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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章中編:護身竜の村奪還作戦【本泥棒編】

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Alter.33 図書館の影

【2話目今北産業】

・村人を導くにはどうすれば?

・武器の需要が上がるだろうから、カゴなどの鉱石を集めに必要な道具の需要を村全体で供給しよう。

・方針は決まった。後は、自立してグスティの力を借りずに皆で立ち上がるんだ。




「よし、分かった。俺もなるべく協力するよ」


そう言うと、竜の巫女は頷いて、それから少しまた何か考えるように冷静になって、また椅子に座り直した。


「アンタの協力なんていらない。と言うか一つ、アンタに聞きたいことがあったの」


「…聞きたいこと? 」


「アンタ、自分の身を粉にしてまで村の皆に尽くす理由よ」


「同じ村の者として当然だろ、今さらなんだ? 出来ることをする、それがそんなに不思議か? 」


「不思議というより、不気味。アンタは一人で生きていけるじゃない……」


「…巫女さんには俺がそんなに逞しく見えるのか。そいつは光栄だな 」


「アンタは村にやってきた時からそうだった。ずっと個として生きていける。むしろ、アタシ達といることでアナタにメリットがあるとは思えないんだけど」


グスティは巫女様に、少しだけ手の内を見せていたために出た言葉だった。


増殖チートはその中の一つで、言うまでもなく黄金であろうと武器であろうと増やすことの出来る力だ。その力を目の当たりにした彼女は、その日以来ずっと、グスティが一人で生きていけることを知っていた。


