Alter.59 命の価値
【今回の今北産業】
・刺客の少女との会話。
・少女の名前はサーシャ。
・少年兵らしい。
陽煌の節 8/20 20:30
シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド
高級住宅街 地下水路前
真夏の太陽がゆっくりとその身を隠し始めた頃。
衛兵達によって封鎖された地下水路の前では、ビショップが血塗れになった衛兵達を治療している最中だった。
ビショップはなぜ自分達が動いているにも関わらず、次々と搬送されてくる怪我人がどこから出ているのか謎に思い、暇なメンバー全員に事情を聴いていた。
『あのぉ、なんでこんなに怪我人が出ているのでしょう…?』
するとそれには、その現場にいたベニスが答えた。
『同時多発的にトーレッドでテロが起きているようですね。グスティ・ハンサムがみた運命の糸の結果は、コレを予知したモノだったのでしょう。プラザ・デル・ソルでも、模造品と呼ばれる少女と帝国の軍服を着た人間達が、剣を振り回して暴れています』
『大丈夫なのですぅ?』
『金で買収しようとしたのですが、上手くいかず。目下、人を連れて逃走中ですよ』
『そこに別の人がいらっしゃるですかぁ? 』
ベニスは視界を共有して、ビショップに自分の見ている光景を映し出した。
頭を殴られたのか、ベニスの視界は血で赤く染まっておりぼやけていたが、その他にも、彼を心配して集まる人々の姿があった。
『プラザ・デル・ソルで商いをしていた商人と、買い物客です。行き場が無いようでしたのでね……出来る限り集めたつもりです。ビショップ、そちらへ送っても? 』
『危ないですよぉ!? 』
ビショップの言葉の後、コマンダーも話し合いに参加する。
『ビショップの言う通りだ。ベニス、俺の指示に従い都の端へ逃げろ。グスティ・ナイトと合流するべきだ』
『僕の位置が分かりますか? 』
視界共有をしただけでは、彼の位置までは解らなかったコマンダーは、『外に出られるか』と情報提供を要求した。
プラザ・デル・ソルから少し離れた場所にあるスラム街と一般住宅街の狭間、使われていない寂れた教会の中に百名余りがグスティ・ベニスを頼りに、敵の脅威から震えていた。
『場所は把握できたが、それだけの大移動となると見つかるのは必至だ。――おい、ジョーカーか、アサシン! どっちか手は空いてないか』
二人から返事はない。ジョーカーは雷少女の遺体を運搬中で、アサシンは妨害工作を終えた後は一人ずつ、巣穴に潜む帝国兵を暗殺しては隠蔽しての繰り返しをしていた。
どちらも手が離せる状況にはなく、たとえ作業を切り上げて向かったとしても、どちらもプラザ・デル・ソルに向かうにはそれなりの時間を要した。
誰が行くにも時間が足りない。そう思っていたところに、クラフトが通話に入って来る。
『私が向かいに行きます』
『申し出は有難いのですが、貴女も僕だから言いますが、えー……なんの役に立つのです? 』
自分が二人に増えるとはいえ、戦闘能力がステゴロのみの二人が集まっても、剣を振り回している帝国兵がうろつく中、少年少女二人でいい結果が生まれるとは到底思えなかった。
もしかすればクラフトが先に帝国兵に見つかり、殺される可能性すらあった。そのためコマンダーもクラフトを止めた。
『クラフト、お前の仕事は戦闘じゃない。非戦闘員としてやれることが他にもあるはず――……だ……?』
視界共有をしたコマンダーは、コックピットの中にいるクラフトの視界を共有され、自分はナイトの視界を間違えてみてしまったかと思い、再度確認を取る。
しかし、
『間違いありません。私がゴーレムに乗っています』
とまさかのクラフトは揺れる搭乗席から、コマンダーに応答した。
『そんな馬鹿な。 ゴーレムは全て出動して、対応済みなのでは? 』
ベニスの声にクラフトは頷く。
『兵舎の下に開発機があったんです。フェリシアと私が出会った時に封鎖されていた開発部屋があり、そこにあったモノを私が手を加えて完成させました』
『まさか、この短時間でか? 』
コマンダーも驚いた様子で、鐘楼の上からベニスの下へと向かうクラフトのゴーレムを発見する。
『取り外されたままの寒冷地仕様の装甲がまだ残っていたんです。おかげ様で使用時間に限界はありますが、何とか動かせる状態というワケです』
