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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章中編:護身竜の村奪還作戦【本泥棒編】

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Alter.47 発見は突然に

【本日十六回目の今北産業】

・同盟領産と帝国産、それぞれゴーレムには別の特徴がある。

・エーテルポットで動く。

・エーテルポットの補給には金貨5枚が必要。

                     陽煌の節 8/20 14:00

           シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド

           ハッグハグ・モット卿の城 ザバーニャの部屋




「どいつもこいつも口を割らない……一体何が原因なわけ? 」


汗だくの竜の巫女はいつになく機嫌が悪かった。

町やスラムに出向いてまで情報収集をしているというのに、城内では有名な本泥棒について誰も情報を持っていなかったためだ。


顔を隠して町をうろつく貴人に、誰もが警戒するのも無理からぬことだが、本人はそれが普通の日常であるため何も異常とは思ってもいなかった。


そして隣で警備をしているグスティ・ジョーカーもまた、そのことについて何も触れず、沈黙したまま付き従っていた。


そして狐面の裏に隠れた顔が笑っているのか、困っているのかはグスティーズのみぞ知る。


ただジョーカーは粛々と巫女様の傍に立ち、巫女様が立ち止まれば扇で扇いで、彼女が少しでも涼しくなるように努めた。


そんなジョーカーを気に入ったのか、巫女様はジョーカーに色々と頼み事をするようにもなる。


だいたいは、「飲み物はある? 」や、「扇いで」などの簡単な命令だが、ジョーカーにはそれが全員共有するべき重要案件だった。


『グスティーズ各位にご通達。今朝から今までの命令回数、6回。竜の巫女がワタクシを頼りにする回数は増加傾向にあり、大変行幸』


他のグスティーズに報告をすると、対応できる四名から脳内でまばらに拍手が起こった。


『新記録おめでとうございます。何か道具をご所望でしたら、私がご用意します。なんでも仰って下さい。ジョーカー』と、クラフト。


『やっぱ同じ女同士ってのは、大きそうだな』と言うコマンダーに、

『次に合体して分裂する時はナイト以外全員女で良さそうですね』と、ベニスが続く。しかしそれに待ったをかける人格も存在した。


『少女相手になら心開くことは分かったけどさあ、ショタが巫女様の性癖に合ってるかどうかのテストも必要じゃないか? 結果さえ良けりゃ、分裂したままの方が良いって結論になるだろうし』と、ハンサムが言ったところで、会議は中段される。


竜の巫女に話かけられ、ジョーカーは我に返ったためだった。


「なに? ボーとして。暑さで頭でもやられた? 」


「いえ。頼りにされることが嬉しかったので。つい」


「アンタもグスティなんだろうけど、アイツよりなんだか解りやすい気がする。変な話かも知れないけど」


「理解不能です。私のベースはグスティ・ウェン。それから派生した存在であるワタクシが、彼よりも解りやすいというのは……不可解、でございます」


「それぐらいが可愛げがあって丁度いいから、アンタはそのままでいてちょうだい。下手に育って“アレ”になるのだと思うと頭痛がしてくるから」


「……不服です」


巫女様はそんなジョーカーを見て、初めて彼女の頭をポンポンと撫でた。


その行動にギョッとしたジョーカーは一瞬頭が真っ白になる。


「まさか、姉属性とは……不覚」


「何言ってんのよ。アンタは? そう言うところはグスティなのね」


そう言えば村でも彼女はアファカと姉妹だった。姉属性を持っていてもなんら不思議ではない。計算外の

パンチに面喰いながらも、ジョーカーは今起こったことをありのままグスティーズに伝えた。


すると全員の思考がショートし、会議は混沌を極めた。


グスティという存在は、巫女様にとって全ての元凶であり、災いの象徴のはず。そんな彼女が見せた優しさに全員の脳が焼かれてしまっていた。


『なんで俺達優しくされているんだ!? 』と、コマンダー。


『私達は彼女に罰せられるべきなのにぃ』と、ビショップ。


『償いどころか、彼女に更に与えられているような気がします』と、クラフト。


『このままじゃあ借りを作ってばかりですね。どうしましょう』とベニス。


『巫女様が本泥棒を見つけられるように協力する?』とアサシンの言葉に、他の七人が『絶対にダメ』と返す。


『歯がゆくてムカつく』と、アサシンも会議の中で地団太を踏んだ。


『巫女様には巫女様の考えがあって行動なさっている。我々がそれを鑑賞することはあっても、干渉する

ことはあってはならないでしょう』とベニスがアサシンの怒りを収めた。コレはグスティーズの総意だった。


『不用意に彼女に触れて、彼女の考えや在り方を損なうようなことが無いように。ただ彼女の失った幸せを取り戻すためにだけ動く』とコマンダーが全員に向け、戒めのように話す。グスティーズの行動原理の全ては彼のこの言葉にあった。


