Alter.49 ハンサムの刃
【今日の今北産業】
・地下水路に潜入した巫女様とジョーカー。
・ジョーカーとコマンダーは仲が悪い?
・本泥棒を追う!
陽煌の節 8/20 18:40
シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド
ハッグハグ・モット卿の城 作戦室
運命の糸チートの赤い糸を辿っていたグスティ・ハンサムは、城の会議室前の扉に耳を欹てていた。
中からはバタバタと作戦室らしからぬ異音と怒声が重なって聞こえてくる。
「こりゃ助けがいるか」
ハンサムは扉を蹴って中に転がりこむと、朱色のローブに身を包んだ小柄な二名の密偵がナイフを片手に大立ち回りをしている最中だった。
モット卿の護衛の二人がやったのか、床には同じ輩と思われるローブに身を包んだ遺体が五つ転がっている。七人がかりでモット卿を襲い、護衛の二人に七人の内五人が殺されたらしい。
「ヒュー、さすがモット卿の護衛だ」
しかしタダでは済まなかったようで、護衛の二人とも腹と背中にナイフが突き刺さっており、絶命は時間の問題に思われた。
グスティ・ハンサムはそんな凄惨な現場を見て、過去に体験した護身竜の村での惨劇を思い出し、一瞬足がすくんだが、すぐにその後の後悔を思い出して前に一歩進んだ。
「助太刀するぜ」
少年の姿をしたグスティ・ハンサムが、刺客たちには異物に映ったのか、瀕死の護衛を置いてグスティ達に警戒を向けた。
『ビショップ、会議室へ来てくれ。怪我人がいる。これからも増えるかも知れない』
脳内でビショップに応援要請をすると、ハンサムは腰から馴れた手つきで剣を抜いた。
護身竜の村で受けた後悔で今日までの間、並々ならぬ努力を重ねてきた。その日々が一瞬走馬灯のように脳に駆け巡り、全身に入った力が適度に分散する。緊張することはない、やれるだけの準備は整えてきたのだ。後はその成果をそんまま発揮するだけ。何も恐れることはない。
刺客の二人はハンサム危険と認識したのか、二人で左右に分かれ挟撃するように、広い作戦室の壁を走って襲い掛かった。
並みの兵士ならば動揺して、守りに入ってしまいそうな場面でも、ハンサムは一歩前に出て、片方に狙いを絞る。
短剣の相手にリーチを生かした剣の突きで3回、相手の胸元に剣を突き込む。密偵はその連撃を交わすと、剣のリーチから外れるようにしゃがみ、床に手をついて足払いを仕掛けた。
殺意に満ちた洗練されたカウンター。並みの訓練では体得出来ない身のこなしだった。
「……ヌッ! 」
それに間一髪、グスティは反応し後ろに跳ぶと、同時に伸びた足首を斬り払った。
ビシャと室内に鮮血が弧を描き、あ゛ぁと甲高い、密偵の呻き声が響く。
それに憤ったもう一方の密偵が後ろから突き刺しに来るが、その攻撃からものけ反るように体を捻り、床を転がり距離をとった。
結果無傷で一人の足首を負傷させ、もう一人と対面勝負をする状況を作ることが出来る。
相手との間隔を取りながら、ハンサムは敵の背後に護衛二人が来るように動きを誘導させていく。
「誰だか知らんが、そろそろ諦めたらどうだ? 今逃げりゃ、命ぐらいは助かるかも知れないぜ」
ハンサムは血に濡れた剣を振り払い、その時初めて相手の顔を見たが、その密偵は十四~五の少女だった。床に倒れる骸もまた同じような年ごろの少年少女ばかり。彼女達がどういった境遇でこの場にいるのかハンサムは知らなかったが、並々ならぬ理由があることは推し量ることが出来た。
「引く気はない……か」
ハンサムは運命の糸チートを有効化する。自分を中心に様々な道具や少女に向けて運命の糸が向けられた。ハンサムが選ぶ未来が線となって可視化され、白や赤の糸でそれは示される。無数に広がる赤い線は、自分か相手が死ぬ未来を予測した。
そしてその中でハンサムは、青色の糸に繋がる木の椅子に目がいく。青色の糸は無難に良い色だ。コチラにメリットがある場合にその糸は青く染まる。
