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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章中編:護身竜の村奪還作戦【本泥棒編】

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Alter.44 本泥棒を探せ

【本日十三回目の今北産業】

・巫女様に分裂したことをお伝えした。

・巫女様にアイアンクロ―をされ、グスティの内の一人にダメージが。

・グスティはあらゆる物を感覚共有することができる。

                      陽煌の節 8/14 14:00

            シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド

        ハッグハグ・モット卿の城 病室 現 イナンナの部屋



「ほほう…それで? 巫女様の命令で、私のところにやってきたのが君というワケか」


「そうなりますぅ」


修道服を来たグスティ・ビショップ(女)はイナンナにペコリと頭を下げて、リハビリのお手伝いを始める。


タオルを準備したり、リハビリのために道具を用意したりと、その補助は多岐にわたる。


「服装といい、声といいグスティには到底見えんな」


歯抜け声のビショップはイナンナの汗を拭きつつ、


「でしたら私のことはビショップとお呼び下さひぃぃ」


と改めて自己紹介をした。


ビショップは地道なイナンナのリハビリと運動後のストレッチがメインの仕事に割り振られていた。


「なんでそんな喋り方なんだ? 」


「ふぇ~……キャラ付けと思って下されば感謝するかもぉ知れないですぅ」


「ハッハッハッ―――そうかそうか、よく分からんがお前も大変なんだな」


うんうんと頷いて自分のリハビリを再開するイナンナ。


つきっきりでリハビリを手伝えるようになったおかげで、食事やより効果的なリハビリメニューを提供できるようになったため、より早期の回復が見込まれるだろう。


「とこでこのリハビリメニュー、このまま続けて大丈夫だろうか? 」


「たぶん……」


医者に言われたくない言葉第一を平然と口にするビショップに、イナンナは一筋の汗が頬を伝った。


「……ハッハッハッ、なるほど。まあ一度は君に救われた命だ。身を任せてみるとしよう。頼むぞ。ビショップ」


思い切りの良さは彼女の美点ともいえるし、欠点ともいえる。今回はどうやら上手くグスティ・ビショップと噛み合ったようだった。


「うぅ……憂鬱ですぅ……」


そんなことを漏らすビショップだったが、密にやりがいも感じているようだった。





                    陽煌の節 8/14 14:00

          シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド

                         兵舎 格納庫




「クラフト、そろそろ休憩していいぞ。弁当があるから、持って行きなさい」


「はい、了解しました」


整備士の親父さんに言われて、スパナを片手に額に汗をかくクラフト。


長時間の説得の末にグスティの妹として認められたクラフトは、整備士の一員として格納庫に留まることを許されていた。


そんな彼女は遅めの昼食を求め、熱のこもった格納庫を歩く。


中では日陰から水を撒く者や、食事を忘れてゴーレムの内部パーツとにらめっこしている技術者の姿も散見された。


格納庫の外ではグラウンドで走らされているグスティ・ナイトが、陽炎の中から確認することが出来る。


小さくなっても、オールウィット隊長のしごきは相変わらずのようで、ヒイヒイ言わされているようだった。


「フフッ……頑張っているようですね」


そんなナイトの仕事っぷりを見て、クラフトは余裕そうに伸びをして兵舎の中に入って行く。


グスティ・クラフトは格納庫で働く整備士に混ざって、ゴーレムの整備を手伝っていた。彼女がなぜこんなことをしているかと言うと、当然情報収集のためだった。


城の中にある図書館で本を盗まれたというのなら、内側に手引きをしたと考えるのは自然なこと。


巫女様もその考えに賛同し、クラフトは自らこの場所で情報収集することを選んだが、それはあくまで表向きの理由。


花泥棒の件は既に盗賊ギルドの頭領と話をつけているため、再発は有り得ない。だから気ままにゴーレムについて勉強しようと思ったのだった。


理由は単純で、この世界の文明力から明らかに乖離した存在であるゴーレムが、一体どんな仕組みで動いているのか、気になるのは文化人として当然のことだった。


「おべんとう、おべんとう、どこにあるかな、おべんとう」


弁当を探して整備士がすし詰めになっている部屋の扉を開くと、中は以外にひんやりしており、冷房設備がどこにあるのかとクラフトは部屋を見渡すほど、そこは快適な空調が維持されていた。


「おや……これは明らかに人為的な冷たさです……が…」


そんな言葉が詰まるほどすぐに、その空調管理に貢献しているであろう存在はすぐに見つけることが出来た。なんと部屋には軍服を肩にかけた水着姿のギャルが立っていて、そこから出る冷気でオッサン達を涼ませていたのだ。


