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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章中編:護身竜の村奪還作戦【本泥棒編】

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Alter.60 ハニートラップ

【今回の今北産業】

・試作品のゴーレムの中はサウナ。

・一行で死ぬ帝国兵。

・知らない間にめっちゃ人を助けているベニス。


『だ、そうだ。グスティ・ナイト、後は頼む』


脳内でハンサムはナイトにそう言った。


『あいよ。まあそもそも生かす気はさほどなかったけどな』


ナイトはフェリシアの背中を追いかけて、操縦桿を命一杯倒して前進していた。

そしてその道程で、前方から落雷が落ちたようなゴロゴロ音と、地面が揺れを感じる。それで城壁が破壊されてしまったと、すぐに察することが出来た。


「間に合わなかったか……せめて首謀者だけでも捉えないとな」


ナイトはフェリシアのゴーレムを見つけると、すぐさま剣を引き抜いた。


彼女は城壁を破壊し、城門に大砲を向けている最中だった。


「させるか!! 」


次の弾が撃ち込まれれば、今度は多数の死者が出る。そう思ったナイトは、背後からフェリシアを一刀両断にするべく剣を振り上げた。


しかし、フェリシアも寸でのところで背後の気配に気づき、体をずらして致命傷を免れる。その代わりに大砲を抱えていた腕の一本を、ナイトに献上することになった。


「その機体はグスティ・ウェン…! 」


「よぉ久しぶり。元気にしてた? 」


お互いコックピットで呟く。


ジリジリと距離を詰めようとするナイトに、フェリシアは後退しながら後方で崩れた城壁に視線をやる。脱出を図るならあの場所しかない。


フェリシアの頬に一筋の汗が滴る。


ナイトは距離を詰めて、攻撃を仕掛けるが彼女は再度に揺れるように逃げながら、城壁に近づきそれを乗り越えた。


失った片手を補うようにフェリシアは片手に剣を持って、ナイトの攻撃に応戦する。


しかし力の差は歴然であり、剣も叩き落され、頼みの綱である脚もナイトによって切り離されてしまう。

ナイトはゴーレムのコックピットを引っぺがし、中で汗だくになっているフェリシアを捕まえる。握り潰せば任務完了だ。


しかしナイトは自身もコックピットから出て、ゴーレムの腕伝いに捉えられたフェリシアの下へ移動した。


捕虜としての価値もまた彼女にはあり、その意志が彼女にあるか一応問うためだ。


「ハァ……ハァ……私を捕らえたところで……何も意味はありませんよ」


鉄の腕に抱かれた彼女は、汗だくになりながら張り付いた髪をうざったそうに引っぺがしながらそう言った。


「まあまあ、そう言う話は置いておこうぜ。フェル。とりあえずは感動の再会を喜ぼうじゃないか」


グスティ・ナイトは、自然とグスティ・ウェンとして彼女に話しかけていた。トーレッドにきて間もない頃、殺人を犯した自分に寄り添ってくれた唯一の知り合いであり、裏切者と分かった今でも、その記憶はグスティの中で大きな意味を持っていた。


「なぁ、聞かせてくれ。なんでアンタ花売りなんてしてたんだ? 重要な立場の人間なんだろ」


「花売り……? あぁ……おめでたい人ね。あんなの、アナタから情報を抜くための演技ですよ。護身竜の村から逃げてきたゴーレムに乗った男、私の情報網には無かった人だから」


