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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章中編:護身竜の村奪還作戦【本泥棒編】

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Alter.56 贋作

【今回の今北産業】

・圧倒的な力を持って戦いを制した巫女様。

・ツギハギ少女からみた巫女様は怪物。

・ツギハギ少女は爆発した。






巫女様が勝利した一方で、ジョーカーは演出チートで実体のある分身を作成し、それと雷少女を戦わせていた。


「キヒヒッ……防戦一方? まぁ仕方ないね」


雷少女は笑いつつ、地面や水路の水を伝って閃光を走らせた。


激しい雷撃が地下水路に降り注ぐという異常現象に目を奪われながらも、ジョーカーは自分の姿は迷彩チートで隠しつつ、身代わりを応援する。


分身は本体と違って殺戮チートは使えないため、素の実力で戦うことしか出来ない。持ち得る武器は、演出チートで生み出した刃の無い、玩具の短剣とブロードソードの二つ。しかし見た目はどちらも本物と瓜二つであり、真贋鑑定に出してもバレないほど精巧な贋作となっていた。


「キヒヒッ! 二刀流!? どこから剣なんて出したの!! 」


稲妻と共に駆ける雷少女の手には、放電の時を待つ雷が音を立てて帯電している。


「食らえ! ≪雷撃(トニトリス)≫!!」


放電する拳が音を置き去りにして、ジョーカーの体を貫いた。


まばゆい閃光が背中を貫通し、ジョーカーの眼や手足から地面に電気が伝導していく。口から白い煙を吹きつつ、全身からパチパチと静電気の音を鳴らす分身は、少し歩いて倒れ込んだ。


着物は焼け焦げ、つけていた狐のお面はからんと音を立てて床へと落ちる。


分身はジョーカーと寸分たがわぬコピーのため、本物があの雷攻撃を受けても、同じような末路を辿ることになる。その事実にジョーカーは身震いした。


しかし一方的と思われた雷少女の悪夢はここから始まった。


「……な、なんで? 」


雷少女の狼狽する声に呼応するように、フラフラと立ち上がる分身ジョーカー。白目を剥いており、意識などとうに無くなっているように思われるそれは、まるで操られた人形のように立ち上がった。


「……それがアナタの魔法? 」


キヒヒッ、という笑いも起こらないないほどショックを受けている雷少女は、分身ジョーカーから少し距離をとって様子を見始める。


分身ジョーカーはやがて体の傷がみるみる回復して行き、ついにはまるで攻撃など受けていなかったような体に戻る。もちろん全て演出であり、傷は愚かダメージという概念もそもそもない。


見えているのは演出チートが見せる幻覚だ。


本物のジョーカーは壁に持たれかかったまま、先ほどの魔法でまた彼女の体が一部炭化しているのを確認していた。


そしてこう嘘をつく。


「ワタクシの魔法は≪再生(リジェネ)≫、何度攻撃されても復活します」


そう言って分身ジョーカーは白目から元の黒目に戻り、狐のお面を拾い上げて顔につけた。魔法を打つのに限りのある雷少女に焦りの色が浮かんだのは言うまでもない。


そんな分身との戦いを眺めつつ、本物ジョーカーは他の戦闘にも目を向けていた。


フィオレッタと敵の一人がタイマンを、残りの一人をケルヒャーと巫女様が対峙している状況のようで、巫女様が先に一人を落としたおかげで戦況はコチラに有利に進んでいるようだった。


「逃げることも作戦の内……恥ずべきことではありません。しかしわざわざ戦うという選択肢を取ったのなら、私も手を貸すようなことはしません。頑張りなさい」


ジョーカーは心の中でそう言いながら、戦況を傍観する。


自分が三人分の分身を用意しても良かったのだが、誰一人として弱音も吐かず逃げもしないので、それに口を挟むのも野暮に思われたのだ。


「見つけた瞬間に踵を返して出口に戻れば、また違った選択肢もあったかも知れませんが……まあ、これもまた一つの選択ですね」


ジョーカーは、激しく火花散る戦闘を見ながらそんな感想を述べた。


そしてそれと同時に背後では、分身ジョーカーと雷少女による、熾烈な戦いが繰り広げられていた。


「キヒヒッ、結構やるじゃん」


「貴女も中々に手強いかと」


演出チートによって生み出された分身ジョーカーは、短剣と剣を器用に使い分けて戦いを有利に運ばせているようだった。


「貴方達は一体何者なのです? 」


「そんなの決まってんじゃん。てかアンタも異端核保持者なら知ってんじゃないの? 」


周知の事実と言わんばかりに、雷少女は腕を組む。


「いえ、存じ上げません」


「まさかアンタの異端核って天然物? へぇ……いるんだ、やっぱり……」


雷少女の言葉に首をかしげる分身ジョーカー。自分のことを異端核保持者と誤認させることには成功しているようだが、“天然物”、と言う言葉が引っ掛かる。


「アタシ達は同盟の聖職者達に、人工的に異端核との適合実験の末に生まれた、いわば失敗作。中途半端に魔法が使える代わりに、姿も、寿命も、何もかもが違う。ケヒヒッ……正真正銘の化物だよ」


