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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章前編:護身竜の村奪還作戦【逃亡編】

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Alter.29 実践訓練

【今回の今北産業】


・ガルシア少尉は真面目さがウリ。

・エーテルと言う便利粒子があるらしい。

・イエスミス。

陽煌の節 8/3 15:00

シュヴァルツ諸侯同盟領 北の都市 トーレッドから西の森

訓練場 タイプ:森林





揺れるゴーレムのコックピットで、グスティは部隊指揮の教本に視線を釘付けにしていた。移動中に内容を頭に叩き込もうと必死に読み進めた結果、到着早々、悪酔いに苛まれる。


「うぷっ……」


思考加速と上達チートを駆使し、教本の内容を脳裏に焼き付けた全身マニュアル男が、いよいよ軍隊指揮を執る。


「基本その一、地形把握だな」


不安の塊を飲み込みながらグスティは頷き、周辺の地図をぱらりと開いた。


訓練場は森林タイプ。木々が密生し、視界は最悪だ。この環境下で異端核保持者ガルシア少尉と遭遇するという想定。能力は不明。いかなる相手にも対応できるよう、指揮を執る。


「全体指揮を始めさせてもらう。まずはフォーメーションを整えよう。前衛はサウスゴールド、後衛はセイジュ。中衛は隊長、お願いできますか?」


通信水晶から、了解の合図が三つ返ってきた。


三機のゴーレムが起動し、グスティの指示通りに隊形を組む。彼は部隊の位置関係を常に頭の中で更新しながら、周囲の状況にも鋭く目を光らせていた。


互いを援護し合いながら、視界を確保していく。条件は同じだが、ゴーレムの巨体ゆえ、異端核保持者の方が先にこちらを発見する可能性が高い。後手に回ることを覚悟しつつ、グスティは教本の頁を脳裏に蘇らせる。


ゴーレムは対シグマリア用に設計された特殊な装甲で身を包み、魔法攻撃に用いられるエーテルを拡散させることで、ダメージを軽減する。だが、シグマリアはその想定を超える力で装甲を破壊することもあるため、注意が必要だ。


彼は、ゴーレム操作マニュアルの最初の頁に記されていた警告を思い出した。


そうして、スクワッドで森を進んでいくと、突然、オールウィット隊長から通信が入る。


「前方に異端核保持者の気配がする。気をつけろ」


歴戦の勘か、敵が潜んでいそうな場所を真っ先に察知するオールウィット隊長。グスティは即座に対応した。


「作戦はニュートラルを採用します」


作戦:ニュートラルは、サウスゴールドを前方に、セイジュを後方に置き、その間に臨機応変に対応できる経験豊富なオールウィット隊長を置くという、前後のバランスをとるように配置された陣形だ。


さっそくサウスゴールドのゴーレムが前に躍り出て、槍を構えた。セイジュのゴーレムは背後から大砲を準備し、オールウィット隊長のゴーレムは剣を抜き放ち、敵の動きに鋭く注視した。


「敵の能力は不明。距離を保ち、情報確保を優先してくれ」


グスティは思考を巡らせながら、周囲の情報を整理する。しかし、そんな暇を与えないとばかりに、敵の影が木と木の間にちらつき、次の瞬間には消えた。


「敵が攻撃態勢に入った! サウスゴールド、防御を固めつつ撤退準備! セイジュ、支援砲撃開始!」


ゴーレムが大砲を轟かせた。爆風とそれに紛れる鉄片が舞い上がり、木の影に隠れた敵の位置は完全に分からなくなる。グスティは冷静に状況を判断しながらも、内心では緊張感がじりじりと高まっていた。


「サウスゴールド、敵の位置確認! 目視できるか?」


「視界が悪くて見えていない!指示を待つ!」


オールウィット隊長からの報告が響く。


後退しつつ敵の攻撃を待ち構えていると、物陰に潜んでいたガルシア少尉が、プラズマでゴーレムの退路を塞ぐように木々を発火させ、次々と倒していく。


「敵からエーテル反応だ! 距離を維持しろ! グスティ、後退指示を!」


オールウィット隊長は、前衛のサウスゴールドを援護しつつ、倒された木々をどかし、退路を確保する。彼は前後のバランスを取りながら、サブブレインとしての役割を十全に果たしていた。