使用時間に限界、という言葉を聞いてコマンダーは不思議に思った。
『パーツがあっていないということか?』
規格化の進んだ同盟産にそのようなことがあるのだろうか、との疑問にクラフトは笑いながら答えた。
『いえ、効率よく熱を吸収して内部に送るための装甲ですので。真夏に厚手のコートを着て動くような状態になっています』
ゴーレムの中からクラフトは苦しみを楽しむように、笑みを浮かべていた。
『……機体の中は一体何度になっているんだ!? 』
『……サウナの三段目ぐらいでしょうか』
『地獄じゃねえか!? 』
コマンダーは聞くだけで額に汗が出た。そしてベニスもクラフトの話を聞いて、
『僕の下へはどのくらいで来れそうです? 周りを抑えるのも、限界がありますから着て貰えるなら早めの到着を願いしますよ』
と彼女の到着を急かした。
『もう到着です。教会の前に出てください』
ベニスはクラフトの言葉に頷くと、全員を教会の中で待機させ、外に出た。
すると周りの壁を擦りながら狭い道を最短でやってきた、獣の革を着たゴーレムが到着する。
「クラフトさんこちらです」
ベニスが手を振ると、剣を掲げたゴーレムのコックピットからは、蒸気と共に裸エプロンの状態になった汗だくのクラフトが出てくる。
その様子に教会の中に隠れていた人々が何事かと、様子を見に外へ顔を出すが……当然買い物客の中には少年達も混ざっており、裸革エプロンのクラフトを見て鼻血を出していた。
「ハァ……ハァ……ベニス、お待たせしました。さあ、皆さんを安全な場所へ避難させましょう」
わざとらしく注目を浴びるようにコックピットから声をかけるクラフト。それに脳内でベニスが怒った。
『教育に悪い体を表に出すのは止めて頂きましょうか。ワザとですね? クラフト』
それを聞いてクラフトは蠱惑的な笑みを浮かべて、
「全裸は良くありませんから。お許し下さい、ベニス」
と言って、わざとらしくエプロンの横からはみ出でていた胸を抑え込んだ。
二十代の女子がこれをやっているなら、素直に良いでしょう。認めるし、今後も続けるべき風習として残すべき文化だ。
しかしそれが元は自分と同じ存在がやっているのだと思うと、また話は違った。
「中身がオッサン一歩手前の自分がやっているのだと思うと――……少し心にくるものがあります」
ベニスのツッコミに、クラフトは肩を上げて適当に流した。例え少女の姿でも許されないことはある。そうベニスに怒られたことは、別に想定内のことだった。
「それより皆さんを早く郊外にお連れすべきでは? 」
「……宜しい、僕も同意見です」
クラフトの体に視線が釘付けになっている男性陣を見て、
「……今なら集団で動くことも問題ないでしょう」
とため息をつく。
先ほどまで、自分達は助かるのかと様々な抗議があったが、今や男達の意志は彼女について行くことで統一されているのが目に見て明らかだったからだ。
「ええ。では参りましょう」
クラフトはそう言って真夏の空気を吸い込んで、再びゴーレムに乗りこむ。
そして辺りに敵がいないか見回りつつ、大移動の進路を確保し始めた。
途中で転んだりお腹が減ったと喚いたりする者達には、ベニスが増殖チートで飴や水を配ることで、統制を取りながら、上から進路を見ているコマンダーによって、安全なルートが常に選ばれ続けた。
しかし場合によっては避けられない敵の介入もあり、民衆がテロリストに恐怖する場面もあったが、コチラにはゴーレムがあるため、それを見た者から巨剣の餌食になって行った。
ばっさばっさと切り倒されるテロリストを見て、クラフトに躊躇いが無いことにベニスは驚いた。
『クラフト、貴女は恐ろしくはないのですか? 』
『少女を殺すのとオッサンを殺すのでは、やはり気分が違うかと』
確かに民衆を怯えさせている敵は少女ではなく、剣を持った男達だった。
少女を殺した後だと麻痺して、おっさんの命が異常に軽く見える現象が自らの内に起きていることに気づく。
『……我ながら最低だ』
自分もその答えになったことから、恐らく全てのグスティが……というより元のグスティがその考えであることが分かり、少し落ち込んだ。
こうして何人かのテロリストを葬り、その代わりとして百人の命を救うことに二人は成功した。
次回:ハニートラップ




