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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章中編:護身竜の村奪還作戦【本泥棒編】

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Alter.38 貧民街

【本日七回目の今北産業】

・イナンナと巫女様の会話。

・詐欺にあった事実は隠蔽された。

・二人はスラムへ向かった。

陽煌の節 8/14 15:00

シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市トーレッド

ハッグハグ・モット卿の城 病室



「二人とも冷たいスイーツ買ってきたぞー…って、あれ…いない」


白玉のボウルを二つ持って病室を見渡す。すると置手紙を発見した。


「筆跡は巫女様の物だな。けれど内容はイナンナさんが考えたモノ…ということは二人とも揃ってコレを俺に置いて行ったんだな。それでインクの乾き具合から行って出て行ったのは丁度2時間ぐらい前か」



何者かに彼女達が拉致されたわけではないことを理解し、手紙の内容に目を通す。


「城の図書館で本が大量に盗まれて、本泥棒に疑われているのは護身竜の村の民達…か。巫女さんがどう立ち回っているか分からないけど、一応俺も町の巡回ついでに仲介人(ブローカー)に当たってみるか…? 」


少しぬるくなった白玉ボウルを二つ食べ終わると、グスティは病室を出てスラムへ向かった。




プラザ・デル・ソルからそれた道へ入ると、そこにはスラムへ続く路地裏があった。


繁華街のかすみがかった喧騒を背後に、うずくまった酔っ払いの呻きとアスファルトに響く足音が続く、殺伐とした風景に足を踏み入れたグスティは、慣れた様子で奥へと進む。


外の人間や市民権の無い者達がたまるトーレッドのスラムでは、当然野良犬や野良猫の他にも無作法な輩、特に狭い通路では獲物がスラムへ向かうのを腕組みしながら待つならず者の集団が見られた。


彼らはこの道を通る者にスラムへの通行料を頂戴する仕事に勤しんでいるようだった。その集団の一人がグスティを見つけると、瞳孔が広がり口元を歪ませ、肩を揺らしながら近づく。


「よぉ、グスティ。金くれよ」


腕組みをしているならず者が、待っていたとばかりにやってきたグスティの肩を組んだ。


「いくら何でもセリフが悪者すぎるだろ……と言うか、お前ら墓荒らしはもう飽きたのか? 」


当然のように返答するグスティ。もはやこの一ヵ月で絡まれることにすら慣れているようだった。


「グヘヘッ、ここら辺の墓地はあらかた空になっちまった。おかげで結構儲けることが出来たけどよぉ。金が足りねえのよ。なぁ~お金くれよぉ~」


グスティの許可なくポケットをまさぐってくる、ならず者の手を剥がしつつ、グスティは仕事の話をする。


「本泥棒を探してる。なにか情報を持ってたら高く買うぞ」


「いくらだ? 」


「一人頭黒銭二十枚ってとこだろう」


「安すぎる! 朝飯代にもならねえ! 」


組まれた肩に入る力が強くなり、一瞬眉間に皺がよるグスティ。しかしすぐに表情を戻して、穏やかな表情で交渉に戻る。


「情報一つにつき二十枚払ってやる。場所、人、目的、それぞれに二十枚だ。全部わかりゃ銅貨六枚だ。やるか? 」


ならず者たちは互いに顔を見合わせて、とりあえず受けておこうという風に頷き合う。


そしてそれはそれとして、「ッケ、湿気た仕事だぜ。もっとガッツリ稼げる仕事はねえのかよ。金持ってんだろぉ? 」と悪態もつくことを忘れない。


「それは本泥棒を見つけた後にな」


「ほほーん。その本泥棒、俺達が捕まえても良いんだよなぁ? 」


「なら話が早くて助かるんだけどな。生け捕りでさらに上乗せで黒銭を二十枚出してやってもいい」


グスティの言葉にニヤリと笑みを浮かべたならず者たちは、スラムの闇に消えていった。都とスラムの境界は解りやすく、スラムにある建物のほとんどは倒壊しており、廃墟が殆どである。