「全員後退。再度砲撃準備! 相手が追って来るなら爆風と鉄片で迎え撃て」


撤退行動に焦りを見せないガルシアは、まだ切り倒されていない木々の間を縫い、ゴーレムの弱点である足元へ執拗な攻撃を浴びせ続ける。


サウスゴールドの装甲が溶解し、足元の部品が剥き出しになった頃、セイジュが撤退ポイントに辿り着いた。


「セイジュ、撤退成功。安心せい、後ろからワシが援護する」


セイジュの言葉が、スクワッドの面々に届く。


ガルシア少尉によるプラズマ攻撃が苛烈さを増していく中、前衛のサウスゴールドは槍一本で、彼女のプラズマと対峙し、着実に後退を続けていた。


「さすが少尉か。俺一人を仕留めるつもりだな」


サウスゴールドの焦りの声が聞こえる。オールウィット隊長の支援があるとはいえ、熟練の異端核保持者を相手に劣勢を強いられていた。


「セイジュ、上空に向かって大砲を撃って、鉄片の雨を降らせてくれ。範囲をなるべく広くとれるように」


指示を受け、セイジュが再び空中へ砲撃を放つ。空中で炸裂した球から飛び散った鉄片が、森に激しいダメージを与えていった。


「オールウィット、撤退完了」


「サウスゴールド、こちらも撤退した。始めにしてはなかなかいい指揮だったではないか、ストレスゾンビよ。合格点をくれてやる」


二人からも撤退の一報が入り、グスティは安堵の息を吐く。


敵との激しい戦闘を終え、訓練は成功裏に終わった。各ゴーレムはそれぞれの位置で警戒態勢を維持しつつ、状況の確認に努める。グスティは全員に向けて通信を送った。


「皆さん、ありがとうございました。とても勉強になりました」


すると、三者三様の返答が返ってきた。


「これだけ初めから出来れば上出来だぞ、グスティ。よくやった」


オールウィット隊長からは珍しく賛辞を受け、

「まあこのくらいやって貰わなければ困る。フハハハハッ!」

サウスゴールドも不満はないようで、可もなく不可もなくといった評価。唯一、不満を漏らしたのは後方のセイジュだけだった。


「ぬるい指揮じゃ。もっと無茶ぶりしてもワシはええけえ、ポテンシャルを引き出せるよう、もっと精進せいよ」


厳しいが、セイジュなりの優しさが滲む言葉だった。


こうして対シグマリア戦の一連の流れが幕を閉じる。


前線で直接シグマリアと遭遇し、その能力や可能性を探りつつ、生存第一で行動する。


それは最も危険で、ゆえに持ち帰った情報には値千金の価値があった。


国はその情報をもとにシグマリアへの対策を練り、結果的に味方のシグマリアが相手を打倒する確率をぐっと高める。それが、彼らの役割だった。


戦場の華がシグマリア同士の激突ならば、対シグマリアを想定したオールウィット隊は、まさにその舞台を整える舞台装置。より味方に有利な舞台を用意することこそが、彼らに課せられた使命だった。


訓練が終わり、トーレッドのグラウンドに戻ると、いつの間にか軍服姿に戻ったガルシア少尉が待っていた。


「お帰りなさい」


「ゴーレムより早く帰れたんですか?」


「私の能力はご覧になりましたよね。その応用で移動も可能なんですよ」


ガルシア少尉が微笑む。ゴーレムは時速60km/hから最大100km/hまで出る。彼女はそれを上回る速さで移動できるのだと、その身をもって示したのだ。


「とても手加減していただいたみたいで、すみません」


実戦ではもっとハイスピードで状況が目まぐるしく変化するのだと肌で感じ、改めて異端核(ルグズコア)の理不尽さがグスティの身に染みた。


「手加減なんてとんでもない。サウスゴールドさんの槍捌きが凄すぎて、ずっと足を止められていたんですよ」


そう言って、グスティからはあまりその活躍が見えていなかったサウスゴールドを、ガルシア少尉は惜しみなく褒めた。


しかし、褒められている当の本人はというと、既に訓練は終わっているため、速攻でシャワーを浴びて町の巡回へと向かってしまっていた。


それからオールウィット隊長も戻ってきて、ガルシア少尉はそのまま彼女も連行されていってしまう。


きっとこの都市にいる間は、様々な部隊に彼女は引っ張りだこになるのだろうと、腕を引っ張られ連れ去られていく彼女の後ろ姿を見ながらグスティは思った。


「さてと……俺もシャワー浴びたら巡回行かないとな……っと、その前に」


病室の二人のことが気になり、一度ハッグハグ・モット卿の城に戻ることにした。

次回:イナンナの目覚め

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