない。ただ沢山の人間が死ぬというだけさ。下手に先入観を持って臨まない方が臨機応変に対応できるだろう』
ハンサムはそう言って、他のルートがないか同時に探してみる。黄金ルートはないものの、白や緑のルートも見つけることが出来た。しかしそのどれもがトーレッドの内側に伸びている。
自ら危険に飛び込むのが果たしてこの場合正しいのか、判断をしなければならない。いうなれば白や緑は運命の糸チートが“安パイ”として用意した択である。これで危険と分かっていて、それでもトーレッドの兵を助けるために外へ行くというのなら自己責任となる。
チートの示した未来か、自分の勘を頼りにするか。選択を迫られた時、コマンダーが思考加速チートで一番長考して、外へ出ることを選択した。
『運命の糸チートはあくまで自分目線の未来予測だ。つまりチートを使用したハンサムが死ぬ未来が外に無数にあるに過ぎない。なら俺達がとる選択肢はただ一つだ』
全員が息を飲んだ。それはつまり、運命の糸チートを使う人間が変わればまた結果も変わるということ。
『合体するんですね? 』
クラフトはコマンダーの顔を見て言った。
『合体! 』『合体だ!』『合体の時!』『合体しよう!』『合体ですか』
『今こそ一つに!』
『行くぞ! 合体!』
コマンダーの掛け声と共に、手をつなぐグスティーズ。分裂チートを有効にし、眼を閉じて心を落ち着かせると、体の輪郭が溶け合い一つに重なるような体験をする。
再び眼を開けた時には、既に視界は一つに定まっていた。
次回:始まりの一人