グスティは彼女がハニートラップを自分に仕掛けていたのだと知り、まんまとその策に引っ掛かっていた事実も同時に理解する。


こういう場合怒るべきなのかもしれない、とグスティは思いつつも、あるのは感心と、プロフェッショナルな彼女の働きに対する敬服の意だけだった。


「テロリストになるぐらいなら、舞台女優を目指した方が良かったかもしれないな」


「……そんなことを言いに来たわけじゃないでしょ」


「あぁ、もちろん。君は以前俺に言ったな、銅貨二枚でお供してくれると。今回も二枚で同行してくれるかい」


花売りとして近づいてきた彼女がグスティに提示した額が銅貨二枚だった。


「残念だけど、追加料金を貰ってもついて行くことはできません。女性の捕虜が捕まったら、どんな拷問をされるか、あなたも兵士なら知ってるでしょ」


グスティは女性捕虜が捕まった場合の尋問について詳しく知らなかったが、口ぶりからして酷いことをされるのは間違いないらしい。


「全て包み隠さず話せばいいだろ」


「甘いのね。拷問っていうのは壊れるまで行われるの。そこに優しさやルールはないのよ」


捕虜の取り扱いぐらい国際ルールで定められているようなものだと思ったが、どうやらそういうのはこの世界にまだないようだ。


ゴーレムのような超兵器があるくせに、こういう他のことは、中世・近代を往復するようなこの歪さはなんだろうと、グスティは頭を掻く。


「君はじゃあ、逃げるか死ぬか、それしか残っていないってことか。んーーーー、運命と言うのは時に酷く残酷だとは思わないか? 」


グスティはそう言って微笑を浮かべた。九分九厘、ココで彼女を殺すことが決まったのだが、動き周っていたせいか、はたまた別の要因か、剣を抜く体はとても重い。


空は晴れているのに、パラパラと雨が降った。


「仕組まれたモノとはいえ、君は落ち込んでいる俺に寄り添ってくれた。俺はあの時誰一人として慰めてくれるような人がいなかったからさ、結構君に助けられたんだぜ」


話している間にも、湿気を含んだ温かい通り雨は、体に膜のようにへばりつく。お互いに暗くなって顔色を見ることはほとんどできないが、それで良かったと彼は思った。


「ねぇ」


「どうした? 」


「放してくれない? 逃げないから」


グスティは少し考えたが、やがてコックピットに乗り込み、掴んでいた彼女を地面に降ろした。


すると彼女は背中のケツポケットから手持ち花火を取り出して、マッチで火をつけた。ピューと花火は空へ飛びパンッと光る。空に打ちあがった花火にお互いの顔が照らされた。


「……逃げないとは言ったけど、何もしないとは言ってないから」


「まぁ確かに。どこに向けた信号だ? 」


「……さあ」


そんなフェリシアを前に、ナイトは自分の中にある気の迷いと戦っていた。


正義を実行するならば、目の前の敵を捕まえモット卿に突き出すべきだろう。情報は全て明るみになり、帝国に関する何らかの有利な情報を入手することも出来るかも知れない。


しかし彼女は悲惨に死ぬだろう。それに眼を伏せ、割り切ることが自分にはできるか問いかける。


『グスティーズ各位、この女について皆の意見が聞きたい。生かすべきか、殺すべきか。生殺与奪の権利は俺の手の中にある』


そうして脳内会議をすると、八人いるグスティーズの内、コマンダー、ベニス、クラフト、ビショップの四人は、捕虜にするかこの場で殺すべき、という判断を下した。


アサシンが明確に殺してはダメだ、というスタンスを取り、ジョーカーとハンサムは、『もう沢山だ』、という意見から逃がすことを提案した。


四対三、ナイトが会議の結果を反映させようと剣を抜こうとしたとき、やはり自らの体が拒否し、手が震えているのが分かった。


何も知らない相手を手にかけるのと、知り合いを手にかけるのとでは重みが違った。そこで初めて、自分は彼女を殺したくないのだと理解した。頭で非合理と理解していても、行動に移すことが出来なかったのだ。


『やっぱり俺は殺したくはない……皆、話しを聞いてくれてありがとう』


ナイトは脳内会議を終了させようとする。そんな時、ビショップが変わった提案をした。


『天の声チートを使ってみるというのはどうですぅ? 』


今まで使った覚えのないチートにグスティーズは、全員首を傾げた。そんなチートは買った覚えがない。新しくビショップが個人で購入したものなのかとすら思った。


『以前に寝ぼけて買った際に、オマケでついて来たチートですぅ。使ってみた感じ、簡単な占いをしてくださるようなんですよぉ。当たるも八卦当たらぬも八卦、これで彼女の命運を決めるというのはどうですぅ?』