「え、えぇ~!? なんでこんな場所に水着ギャルが!? 」


クラフトの心の叫びが視線となって突き刺さったのか、水着ギャルと視線が重なった。


「あ、あの……すみません…」


ギャルと対面すると委縮してしまうギャル恐怖症が発動するグスティ・クラフト。しかし、水着ギャルはカラッとした太陽のような笑顔で手招きをした。


「どったの~? おいでよー」


「えっと、わ、わたくしに言ってらっしゃいます? 」


「はやく~! そこ暑いでしょー!? 」


オタクに優しいギャルかも知れないと、クラフトはひょこひょこと歩いて近づく。グスティの記憶が警鐘を鳴らしていたが、ココは異世界。クラフトは記憶よりも今見ている現実を受け入れた。


「は、はい!今行きます! 」


水着ギャルは白のビキニで、小麦色に焼けた褐色の肌とのコントラストが趣深く、部屋に花を添えるように、部屋全体に彩を持たせていた。


「ほ~ら、冷たいでしょ~? 」


水着ギャルのお姉さんは、胸までクルっと巻かれた茶髪のロングヘア―で、部屋の中だと言うのに白のサングラスをかけていた。クラフトがそのことにツッコミを入れるのは、しばらく涼みながら弁当を食べた後のことである。


「つかぬことをお伺いしてもよろしいでしょうか…? 」


「どったの? 」


「なぜサングラスを室内でかけられておられるのでしょうか…? 」


「アッハッハッハッハッ」


なぜかギャルに笑われているグスティ・クラフトは、自分が何か変なことをしたのではないかと疑心暗鬼になる。


「ヒィ…何か面白かったでしょうか」


「いや、ちっちゃいのに畏まった喋り方する子だなぁって思っただけだから安心して」


「それはつまり大人びているということでしょうか」


「そうそう。アハッ、私より賢いかも! ていうか服かわいい~エプロンじゃん! 」


何が面白いのか水着ギャルはずっと笑っている。クラフトは彼女の太陽のような光に焼かれまいと抵抗するが、水着ギャルに抱き着かれて頭を撫でられると、その理性は完全に吹っ飛んでしまう。


「か、可愛いでしょうか」


トレードマークのエプロンを右手に掴みながら俯くクラフト。これでは情報収集どころではなかった。


「キャ~! 可愛いー! もっと撫でていい? 」


「あの、それは大変結構なのですが、お話を聞いていただきたく」


ビキニの水着ギャルに抱きしめられながら、クラフトは本泥棒の件についてギャルに説明した。すると、ギャルは少し考えて「そう言えば騒ぎになってたね、友達に聞いてみよっか」と言ってくれた。


「お友達ですか? 」


「うん。アタシここのシグマリア隊に所属してるフィオレッタって言うの。よろしくね」


シグマリア隊と言うと、異端核保持者が集まる部隊の名称だ。クラフトは一瞬冷静になり、この水着ギャルが異端核保持者で冷気を操る異端核を持っているのだと、理解した。


しかし水着ギャルの冷気を纏った抱擁を受けながら、周りで冷気を受け止めるおじさん達に嫉妬の目を向けられる愉悦感で、彼女はすぐに浮かれ馬鹿に戻った。


この時ばかりはクラフト自身、分裂した時に少女でよかったと、心の底から自分の生まれに感謝していた。


「あ、はい。不肖このワタクシメはクラフトと申すものでございます。能力は物を作ることで、お菓子や道具などを作ることが出来ます、はい」


クラフトはフスンと胸を張る。


「うそ、ほんと?お菓子作れるとか凄くない!? 今度一緒に作ろ! 」


余りに眩しいお誘いに、薄目に頷くことしか出来ないクラフト。


そんな不思議な行動をとるクラフトを流して、頭の上に顎を乗っける水着ギャルのフィオレッタ。


周囲のオッサン達の「そこを代われ」という熱い視線を無視できるのであれば、最高の居心地空間だった。


しかし、そんな幸せな時間もすぐに終わってしまう。


整備士たちの休憩時間が終わり、部屋が空になるためフィオレッタも出て行ってしまうからだ。


「行ってしまうのですね」


「アタシこうやって兵舎の中を周りながら涼しくして回ってるから、また会うこともあるかもね~、じゃあねークラフト! 」


こうして冷気を届けるために廊下に消えていったフィオレッタ。柑橘系の彼女の残り香だけが、今は彼女がここにいた印としてあるだけである。


「夏の妖精さんですね」


クラフトは髪を掻き上げて、満たされた腹をさすりながら、熱い格納庫へと戻っていく。なぜなら自分のゴーレムをカスタマイズするという、彼女には大きな目標があるからだ。


「ゴーレムの下へ向かわなければ」


しかし天然サウナとなっている格納庫へ向かう足取りは重く、少しでも涼しい空間でゴーレムの調整を出来ればと、先ほどの贅沢を思い出しながらクラフトは格納庫へと向かうのだった。






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