Alter.45 フェル?
【本日十四回目の今北産業】
・イナンナにはビショップがついている。
・水着ギャルのフェリシアと出会う。
・フェリシアは涼しく出来る異端核を持つ。
「ゴーレムの下へ向かわなければ」
しかし天然サウナとなっている格納庫へ向かう足取りは重く、少しでも涼しい空間でゴーレムの調整を出来ればと、先ほどの贅沢を思い出しながらクラフトは格納庫へと向かうのだった。
その道すがら、格納庫の地下に向かう見慣れぬ階段を発見する。関係者以外立ち入り禁止の立て看板が置かれており、その前で階段下にあるモノを覗こうと背伸びをしていると、整備士のお姉さんに声をかけられた。
「きみ、そこで何しているんですか? 」
帽子を深くかぶったお姉さんは後ろになってシゲシゲとクラフトを観察し始めた。
先ほどの休憩室にはいなかったが、彼女も整備士であることはクラフトも知っていた。
なぜならグスティが分裂する前に、彼のゴーレムの整備をしてくれたのが彼女だからである。鹵獲した帝国のゴーレムをシュヴァルツ諸侯同盟領のモノとして動かせるように改造をした腕利きの技術者、それが彼女だった。
「いえ、ゴーレムについて少し勉強しようかと格納庫へ向かう途中でした」
「見ない顔ですが、誰かの娘さんですか? もしかしてモット卿の? 」
「いえいえ、私はグスティ・ウェンの妹のクラフトと申します」
「クラフト・ウェンさん…? 」
「はい。ご存知ないでしょうか。オールウィット隊に所属していると聞いています」
「ええ、それは知っているけれど。そう……兄妹がいたなんて」
「…それでは失礼します」
去ろうとしたクラフトの袖を引っ張って引き留める整備士。
「ちょ、ちょっと待って! よければゴーレムについて教えて差し上げられますよ。時間の都合はいかがでしょうか? 」
焦る整備士を不審な表情で見るクラフト。女同士でナンパなんてありえるのだろうかと、少し考えてみる。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」
クラフトはそう言ってにこやかに笑みを浮かべつつ、内心ではこの女が何者なのか強い警戒心を抱いていた。
「そう言えばまだお名前を聞いていませんでした。なんとお呼びすればよろしいでしょうか」
クラフトは帽子に隠れた整備士の目をまじまじと覗き込むように見ると、彼女は帽子を取って挨拶した。
「私の名前はフェルといいます」
虚ろな目をした乙女の名と顔に、クラフトは表情を変えずに驚いた。トーレッドにきてまもなくの頃に出会った、顔のパーツ全てが平凡な女性。ズッパ―ラを進めた乙女に彼女はソックリだったのだ。
同姓同名の別人と言うには顔が似すぎている。しかし、一ヵ月でゴーレムの整備士になれるなどあり得ない話。間違いない、彼女本人だ。
整備士が副業で花売りをしていた、と言うのが一番有り得そうな話だが、ゴーレムの整備士は高給取りだ。花売りをする理由はない。
クラフトは一番ありえなさそうな、『花売りを理由に、歳の近い男と遊ぶ痴女なのかも知れない』と言う妄想で悶々としながら、他の理由を探した。
そしてふと自分が彼女とした話を思い出す。
あの日、プラザ・デル・ソルの噴水前広場でグスティはフェルと名乗る女と以下のような話をした。
『旦那様、何か失礼なこと考えてません?』
『いいや。ただ少し君の顔を見て懐かしい気持ちになったんだ』
『あ~もしかして君は妹によく似ている、とかそう言う話ですか~? キャ~』
『どこから出たんだよ。その発想』
『えへへ、この町の図書館で見たんです。それはそうと、はじめにどこへ参りましょうか。お食事ですか? 観光ですか? それとも、うふふ、宿屋にでも行かれます? 追加料金発生しますけど』
このような会話をしたのだが、グスティはこの時はまだ知らなかったのだ。
図書館は貴族であるモット卿の所有物であり、民間人では一部の人間にしか利用できないものである。間違っても花売りが気軽に閲覧できる書物など存在しない。
そして最近ではそういうイリーガルな方法で本を手に入れる『本泥棒』もこの都にはいるという。
クラフトはこの発想の飛躍が自分の誤った思考であることを願いつつ、あえて彼女との会話では『本泥棒』の存在は伏せることにした。
「フェル……さん。よろしくお願いします。知らない事ばかりですので、初歩から教えていただけると幸いです」
「任せてください。私、ゴーレムのことについては少し詳しいですから」
そうして彼女の後ろについて行くクラフト、内心では彼女への疑念が深まるばかりで、早くこのモヤモヤを取り除きたい気持ちに駆られ、他のグスティーズに脳内でフェルの情報を伝えた。
『本当かよ。フェルが整備士だって? 』と驚きの声をあげるコマンダー。
『ならず者達から本泥棒は複数という情報があった。彼女がその一人という可能性は十分に考えられる』とベニス。
『巫女様は常駐するシグマリア隊と連携を取り、捜査を開始しております。アサシンの手が空くかと』とジョーカー。
『私に尾行して欲しいならそう言えばいいのに。……マジムカつく』と、最後にアサシンがフェルの尾行をすることが脳内会議で決定される。
そしてクラフトはアサシンが来るまでの間、彼女を引き留めることになった。




