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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章中編:護身竜の村奪還作戦【本泥棒編】

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Alter.40 取引

【本日九回目の今北産業】

・酒場のオッサンは盗賊ギルドの頭領。

・頭領は葉巻が好き。

・最近盗賊ギルドは儲かっている。

「それじゃあ最近は何をしているんだ? 」


「教えると思うか? 」


頭領からの気遣いの言葉だった。彼らにとってそこが光と闇の境界線だった。これ以上踏み込めば闇の住人になる。だから優しさと親しみを込めて彼はグスティにそう言った。


そしてその気遣いに気が付かないグスティでもなかった。ペコリと頭を下げて頭を掻く。


「あー……いや、確かに流石にそこまで踏み込むと俺が危険か。うん。じゃあその話は置いて置こう。それはそれとして、最近ちょっと世間を騒がしている本泥棒がいるんだが……何か知らないか? 」


グスティが本泥棒の名を口にすると、盗賊ギルドの他のメンバーの手が止まり、視線が一点に集中した。


頭領だけが、酒を傾けつつグラスの丸氷に目を向けている。


「ああ。知っている」


葉巻を咥えた頭領の口からは、山から流れる霧のように葉巻の煙が落ち続けている。そして山の稜線を流れ下るように体からソファに落ちて、床へと霧散していった。


「身内か? 」


巡回兵がその確認を取ることは本来有り得ない。


知っていると言った時点で身内であろうとなかろうと、情報を吐かせて逮捕に努めるのが常である。しかし先ほどの礼としてグスティは、改めて彼に聞いた。


するとなんでもないかのように頭領は、「ああ」と答える。


二人の間にしばらくの沈黙が流れた。素直に身内を引き渡す頭領などいない。一瞬、二人の男が無表情で視線を合わせた。互いに何を考えているか、その腹の内を探るためだ。


「一つ聞いておきたい。ソイツはアンタの命令か? 」


それに頭領は葉巻を咥えたまま、「いいや」と答える。


「そうか。……俺の身内がその本泥棒ってヤツを探しているみたいでね。近々そこで小競り合いになるかも知れん」


グスティの言葉に、頭領は無言のまま足を組み替える。他の盗賊たちもトランプや薬を手放して、武器に手を添える。いつでも囲んで、グスティを袋叩きにする準備は整っていた。


「責任感の塊みたいな女でね。一度こうと決めたら中々自分を曲げるようなことはしないんだ。けど、アンタの身内と言うなら、俺からも彼女に話しをすることが出来る。今は争いごとをする状況じゃないからな。…それで1つ頼みなんだが」


「手を引けと、言うワケだな」


咥えた葉巻の先が赤く燃える。


「話が早くて助かるぜ。もちろんタダでとは言わない。アンタが困った時には俺も力を貸そう。それとは別にオーク樽も進呈しよう。どうだ? それで手をうってくれないか? 」


本来ならば金で問題を解決することが多い中、グスティはあえて樽を交渉材料にした。コレはあくまで酒飲み同士のお喋りであり、金の関わる問題ではないという強い意志表明でもあった。


「……この件に俺は干渉しない。だが止めることもしない」


「それで結構だよ。サンキュー」


頭領は酒瓶の酒をグスティのグラスに注ぎ入れると、自分のグラスにも酒を入れて、チンとぶつけた。


すると停止していたような静寂から、また水路のザーという音が帰って来る。盗賊達はまた目線を元のトランプや薬に戻して楽しそうに時間を過ごし始めた。


グスティは先ほどの一瞬の緊張に肝を冷やしつつ、剣を抜かなくてよかったと思いながら酒を一杯煽った。無意味な死体を量産しなくて済んだことへの安堵が、彼に喉の渇きを覚えさせたのだろう。


互いに身内の小競り合いに巻き込まれそうなことを事前に察知して、停戦協定を結ぶことで危機を回避する…グスティはそれが出来たことに安堵しつつ、酒の効果で血管が膨張している感覚を肌で味わった。


そして心地良い体の熱さに目を細める。部屋の涼しさも相まってか、体から湯気が出るような気さえした。もしかしたら既に湯気は出ていたかも知れない。


コレでまた太陽の下へ巡回に戻るという不都合な現実さえなければ完璧に思えた。


それからポツポツとまた都の表と裏の情報を頭領と交換しながら、酒を飲むことを繰り返して、丁度グラスの中の酒が無くなったところでグスティは立ちあがった。


「……さてと、そろそろ俺は行くよ。また飲みに来る。これは酒代の替わりに貰ってくれ」


新品のピアノクロスのセットを置いて席を立つ。護身竜の村の住人が作る民芸品を改良して、需要のありそうな物に改良したものだ。


材料を渡せばいくらでも作って貰える高級品である。これには頭領も、「上等だな」と満足そうに呟き、笑みを漏らした。


「ああ、村の連中の力作だ。使ってやってくれ。それじゃあな」


そう言って盗賊ギルドから酒場に階段を上って外へ出ると、空の片隅に青空は追いやられ、そのほとんどが夕焼けに変わりつつあった。


レンガの廃墟通りは夕焼けに染まり、少しの哀愁も感じることが出来た。


グスティはなるべく影を探しつつ、何もないことを祈りながらスラムを巡回し終わると、プラザ・デル・ソルに向かった。


ズッパ―ラを始めとする食べ物が並ぶあの魅惑の大通りである。


仕事終わりに毎日お祭りがあるような感覚を味わえるこの通りには、今日も違う出店が並んでいた。


「巫女様達も帰っている頃だろうし、二人にお土産を買って帰ってやんねーとな。きっと久しぶりに歩き周ってヘトヘトになってるだろうし、滋養強壮に役立つもんでもありゃ最高なんだな……」


という心の声を呟きつつ、通りをついでに巡回するのだった。




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