しかし無人を歌うそれは見てくれだけで、たまに不法滞在者が窓から顔を覗かせることもあった。


廃墟群の中、グスティは迷路のような道を進み、大きな質屋に足を運んだ。


若い二人が経営する清潔なレンガ造りの店内には、普通に盗品が並んでいた。


トーレッドで盗まれた品は外に持ち出されず、ここで売られることが多いため、ハッグハグ・モット卿に特別に黙認された店の一つとしてスラムに存在していた。


「「らっしゃいませ」」


強面の若い二人は愛想よく挨拶するが、グスティは素っ気なく頭を傾けるだけ。


二人の腰に下げられた短剣の鞘には血のシミがこぶりついており、店内には血しぶきが飛び散っている。


つい先ほどまで何者かと交戦していた形跡が見られたが、グスティには関係のないことだった。


「最近本を売る人間を見たか? 」


店内を見渡しながらグスティは二人に質問する。


若い二人はグスティが巡回中の兵士ということも知っているため、特別元気に対応を始めた。


「「何冊ぐらいです? 」」


若い二人は同じトーン、同じ口調で話しをする。顔も同じだから、双子なのだろう。


「冊数は分からない。気づけるくらいの数を盗んだのかも知れないし、ただ大事な一冊を盗んだのかも知れない。城の図書館から盗まれたんだ。心当たりはあるか? 」


双子は首を横に振る。それを見てグスティは頷いて、銀貨を一枚ずつ二人に渡した。


「今日は買い物出来ないが、情報量として置いて行くぜ。またなんか聞いたら教えてくれ」


双子は渡された銀貨を見て恍惚とした表情を浮かべる。そしてそのお礼として、別の情報をグスティに渡した。


「「今日は酒場が空いている」」


それを聞いてグスティは少し考えると、意を決したように頷いた。


「さんきゅー。おかげで行くべき場所が分かった気がするぜ」


こうしてスラムを巡回しつつ、普段仕事を頼んでいるブローカーたちに声をかけては、本泥棒の情報に賞金を懸けて回った。


仕事を依頼する相手には護身竜の村の人間以外にも、ならず者や殺人鬼、うずくまる老人や娼婦といった、このスラムに詳しい人間に声をかけ、相手が様々な情報網から引っ掛かるように罠を張った。


すると玉石混交の情報の中から、竜の巫女とイナンナの情報が手に入った。彼女達もココを訪れて本泥棒を探して歩き回っているという。


しかし高貴な身なりだったため、スラムの人間達は警戒し、彼女達が何者かと言う情報がそこかしこに噂になっていた。


「なにやらその謎の貴人の二人は、盗賊ギルドのことを嗅ぎまわっているらしいんでゲスよ。どうです、怪しいでゲしょう? 」


「……そういう相手には当然、お前たちは何も教えないんだろう。だったら問題ないんじゃないか」


「それもそうでゲスが……そうだ。グスティの旦那も、女達のことを知ってたら高く買うでゲスよ」


スラムの情報屋が金歯を覗かせ口角をゆがめる。


竜の巫女とイナンナについての情報がスラムで今かなりホットな話題のようだった。それほど二人はこのスラムで“異物”として目立っているらしい。


「さあな。けど……そう言うのには近づかないのが無難だろうさ」


グスティは肩をすくめて苦笑し、情報屋もそれに頷いた。


「ケケケケケッ、違いねぇ。やれやれ……折角少しは仕事のしやすい場所になってきたってのに。こう変なのがいると気が休まらないでゲスねぇ」


「全くだ。それと本泥棒についてはやっぱ分からないか? 」


「泥棒なんてこのスラムじゃ皆やってることでゲスから……ターゲットの情報でゲしたら盗賊ギルドに行って情報を仕入れてくるのが一番でゲスが……そういや今日は盗賊ギルドが空いてる日でゲスな」


「ああ、そうだな。…コレは情報代だ」


懐から掴んで、情報屋に銅貨七枚を彼に渡す。


「すいやせんねぇ。こんな情報で銭貰っちまって」


「何かと金のかかる仕事だろ? コレでもっといい情報を集めてくれ」


「へえ、もちろんでゲス。高貴な御身分の方々の情報が入ればアッシにも教えて下せえ」


「分かったよ。またな」


手を上げて情報屋と別れると、その足で『酒場』にグスティは向かった。

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