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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章中編:護身竜の村奪還作戦【本泥棒編】

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Alter.39 盗賊ギルド

【本日八回目の今北産業】

・スラムで情報収集。

・酒場が空いているという情報。

・怪しげな質屋に本は売却されていないという情報。

手を上げて情報屋と別れると、その足で『酒場』にグスティは向かった。普段はほとんど客もいない寂れた酒場だ。


「よぉ、やってるかい」


「……ああ」


白髪で角刈りの、愛想のない褐色肌の店主がゴツイ体でピアノを弾きながら、目も合わせずに対応する。相変わらず客はいないようで、暗い店内はピアノの音だけが反響していた。


「頭領、アンタの身内で本を商いにしているヤツはいるかい」


ピアノの音色が止まる。ガタンとグランドピアノの蓋は閉じられ、酒場の店主こと、海賊ギルドの頭領は立ち上がった。


「……下で聞こう」


鋭い眼光がグスティに向けられ、彼は蛇に睨まれた蛙のように硬くなった。頭領が人の形であることが不思議に思えるほど、彼のオーラは常人のそれとは違った。


そんな頭領に案内され通された裏部屋には、隠し階段が設置されている。


外はあんなにも太陽がはしゃいで人々を困らせているというのに、この部屋は常に秋と冬のまま時が止まったかのように冷たかった。


階段下からは冷気が伝わってきており、汗が気化しているせいか少し肌寒さを感じるほどだ。


「先に降りろ」


盗賊ギルドの頭領は背中を見せない。グスティはそんな彼の行動にゴ○ゴかよ、と心の中で突っ込みを入れながら、先に階段を降りた。


「ここは本当に下手に薄着で来ると風邪ひきそうだな」


グスティが日光から頭を守っていたバケツのような黒帽子を取って、わきに抱える。支給されている軍服の胸元をパタパタとさせながら、地下の冷たい床に足を降ろす。


「ヒュ~……相変わらず薄暗い場所だな」


グスティの声が冷たい地下空間に反響する。


店の地下は、都に設けられた暗渠の一部を改造して作られた盗賊ギルドになっていた。そのため耳には常にザーという水音が聞こえてくる。


「目を瞑れば滝の音に聞こえなくも……ない」


目を開いて、辺りを見渡すとちらほらギルドメンバーの姿を確認する。


賭け事に興じるものや、薬をキメてダンスを踊っている人間もおり、ココが個性豊かなアンダーグラウンドであることをグスティは再確認させられる。


話し合いの場として用意されたのは、そんな盗賊ギルドの中心。複数の仲間が話を耳に入れることができる場所だった。


机の上にランタンが一つだけ置かれ、ソファが向かいに二つあり、それより低い机の上にはロックグラスが裏返しに二つ用意されている。




頭領は横の部屋から大きな氷の塊の入ったグラスを二つ持ってきて、机に二つ並べると、トクトクトクと琥珀色に煌めく酒を注いで、グスティに差しだした。


「おいおい、これでも仕事中なんだぜ」


苦笑しながらもそれを受け取るグスティ。都を巡回した火照りが、一瞬にして吹き飛ぶような冷たさに、頭領のもてなしの気持ちを感じる。


「二時間後には終業だということは知っている」


冷たい鉄のような低音が地下空間にのしかかる。


「…まいったね」


渡されたマドラーで貰った酒をステアした後に一口含んで、フゥーと息を吐いて少し笑う。


「煙たいな」


「それがいい」


頭領は微笑む。


少し溶けた氷が酒と混ざりあい、ランタンの光に照らされて机にヌラヌラとガラスと酒の影模様が映し出されている。


そしてソファに背中を預けた二つの影は、しばらくグラスを持った腕だけが動いた。


それから少しして、口を開いたのはグスティだった。


「……美味い。密造酒っつーのが、ちと勿体ないな」


「よく知りもしない人間に、この酒を飲ませる気はない」


ソファに背中を預けながら足を組む盗賊ギルドの頭領は、グラスを机に置いて懐から長い棒を取り出した。


その先っぽをパチンと道具で切り落として火をつける。


「誕生日プレゼントは葉巻で良いのか? 」


グスティは、笑みを浮かべながら葉巻を吸う頭領に言う。


「……誕生日プレゼントとは、久々に聞いた」


ハフハフと口から煙が洩れながら、そう呟く頭領。


「アンタがいくつになったか知らないが、歳の数だけ用意してやるよ」


「…その言葉、後悔しなければいいが」


頭領のその言葉に周りのメンバーはキシシと笑っている。


「葉巻が高級品だってこたぁ、十分知ってるよ。心配スンナって。それぐらいの甲斐性はあるつもりさ」


懐から取り出した水をチェイサーにしながら、酒と交互に飲んで目を瞑る。スモーキーな味わいの中にほのかにアーモンドの風味も感じられる、そんな酒だった。


頭領は葉巻をお供に酒を傾けている。吸っては飲んで、吸っては飲んでの繰り返しだ。互いに心地のよい沈黙の後、口を開いたのはやはりグスティだった。


「景気はどうだ? 」


「……悪くない」


「最近のトレンドといえば、人身売買と墓荒らしか? 窃盗や強盗じゃ最近キツイって話は聞くが……どうなんだ? うちじゃあ特に犯罪者の質が変わったような雰囲気は感じないけど」


グスティの話のネタに、周りの盗賊たちは「なんで知ってるんだ? 」とか、「情報屋顔負けの情報通だ…」とコソコソ話をしている。


頭領だけは当然のように、表情を変えることなく情報交換を行った。


「盗みはセンスが試される。…不器用な盗賊には向かないやり方だ。――人身売買もコストを考えればあまり良い商売とは言えんな」


「意外だな。帝国との戦争が近づいてる今の状況なら、どこも人手が欲しいだろうに」


「ああ。需要はある。小規模な盗賊団ならそれも良い稼ぎになるだろう」


大規模な盗賊団(ココ)であるならば、村でも襲わない限り、売値よりも人を動かすコストの方がかかるらしく、最近はやっていないとのことだった。


「となると墓荒らしか? 知り合いが最近は何処の棺桶も空だって言ってたけど」


その情報にギルドメンバーの誰かから「ヒュ~」と口笛がなる。盗賊たちは最近のトレンドについても詳しい彼に感嘆の声が漏れた。


「耳が早いな……そうだ。都の死体の殆どは貴族の子弟に渡った。切ったり張ったりを違法に繰り返す俺達よりもイカレた奴らだが、金は山のように持っているからな。良い収入源になった」


グスティは頭領の話を聞いて、貴族の子弟が何をしているのかピンと来ていた。つまりはこの医学が未発達な時代に、彼らは死体を使って研究を進めているのだろうと。


その確証を得るため、今までに貴族から要求された死体について仔細に聞くと、やはり様々な種類の死体を欲しているという話も聞くことが出来た。


こんな地下で、世界の動きを感じるとは思いもしなかったグスティだったが、咳払いをして、そろそろ世間話から本題に移ることにした。









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