体から帯電して発光して見せる彼女は、確かに人と言うには逸脱した存在のように見えた。


「なるほど。それで貴方達は同盟に復讐するため、帝国に加担しているというワケですか 」


「へぇ~…アタシ達のバックに帝国がついてるって知ってるんだ」


雷少女の静かな困惑に、ジョーカーは喋り過ぎたと自制する。そして話を逸らすように彼女のことを深堀していく。


「適合実験……そんなことを、トーレッドではやってるいるのですか? 」


「ココのことは知らない。アタシ達は連れてこられただけ」


雷少女は、自身の雷で焦げたのであろう腕のミサンガを触る。黒くなっているミサンガを触ると、ぽろぽろとゴミが出た。


「何十個っていう異端核が集められて、それぞれに適合して行くか見て行くの。ちょっとでも反応すればすぐ合体。それでもし失敗しても変わりに模造品(レプリカ)が生まれる。戦力増強にはもってこいだよね」


壊れたような笑みを浮かべる雷少女。諦めや達観を含んだ笑いのようにも見えた。


「その言い方だと、貴女たちのような方が他にも大勢いらっしゃるようですね」


「殆どは気が狂ってしぬんだけどさ。たまに私みたいに生き残っちゃうかわいそーな子もいるんだよね。……それでー、そう言う子には復讐っていうあま~いご褒美が貰えるんだよね!! 」


そう言いながら≪雷撃(トリニトス)≫を放つ雷少女。光と共に流れる電流が分身ジョーカーの体を貫き、感電させる。


バチバチと音をたてて黒焦げになる分身ジョーカーは、全身を震わせるが、しばらくの後、やはり何ともなかったかのように立ち上がってみせた。


「ちょっとお喋り……し過ぎちゃったかな」


雷少女の声からは疲労の色が見えた。稲妻を帯電していた両手は黒くなり、指先からボロボロと黒い破片が零れ落ちるまでに朽ちていた。


「ケヒヒッ……アナタ頑丈すぎ……なんなのマジで」


空元気で踏ん張る雷少女の顔には確かに絶望の色があった。


それを見てジョーカーは終わりを悟る。彼女はじきに自壊する、そんな気がした。


「申し訳ございません、そろそろ終了の時間が迫ってきているようです」


「はぁ? ……何それ本気で言ってる? 」


まるでショーが終わり、演目の全てが終わりを告げたかのように、分身は前に立って、雷少女に一礼する。当の本人も、汗を流しながら笑みを浮かべていた。自分のことは一番自分が良く分かっているのだろう。


「宜しければ、遺言をお聞かせていただけますか。叶えられることならば、ご協力致します」


「ハンっ……死のうが生きようが言いたいことはただ一つよ、異端核なんて全部消えてなくなっちゃえ。ケヒヒッ……」


そう恨み節を言う彼女。膝を折り、体力も限界に近づく彼女の体は、肩まで炭化しており、彼女の恨みと執念が、辛うじて彼女をこの戦場に立たせている状態だった。


「さようでございますか」


それを見てジョーカーは、初め彼女の自死を待つつもりでいたが、彼女を自らの手で葬ることを決める。

虚空が歪み人の形をとると、狐のお面をした少女がふわりと地面に立った。


雷少女の背後から本物のジョーカーはゆっくりと少女に近づく。


突如現れた謎の気配に雷少女はもちろん気がつくが、目の前の分身を本物と思っている以上、迂闊に視線を外すことが出来なかった。


そしてジョーカーはそっと彼女の後ろに立つ。


「お疲れ様でした」


「……え? 」


背後から聞こえた声に雷少女が振り返ったその刹那、本物の短剣が背後から心臓に向けて突き刺され、雷少女は前のめりで倒れ込んだ。


眠るようにジョーカーに抱きかかえられた雷少女は、まるで全ての機能が完全に停止したかのように炭化も止まった。そして胸からはキラキラと光る人差し指ほどの欠片が零れ落ちる。


『そいつは異端核(ルグズコア)の欠片だ。婆さんの手帳に同じ形のものが書いてある』


脳内でコマンダーの声が聞こえてきた。戦いが終わり、視覚共有でジョーカーの見ている景色を共有しているようだ。


『彼女はコレを無くして欲しいと言っていました』


ジョーカーはキラキラと黄色に光る異端核(ルグズコア)の欠片を、指先で転がしながら状態を確認する。


コマンダー曰く、等級は最下級の十等級とのこと。


異端核(ルグズコア)保持者が死ぬと自身の異端核を体外に放出するが、模造品(レプリカ)が死ぬ場合は最下級の十等級が体外に放出されるようだな』とコマンダーは言う。


そしてその欠片をまた誰かに埋め込み、体内で成長させることで、等級の高い異端核(ルグズコア)がまた体内から放出される……そんな地獄のサイクルに、ジョーカーは思わずため息が漏れた。


『レプリカ……死して初めて本物を生み出す贋作とは、随分悪趣味な道具を神は作ったものだな』


コマンダーの冷たい声が脳内に響く。


『殺さず分離できる方法があれば一番ですが』


ジョーカーはそう呟いた。


雷少女を手にかけた感触が、まだ手に残留していた。


『このままだと俺たちは、戦いがあるごとに女の子を手にかけることになるだろう。こんな胸糞の悪いやり方は、今回が最後だ。俺なら、俺達なら何か解決策を出せるはずだ』


コマンダーの言葉に、グスティーズは数秒間目を瞑る。短いながらも雷少女に向けての黙祷の意味があった。


次回:真夏の氷結

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