「死ね!! 」
刺客は狂気的な笑みを浮かべ突進してきたが、グスティは咄嗟に床に転がっていた木の椅子を蹴り上げ、少女の体にぶつけた。
密偵の動きを止めたかと思うと、グスティはすぐさま指で合図を送った。それを受け取るのはもちろん、瀕死の護衛達だ。重症を負った護衛達二人は最後の力を振り絞り、少女を背中から串刺しにした。
「ガァアアアアア……! 」
地面に転がされ血のあぶくを吐く刺客の少女。
「最後に言い残すことは? 」と聞くと「……許さない」と呪詛を残して刺客は息を引き取った。
そうして事態が収拾したのを見計らってグスティ・ビショップが顔を出す。
「あふぅ、なんですかこの血の池じごくぅ」
修道服を来たキナ臭い少女を前に、護衛達は警戒の色を示したが、すぐにハンサムが首を振った事で味方と判断したのか剣を収めた。
「全員治してやってくれ」
「はひぃ」
ビショップが癒しの霧チートを使うと、護衛二人からは「治療系の纏衣か? 珍しい」と、自分達が助かるかも知れないという希望と喜びに満ちた震え声が洩れる。
アドレナリンはまだ出ているだろうが、護衛の二人とも汗びっしょりの顔つきで、若干顔色も青かった。
「君たちは何者だ」
護衛の一人がハンサムに聞く。グスティーズの正体を公にすることはないため、グスティ・ハンサムは適当にはぐらかすことにした。
「護身竜の村の者だ。巫女様に言われ、モット卿の救援に参上した。間に合ったようで何よりだ」
ハンサムとビショップはペコリと頭を下げる。
謎の少女の軍団に襲われ、それを少年少女が助けに入り一命をとりとめるという、なんとも不思議な体験をした彼らにとって、普段では到底信じられないハンサムの言葉も、今なら鵜呑みにすることもできた。
「なんと巫女の…!? 地下水道にいると聞いていたが、なるほど……全てお見通しというワケか。……叶わぬな」
護衛や密偵の血が顔や体に飛び散ったモット卿は震え声で、膝を笑わせながらマカボニー製の椅子に腰を下ろす。座った後もカタカタと足が震えており、貧乏ゆすりが止まらないようだった。
癒しの霧チートで傷がジュクジュクと塞がっていく中、足を斬りつけた刺客がフラフラと短剣を持って立ち上がろうとしていたので、前蹴りで壁に突き飛ばし、腕を拘束した。
「拘束用のなんかは……あぁ、良いのがあるな」
先ほど死んだ密偵のローブを剥ぐと、それを腕に撒いて簡易的に拘束を行った。手錠や縄が来るまでの一時的な物にしては上等なものが完成する。
「はぐっ…! 」
拘束したのも束の間、少女は床に向かって頭突きを繰り返し自害しようとしたため、胸倉を掴んで持ち上げた。
「こらこら、勝手に死のうなんて考えるじゃないぜ。お前さんには情報を吐くっつー大事な役目があんの。だから勝手に死のうなんて考えは、潔くよく捨てて貰おうか」
グスティ・ハンサムの言葉に、血走った眼で手首に噛みつこうとする少女。
それを危険と判断して即座に口に布を挟みこみ、結果腕と口を拘束した状態で床に転がされた少女は、血走った眼でモット卿を睨んだ。モット卿もよくぞこれだけ恨みを買えたモノだと、グスティは肩を竦めた。
彼は一体どうしたらいいもんかと、狙われた本人に聞いた。
「どうする? 少女を拷問にかける趣味はないんで、俺としちゃあ、そちらに預けたいんだけど」
「ソレはここで殺して構わん。所詮は出来損ないだ」
モット卿らしからぬ言葉にハンサムは自分の耳を疑ったが、命を狙われ、多少気が動転しているところもあるのだろうと考え、一時的に密偵の少女は自分達で預かることにした。
「殺していいなら、この命、俺達が預からせて貰おうか。なに、代金はそこの護衛二人の治療費で結構」
「な!? 」
「許されんぞ、そのような蛮行は!? 」
護衛達の声を無視して、グスティ・ハンサムは簀巻きにした少女を抱えて外へ出る。彼女の口から全てが語られることを願いつつ、ハンサムは自分の部屋に彼女を連れ帰った。
次回:亡霊の戦略