『賛成だ。こんなもの、俺には決められない』


困った時の神頼み、というワケで、グスティは全て神様に責任をぶん投げることにした。これでもしもフェリシアを殺しても、悪いのは全部神様だ。


そう言い聞かせて、ナイトはビショップに天の声チートの使用を申し出た。


『ではいきますぅ。【災厄は分裂し 世界を混沌に導く 気高き竜は災厄から人々を救済する光となるだろう 悩める災厄は竜の付き人を手本にし アクターの星は潰え、人々は標を失い夜を彷徨う 】』


天の声チートが思った以上にフワッとした内容だったがために、ナイトは頭を捻る。


『災厄って俺のことか……? まあいいや。使えそうなのは、【悩める災厄は竜の付き人を手本にし】って部分か? それってたぶんイナンナのことだよな。イナンナっぽく振る舞うとしたら……』


『難しいことは解らんが、巫女様ファーストなのは確かだな。ハッハッハッ』


グスティーズの誰かがイナンナの真似をした。そう、イナンナならばきっとそう言う。


巫女様第一主義なのが彼女だ。それに倣えと言うならば、目の前の捕虜を巫女様のために役立てる、と言うのが正解だろう。


「判決が出ました。貴女を今から拉致監禁する。モット卿に引き渡しはしません。重要な証人として、俺が貴女の身柄を預かります」


「ん?ん?ん?」


クエスチョンマークが乱立するフェリシア。てっきり殺されるかと思っていたところに、思わぬ提案をされて頭が混乱した。


自分は事件を起こした張本人であり、現在も帝国軍に信号弾を送ったばかりで生かされる理由など皆無に等しい。自らの命と引き換えに大軍をこのトーレッドに呼び寄せたつもりだったが、なぜ自分は生かされているのだろう。そうして考えて行くうちに、一つの解を得る。


「ははん、よもやこやつ、私に惚れているのでは?」と。しかしそれは禁断の恋。あってはならないことだ。しかし自分のハニートラップが完璧だったというのならば、そうだったのだろう。この男を完全に篭絡してしまった自らの手練手管が憎い! あぁ、私はなんて一流のスパイなんだ!


フェリシアが本気でそう考えてしまうのも無理からぬことだった。


「さてどうするか……」


対してグスティーズは燃え上がる彼女とは正反対にシリアスな状態にあった。


全員が揃えば捕虜の一人や二人、簡単に隠しとおすことが出来るだろう。そして巫女様のために彼女は切るべきタイミングで、手札として残しておく。そうすることで彼女を逃がすこともしないで良いし、殺すこともしなくて良い。



実に簡単なことだが、決断するのに時間が随分とかかってしまったことに自らの甘さを自覚する。


「あの時のハニートラップに引っ掛かろうというのさ。なぁに、しばらくアンタには死んだ人間として生活して貰う。余り自由は与えてやれないが、死ぬよりマシだろ」


諦めたように小さく笑うグスティに、何となく話を合わせるフェリシア。もしかすると自分、この男に媚びを売れば結構な確率で生存できるのではという、かなりの期待がそこにはあった。だからこそ、少し挑戦的なことも言ってしまう。


「いつ後ろから刺すか分からない相手を家に匿うつもり? 」


「そん時はそん時だろ。……でも………たぶん後悔しないさ……」


そう言ってグスティは笑って、銅貨二枚を彼女に投げた。


それを受け取ったフェリシアは唇を噛み血を流す。


「お、おい悔しいのは分かるけど……」


「ええ。こういうのは良くないわ」


本当に良くない。まだだ、まだ喜ぶんじゃない。フェリシアは神妙な男の顔とは真逆で、今にも破顔しそうな顔でクールに頷く。


一流のスパイとして目の前の男を信頼させ、最後まで騙しとおす。その鉄の意志が彼女の表情筋を固く締めあげた。


『大丈夫、私はシリアスな女。最後の最後まで、生きている喜びなんて感じない人形のような女を演じるの』

たまに唇を噛みながら、彼女は心の中でそう念じた。




次回:グスティーズ集結

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