Alter.46 ゴーレムの特徴
【本日十五回目の今北産業】
・フェル?
・フェルが本泥棒?
・ただの妄想かも?
格納庫へ向かうと、訓練を終えたオールウィット隊の面々と鉢合わせた。ナイトもまた、ふらつきながらもどうにか訓練を終えたらしい。癒しの霧チートがない中での訓練は相当応えたようで、脳内で喋る余裕すらないようだった。
「そうだ!駆動後にしか見られない場所もあるから、そこを見ようよ!」
フェルは早速工具を手にし、グスティ・ナイトが乗っていたゴーレムのコックピットへ滑り込んだ。
炎天下で動き続けたゴーレムは、卵を落とせば目玉焼きが作れるほど熱気を帯び、その内部は容易に人間を拷問できる環境と化していた。
帝国が夏場に進軍してこない理由を目の当たりにし、クラフトは顔を顰めながらフェルの後を追ってコックピットに乗り込む。
フェルは分厚い手袋をはめ、赤子ほどの大きさのエーテルポッド、燃料ボトルを取り出した。挿入口とエーテルポッドの双方から濛々と湯気が立ち込め、先ほどまでの激しい駆動を物語る。
「触ると火傷するから、冷めてからにしてくださいね」
と前置きされ、エーテルポッドの解説が始まった。
「エーテルポッドは待機中のエーテルを液状化する装置で、効率良くゴーレムにエーテルを送り込む優れものなんだ。走行距離はなんと500kmとも言われている。でも、改善できていない弱点として、満タンまでエーテルポッドを満たすには、金貨5枚が必要になるんだ」
「必要経費とはいえ、馬鹿になりませんね」
「うん。だけど、帝国産のゴーレムは違うよ。石油とのハイブリッド式だから、エーテルポッドのみで動くシュヴァルツ諸侯同盟領産のゴーレムより、ずっと遠くまで走るんだ。元々侵略を主眼に置いて作られたゴーレムだから、補給がなくても長期間戦えるように設計されたんだろうね」
「技術的に、他国は帝国に一歩遅れているという意味ですか?」
クラフトが問うと、フェルは腕を組み、しばし思案した後、人差し指を口元に当て、同盟産ゴーレムの利点を話し始めた。
「ううん。諸侯同盟のゴーレムは豊富な拡張性が一番の特徴じゃないかな。ほら、ここは寒い地域だけど、すぐ下には砂漠があるくらい寒暖差の激しい国でしょ? そういう場所でもすぐに換装できるよう、装甲から内部構造まで、あらゆるパーツが簡単に付け替えられるように規格化されているのが強みなんだ。ここのブランディ博士はやっぱり凄いよ」
外に出て、少し冷めた上部装甲の一枚を剥がして中を覗くと、確かに帝国産のゴーレムが内部で無造作にケーブルや機器を詰め込んでいるのに対し、同盟産のゴーレムは部品ごとに明確に区画整理されており、僅かながら空間の余裕さえあった。
そしてそこから見える下半身からは、筋肉の赤身が覗いて見えた。
最高機密であるゴーレムの下半身は、取り扱う技師であっても、許可なく触れることはほとんど許されない完全なブラックボックスだ。
そんな技術を目の当たりにしたクラフトは、他の技術よりも何十年も先を行くゴーレムの技術力に舌を巻いた。戦争がこの歪な成長を促したのかと、その原因を漠然と考えるクラフトだったが、答えを探す前に別の事柄に関心が移った。
「様々な場所で戦えるというのは、具体的にどこを想定されているのですか?」
「そんなの、右上からは帝国が攻めてきているし、下には神聖シラクーザ王国が両国に睨みを利かせているでしょ? 雪原でも砂漠でも戦えるようにってことじゃないかな」
そう聞くと、途端に自陣営のゴーレムが途方もなく素晴らしいものに見えてくるのは、きっとフェルの話術が巧みだからだろうとクラフトは考えた。
おそらく、深く掘り下げて尋ねれば、帝国産や王国産にもそれぞれ利点があるのだろう。しかし、クラフトはこの拡張性と規格化されているという点で、他の二国と一線を画すゴーレムを開発したいと考えるのは当然の流れだった。
クラフトの持つ工作チートは、知識があれば、天啓にも似た発想の飛躍を可能にする力だ。
例えば、スポンジと生クリームとイチゴがあれば、瞬時にショートケーキの構造を閃き、その製作過程に必要な技術も漠然と理解できるといった類の力である。
クラフトの能力と同盟産ゴーレムの拡張性が絡み合った結果、既にクラフトの脳内には、無数のゴーレムの設計図が次々と描かれ、記憶されていった。
そんな彼女の脳内に待ったをかけたのは、脳内から響く、別のグスティの声だった。
『着いたけど……まだお喋りしたいの?』
グスティ・アサシンが怒気を孕んだ声が脳内に響く。周囲にはフェルとクラフト以外には誰も見当たらなかったが、アサシンは確かに同じ空間に存在しているらしい。インビジブルチートの力が、見事に機能しているようだった。
「申し訳ありません、フェルさん。急用を思い出してしまいました」
「えっ、お使いでも頼まれてた?」
「いいえ。友人とのお約束を。一時間の遅刻です」
「えー!じゃあ、早く行ってあげなきゃ!」
「はい。失礼します。本日はとても有意義な時間をありがとうございます」
「良いって!早く行ってあげて!」
手を振ってフェルと別れるクラフト。あんなに人が良さそうな彼女が本泥棒の一人だとは考えたくもなかったが、クラフトは思考を振り払い、自分の部屋へ戻った。後はアサシンが何とか証拠を掴んでくるはずである。
「はい。さようなら」
これが最後の言葉にならぬことを祈って、クラフトは彼女と別れた。