村の人間を助けるのも、村を奪還するために力をつけるのも、イナンナを助けリハビリを継続するのも、全てがこの行動原理に基づいて行われる。


そのため、彼女が失ったモノではない今回の花泥棒の一件は、グスティは干渉しないこと貫いていた。

そしてグスティーズは、あと一歩のところまで、花泥棒を追い詰めていたところだったのだが――。グス

ティーズにとって予想外の出来事が起きてしまう。


コンコンと扉をノックする音に、巫女様は立ち上がるとさっと布隠しがついた帽子を被り、ジョーカーが部屋の扉を開く。


入ってきたのは、ケルヒャー二等兵と白ビキニのフィオレッタだった。竜の巫女が協力をしていたシグマリア隊の二人で、三人で調査を進めていたのだが、その二人が会いに来たのだ。


「なによ、そんなに急いで」


竜の巫女は息を切らしてやってきた二人に聞く。


ジョーカーは無言で飲み物をコップに注ぎ、二人に手渡した。二人はそれを一杯飲んでから、


「本泥棒の潜伏場所が分かりました! 中心の高級住宅街のある地下水路です! 」


と、ケルヒャーが先に膝に手を置いて息を整えながら言った。話しを聞くに、偶然高級住宅街を巡回していた兵士が小汚い服装の人間が出入りしているのを確認し、後を追跡した結果発見に至ったらしい。


スラムを中心に捜索していたグスティとは真反対の位置で行われていた犯行で、思わずグスティーズはしてやられてたと思いながら、自分の先入観を猛省する。


「泥棒は貧乏な人間がすること」という彼の先入観が、自然と金持ちの住む住宅街を、花泥棒の潜伏先候補から除外してしまっていたのだ。


「やっと掴んだ尻尾ね。急いで向かいましょ」


首をゴキゴキと鳴らしながら、ローブに身を纏う竜の巫女。


グスティーズは情報に修正をかけつつ、新たに敵の行動範囲を絞っていく。移動する準備は出来ていた。


そんな二人の様子を見て、ケルヒャーが「巫女様、今はシグマリアを解除しても大丈夫ですよ」と言うと、部屋の外へ出ようとした竜の巫女は不思議そうに、「纏衣(シグマリア)ってなんの話…?」と聞いた。


三人の間に微妙な空気が流れたのをジョーカーは感じつつ、竜の巫女にシグマリアとはどういうものか耳打ちをした。


するとしばらく考えるように頭を捻ると、巫女様はあっけらかんとした様子で、

「アタシ、シグマリアってヤツは使えないわよ」と言った。


それに驚いたケルヒャーとフィオレッタは、彼女の四肢に生えている竜の鱗に目をやった。


「でもその姿は、シグマリアではないのですか? 」とケルヒャー二等兵が当然の疑問のように指摘する。


竜の巫女は確かに大きな竜の右腕や、鱗を纏った四肢に角、翼、それに目だって竜のモノを持っているが、しかしこれは異端核を受け入れた時からのものだった。シグマリアを発動しているから竜の姿に近い

というワケではない。


それゆえに神聖視され、外出時などにも顔や体を隠すような装備が欠かせないのだ。しかしケルヒャーは自分の常識をひっくり返されて混乱しているのか、事実確認をするように続ける。


「で、でも巫女様は私にその状態で魔法の火球を打つところを見せてくれましたよね。魔法は『集中しているシグマリアの状態じゃないと打てない』はずです」


「別に火球なんて……手を握るぐらい自然に出せるわ。なによその目、不思議なものを見るような目で見ないでちょうだい」


開いた口が塞がらないケルヒャーは、真夏の暑さのせいで自分がおかしくなっているのだと無理やり自分を納得させる。


そして同様に理解出来ない現象に相対していたフィオレッタはケルヒャーとは対照的に、

「攻撃出来るなら、話は後で良いんじゃない? とりあえず皆で犯人逮捕に行かなきゃ」

と、別に気にしていないようだった。


「そうね、とりあえず現場に向かいましょ」


こうして三人が扉から出て行く時、竜の巫女がジョーカーに向かって「アンタはイナンナに外出するって伝えて来て」と命令を出す。


しかしそれにジョーカーは、「既にビショップに伝言済みです。ご一緒します」と即座に返答をした。他のグスティーズは彼女達の会話をリアルタイムでジョーカーの耳から聞いていたので、既に各自やるべきことに取り掛かっていた。


全員心の中で『フェルが本泥棒じゃありませんように』と願いながら。


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