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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章前編:護身竜の村奪還作戦【逃亡編】

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33/84

Alter.31 3人で今後の計画を立てよう

【今回の今北産業】


・イナンナが目覚めた。

・グスティが色々奔走してましたって話。

・食事は管から行われる。



                      陽煌の節 8/10 10:00

                  シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市

                  ハッグハグ・モット卿の城 病室







ついに目覚めたイナンナ。全身に負った傷が癒えるにはまだ時間がかかるものの、三人揃って生還したこの朝、彼らの間に新たな目標が静かに芽生え始めていた。


「じゃあ、言い出しっぺのイナンナさんから。何か、意見はありますか?」


「勿論ある。しかしここはやはり巫女様からお話しされるべきでしょう。我々護身竜の民にとって、巫女様の意見は絶対です」


「なんで私なのよ。……護身竜の村から離れたし、もう私の役目だって……」


竜の巫女ザバーニャの弱々しい言葉に、イナンナの鋭い視線が注がれる。彼女の言葉には、目覚めたばかりとは思えないほどの張りが宿っていた。


「何を言っておられるのですか。貴女は何処にいようと、我々護身竜の村の民の象徴なのですよ。村長なき今、貴女がまとめ上げなくて誰が民をまとめるとおっしゃるのです?」


目覚めて早々、イナンナは竜の巫女に強い口調で諫言を呈する。だが、その久しぶりのやり取りに、二人それぞれの頬に、自然と笑みがこぼれた。


「………フッ、また口うるさいのが戻ってきたようで、なんだか、落ち着くわ」


竜の巫女の言葉に、イナンナはすっと眉を上げた後、豪快な笑い声を響かせた。起きてまだ数時間しか経っていないというのに、もう、かなり元気に首だけを左右に動かしている。


彼女なりに、重苦しい空気を纏う二人を励ましたいという気持ちが、その行動一つ一つに表れていた。


「首から下が動かない今、貴女のために動かせるのはこの口のみです。今まで以上に、口うるさくさせていただきますよ、巫女様」


「分かったわ。……それで? 私は何をしたらいいの? 村人たちを連れて、新天地で村の再建でもする? 」


「グスティから少し話しは聞いていますが、それは少し先になるでしょう。帝国の危機もまだ去っていないと聞いています。目下の課題は、同胞の衣食住を確立させること。これが最優先だと考えます」


「それはコイツが……やってるんでしょ? 」


竜の巫女は振り返り、ソファに凭れかかっていたグスティに確認を促した。


「ん? ……ああ、もちろん」


グスティは、竜の巫女とイナンナの二人が、楽しげに会話を交わしているのを耳にし、とても幸せな気分に浸っていた。そのため、話の内容は全く耳に入っていなかったのである。


このまま病室の壁となって、二人の会話をいつまでも聴いていたい。そんな密かな願いを抱いていた彼にとって、突然話を振られたことによる半ば条件反射での回答に、竜の巫女は不機嫌そうに顔を顰めた。


「問題ないわよね? 」


竜の巫女の問いに、グスティは視線を逸らさずに答える。


「もちろん。……皆必死に生きてるさ。俺も怪しまれない程度に、できることはしてる。それでもできることには限りがあるから、早く根本的な対策を立てないとな」


竜の巫女はその特異な見た目のため、ほとんど外出ができない。そのため彼女の手にできる情報源には限りがあった。


その限られた情報の中で村人の今後を選択しなければならないという状況は、彼女にとって、あまりにも心理的な負担が大きすぎた。こんな、朝食も取らずに思い悩むような内容では決してない。


「それより、朝食にしないか? せっかく起きたんだ。何か、腹に入れたいだろ?」


グスティがイナンナに視線を送ると、彼女もまた、小さく頷いた。


「確かに。巫女様は、こちらに来られて何か美味しいものはお食べになられましたか? 私は何でも食べられそうですよ。はっはっはっ」


竜の巫女が決めるといっても、それはすぐでなくてもいい。


食事をしながら、ゆっくりと考えれば良いのだ。グスティが三人分の食事を要望すると、お昼は歓迎の宴とする代わりに、朝食は軽めの物が用意されることになった。


その時の宴の席で、ハッグハグ・モット卿から竜の巫女にお話しがあるとも、同時に知らせを受ける。グスティはこの知らせが良いものであるとは、到底考えられなかった。宴という歓迎の裏に、何かが隠れ蠢いている。それはわかったが、モット卿の狙いが何であるかまでは、まだ見当がつかなかった。