「それが何カ月も一緒に暮らしてきて出てくる感想か? ……相も変わらず手厳しいな。巫女様は」


そう言って余裕そうに振る舞うグスティの目は泳いでいる。巫女様は一体どうしたんだ、と彼の心中は穏やかではなかった。


「アンタ別に人と関わることが好きなタイプでもないでしょ? 」


「意外な評価だな。これでも四六時中誰かと話をしているぞ」


「無理している風に見えるってこと」


「随分うがった見方をしているように見えるが、巫女様、俺のことどんなヤツだと思ってるんだ? まさか、人間嫌いとでも思ってるのか? 」


「簡単よ、アンタの本性は無責任な怠け者」


あまりにも、ピシャリと言ってのけた竜の巫女に、しばし空いた口の塞がらないグスティ。


まんまと自分の本性を言い当てられただけに、その衝撃は強く、グスティの顔は次第に余裕をなくしていった。


「俺のことをそんな奇妙な評価をするのは巫女様ぐらいのものだな」


絞り出すように、グスティは余裕の無い壊れた半笑いで言った。


「それがあっちこっち手を伸ばして人助けなんてしてるから、奇怪に見えるったらありゃしないわ」


「…散々な言われようだな」


グスティは気まずそうにポリポリと頭を掻く。


無理していないように振る舞って見せていたのに、自分の演技力の拙さを白日の下にさらされた気分になり、酷く彼女に辱められているような気にグスティはなった。


「アタシにはアンタの行動原理が分からない。単に人助けをして承認欲求を満たしたいだけ? 」


「だったら、ココで巫女様になじられるなんてこと、してないだろうな。巫女様と話をしていると、酷くみじめな気持ちになる」


「……まさか、アタシに罵倒されるために人に協力を…? 」


グスティはポンと掌を叩く。


「ほう、協力的なマゾか。かなり面白いな。けどそりゃないんじゃないか」


「じゃあなんで? 」


そう言われると、少しの沈黙と共に視線を外して彼は遠くを見る。一瞬、過去の映像が脳裏に浮かんだ。


逃げ出した村の情景、守るべき人たちを見捨てた自分。護身竜を手にかけてしまったばっかりに起きてしまった悲劇の数々に、彼は目を瞑った。


「話す気はないのね? 」


その巫女様の言葉で目を開き、グスティは頷く。

償いや後悔の入り混じったその感情に、グスティは当てはまる言葉を知らなかった。


「…別に知ったところで何か変わるワケでもないだろう。説明するのも面倒だしな。…協力するのは単にそれが理想的だと思ったから、とでも思っていてくれ」


理想通りに何もかもうまく行かなかった男の戯言である。


「理想的…? 」


深く追求をする竜の巫女に、彼は少しお道化て彼女を茶化す。


「おいおい、巫女様どうしたんだ? そんなに俺のことを知りたがるなんて今までなかったじゃないか。本に俺みたいな怠け者が出てきたのか? 」


すると竜の巫女は不機嫌そうに眉をひそめてグスティを睨んだ。


「そんな本があるわけないでしょ。私はただ……」彼女は言葉を切って、もう一度深呼吸してから続けた。


「アンタが何を考えているのか知らないままじゃ……不安なだけよ」


夜の魔力か、二人とも普段は口に出来ないことが自然と口から洩れる。


「安心してくれ、俺は別に何も悪いことを企んでないさ。ただ、自分の利益のために動くつもりもない」


とグスティは言いながら微笑む。それが竜の巫女には胡散臭くうつった。


「相変わらず不気味なヤツね……もっと、人は自分軸で動くものじゃない?アタシにはアンタの軸が分からない」


「すまん」


「謝るぐらいなら話して欲しいものだけど」


竜の巫女はなおも疑念の眼差しを向けていた。


「これまでの功績を見て信じてくれても良いんじゃないか? 俺はただ、村の皆が立ち直るために協力したいだけだ。それ以上のことは何もない」


「立ち直るための協力…か。アンタがいつ裏切るか分からないのに? 」


「その予定は今のところないけどな」


「もしもの話。アンタがもしいなくなったら、今のアタシ達に生きる術はほとんど残されていない。そこまで言うならアンタが逃げない保証を寄越しなさいよ 」


「そんなの…」


言いかけてグスティも気が付く。今日の彼女はずっと、不安な表情を隠さない。時間のせいなのか、いつもよりずっと不安定に見えた。


「監視をつけるとか…いや、それよりもっといい方法がある」


「なに? 」


ゆびを立てて真面目なグスティの顔が、ランタンの灯りで闇夜に浮かぶ。


「信頼関係を築く」


椅子から転げ落ちそうになるほど、がっくりと頭を下げる竜の巫女は、恨めしそうな顔を上げて不気味に笑った。


「あぁそう。鎖の形をしているならそれもアリかも知れないわね」


「一度信頼って言葉を辞書で引き直すことをお勧めする」


「アンタこそ、真面目に答える気ある? 信頼できないから、形にして寄越せっていってるの」


「だけど欲しいのは形あるものじゃないだろ? 大事なのはザバーニャが俺を信用してくれるかどうかじゃないのか」


「……また抽象的な表現ではぐらかすつもり? 」


「そう受け取って貰って構わんさ。ゴメンな」


肩を浮かせて申し訳なさそうにグスティは笑みを浮かべる。それに少し諦めも混じった、何度目かの溜息をついて竜の巫女は立ち上がった。


「謝らないで。別に謝って欲しいワケじゃないから」


「そっか。じゃあ、この話はお終いか? 」


「そう。お終い。…そんなに尽くしたいなら、勝手に尽くせば良いわ。でも見返りは求めないで、アタシにはなにも出来ないから」


そう言って怒ったまま竜の巫女は図書館から寝室に帰っていった。


静かな空間に残されたのは、まだ読み終わっていない本と、ランタン。勝手に元の位置に戻せばまた彼女の怒りを買うことは容易に想像出来た。


かといって、本をそのままにすれば他の利用者に悪いので、本の位置を覚えながら本の収納を始める。


そんなタスクをこなしながらも、グスティの足取りは軽かった。


なぜならば、


「……巫女様とこんなに長く話をしたのは初めてだな」


と、巫女様と楽しくお喋り出来たことが嬉しかったからだった。今までに死ねだの、失せろだのと鞭を使われていた分、僅かな信用という飴の欠片だけでもとろけるように甘く感じる。しかしそれが本来は普通のことだと気づくのは、随分と先の話にだった。


「よし…帰って集会の計画を進めないとな…」


ランタンを手に取り図書館の扉を開くと、ランタンの光に自分以外の影が一瞬移りこんだような気がして振り返る。


「誰かいるのか? 」


真っ暗闇の図書館にグスティの声が響く。


しかし返事はなく、ただランタンの炎がグスティ一人の影を揺らしていた。


「気のせいか」


そう思いながら図書館を出ようとすると、バタバタと本が本棚から落ちる音が響き渡る。振り返るが、誰もいない。ただ静寂がそこにあるだけだ。


グスティの視界には依然として人魚少女がたまにチラつくことはあっても、それは音のない存在。本を落としたりはしない。


彼の心臓はドクドクと鳴り始めていた。まるで彼以外の何者かがこの図書館にいるような、監視されているような感覚に、自然と呼吸も浅くなる。


扉は一つ。巫女様が出て行ってからまだ誰も中には入っていない。人がいるなら彼が入ってくる前に既にココにいたことになる。


だとしたら二人とも気が付かないのはおかしい。


ランタンの灯りが届かない暗闇の奥を、目を凝らしてみる。やっぱり誰もいない。


「…やっぱり気のせいか」


と思いながらも、彼の警戒心が解かれることはなかった。


「なんも無かったらいいけどな…」


そう呟いて扉を閉じた。


図書館の奥までランタンを片手に一人で探しに行くような勇気は持ち合わせていなかった。危ない香りのする場所には近づかない。


それが彼の生き方だった。



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