「お待たせいたしました」


運ばれてきた料理は、病人に食べさせるように作られた、ドロドロのコーンスープのような粥だった。いつも管に入れて流し込んでいたものを、ただ皿に盛っただけの代物である。


「……ちらっ」


イナンナの戸惑いがちに送られる視線を受けながら、グスティは自分用に運ばれてきた、まだ温かい出来立てのパンを、一欠片そっと口に入れる。


竜の巫女は善意で、病人食をイナンナの口元へと運んだ。イナンナはそれを口にし、竜の巫女にお礼を言いつつも、グスティに何かを言いたげに、じっと視線を送り続けた。


それに耐えかねたグスティは、立ち上がって尻ポケットに手を突っ込んだ。何種類かの小袋を掴み出すと、ドロドロのコーンスープの中に、サラサラと白い粉を振り入れた。


「ちょっと! 」


皿を持っていた竜の巫女が、反射的に立ち上がる。


「心配すんなって。塩とガーリックパウダー入れただけだから。よく混ぜて食わせてみな。体に良いんだぞー」


グスティの「体に良い」という言葉に、竜の巫女は黙って椅子に座り直し、再び食事をイナンナの口元へと運んだ。イナンナを死の淵から蘇生させた彼の言葉を、嫌いつつも、同時に誰よりも信用していたのは、紛れもなく彼女だった。


そして、ほんのりと味のついたコーン粥を口に入れたイナンナは、カッと目を見開き、大きく頷いた。


「巫女様。こちらは大変、体に良さそうな味がします」


単純に、味が濃いものを食べたかっただけである。しかし効果はてきめんで、味気ない食事が、一瞬にして美味しい食事へと変貌を遂げた。


グスティがこんな香辛料を持っていたのには理由があった。彼は当初、同胞を助けるために多額の金が必要になった。


増殖チートでお金などいくらでも増やせる、という考えが一番危険だと理解していた彼は、市場を破壊しないように、同胞が最低限暮らしていける額を調達するために、手法を変えつつ別々の商人と取引をしていたのだ。


その過程で、このトーレッドという都市が、北の大地にあるため、食料の多くを、特に香辛料を輸入に頼っているということに彼は目をつけた。


あればあるだけ重宝されるということで、質の良いものをほんの一つまみだけ購入し、それを増殖チートで増やして他の商人に売る。この方法で、市場が混乱しない程度に香辛料の流通量を増やし、金を得ていたのだった。


香辛料は、その名残でポケットに残っていた売れ残り品だったのである。


そして食事中に、コソコソと二人にだけその話をすると、イナンナが「次は香木が良いだろう」と新たな提案をしてくれた。


香木とは、文字通り良い香りのする木のことである。貴族のお香などに使われ、高いものだと木一本で城が買える、という噂もあるほどだ。当然、そんなものを流して問題ないのかと、グスティはイナンナに問いただした。


「販売する時に、巫女様の家紋を彫れば良い。売る時には『村付近でしか取れない貴重品だ』と言うんだ。良い値段で売れるだろう」


イナンナの提案に、竜の巫女とグスティはドン引きした。段取りといい、話し方といい、なぜか少しこなれている感が漂っている。


「……イナンナ、アンタ昔に、そういうことをやっていたの? 」


「巫女様。女というものは、秘密で着飾るものですよ」


そう言ってイナンナは不敵に笑みを浮かべた。とんでもない女が目覚めてしまったと、グスティは思うと同時に、彼女をとても心強く感じた。


「それと、やはり週に一度は、巫女様が皆と話す機会が必要でしょう。団結力を高めるためにも、集会は必須です。───グスティ、几帳(きちょう)を用意してもらえるか?」


「普通に面会するんじゃダメなんですか?」


グスティはチラッと二人を見る。そして、視線をお互いの顔に戻した。


「あまり良くない。巫女様が普段通りでは……少しばかり神秘性に欠けるからな」


「頼りになるなぁ……」


「アタシが俗物だって言いたいワケ? 」


「そうは申しておりません。巫女様の威厳を最大限に高めるためには、それ相応の舞台が必要だ、と言うまでのことです。……グスティ、後は任せたぞ」


食事をしながら、どんどんとアイデアを出していくイナンナ。なんといっても、村で一番崇め奉られている竜の巫女の傍に居続けた女。護衛の他にも、竜の巫女を裏で支えるプロデュース面でも、他よりずば抜けた才を隠し持っていたのだ。


「本当にイナンナさんがカルトの教祖とかになってなくて良かったよ」


そう言ってグスティは、スープに浸したパンを口に放り込んだ。


次回:責任と重圧。

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