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殺戮のメサイア  作者: 星島新吾
第一章前編:護身竜の村奪還作戦【逃亡編】

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Alter.28 やられ役

【今回の今北産業】


・シグマリアは色々ある。

・ガルシア少尉はプラズマの魔法が使える。

・シグマリアは、シンクロ率で強くなる。







「対シグマリアの初歩は、まず相手がどういった能力を持っているか調べ、それを伝達することが最重要となります」


グスティはガルシア少尉の言葉を聞きながら、彼女の足元に転がる黒焦げの二人を見やった。彼らが果たして正確に情報を伝達できるのか、一抹の不安がよぎる。


その懸念を察したのか、オールウィット隊長は「心配するな、こいつらもその道のプロだ。今はそう見えないかも知れんが」と、少し気まずそうに咳払いをした。


「あなたたちは特に、戦場で詳細不明の異端核保持者(ルグズコアホルダー)と遭遇することも多いでしょう。そうした場合に、なるべく少ない犠牲で本部に異端核の情報を伝えることが最優先事項になります」


ガルシア少尉の話を聞きながら、グスティは自分たちが“やられ役”だと遠回しに言われているような気がして、思わず「質問をよろしいでしょうか」と口を挟んだ。


「はい、グスティさん。なんでしょう」


「我々はやられ役ということですか」


グスティの言葉に、オールウィット隊長は眉をひそめ、「口を慎め、新米」と、少し思い当たるところがあるのか、注意も控えめに、ガルシア少尉の様子を伺うようにグスティを叱った。


当の本人であるガルシア少尉は、白い水玉ビキニの前で腕を組み、「ええ。その役割も一部あると言っておきましょう」と、真面目に答えた。


「しかし当然、その“やられ役”にならないよう、日頃から訓練をしていらっしゃると思っています。今日はそんな皆さんに、実際にシグマリアの力と交戦していただき、臨機応変な対応に磨きをかけていただこうと思います」


“やられ役”にならないための練習――。グスティの中で、ストンと何かが腑に落ちたような気がした。全員が無謀な戦いだと分かっていても、それでも立ち向かわなければならないのだと、彼は理解したからだ。


グスティもガルシア少尉の言葉に頷き、ゴーレムが並ぶ格納庫へと走り出した。


格納庫には、ベースとなる銀色に光る未塗装のゴーレムが数機と、既に個性が光る塗装が施されカスタマイズされたゴーレムが五機、ずらりと整列している。


落書きのようなカラーリングで個性を主張する機体を見て、誰がどのゴーレムに乗るのか、グスティには瞬時に見て取れた。


グスティに与えられたのは、脱出時に森で鹵獲した帝国産のゴーレムを、諸侯同盟のゴーレムとして再調整された機体だ。諸侯同盟の証である紋章を左胸に付けて、帝国産である証は、もはや頭部の特徴的な形状以外には残っていなかった。


グスティは、多少の整備能力ぐらいは身に着けないといけないと思いつつ、自分のゴーレムの前に立っていると、整備班の一人が声をかけてきた。


「このゴーレムに乗られる方ですか?」


「はい。どうも初めまして。グスティ・ウェンです」


帽子を被った整備員に手を差し出し、握手を求める。しかし相手は、自分の油で黒く汚れた手を見て、軽く手を振って応えた。


「あ、どもです。…私が整備したんですよ、このゴーレム。帝国産のゴーレムって結構珍しいんで、やりがいあって面白かったです」


「あなたが? …そうだったんですか。ありがとうございます。大切に乗らせていただきます」


そんなやり取りをして、整備員は帽子を被ったままペコッと頭を下げ、持ち場に戻っていった。


グスティはコックピットに乗り込む。竜の巫女が吐いた血で赤く汚れていたコックピット内は、綺麗に掃除され、細かいところまで磨き上げられた完璧な状態に仕上がっていた。座席の革は張り替えられたばかりなのか、まだ新品の革特有の匂いを残したまま、グスティは腰を下ろす。


蓋を閉じるレバーすら分からなかった一ヵ月前のグスティはもういない。乗り込んだ後の操作を手順に沿って行っていく、一人の新米ゴーレム乗りの姿がそこにはあった。


「なんかよく分からないメーターよし…、ランプよし…、コックピットの蓋は閉じた、ロックも出来てる…ヨシ」


ブロロロロッと魔導エンジンが唸りを上げ、四足の鉄脚が前へと進み始める。


前方の格納庫の巨大な扉がゆっくりと開き、空の青が一気に視界に広がる。同時に、外の冷たい空気がコックピットへと流れ込んできた。整備班員たちの声とエンジン音が響き渡る中、グスティは深呼吸を一つし、操縦桿を前に倒した。


オールウィット隊長もまた、グスティたちの準備を見守りながら、最後に自らもゴーレムに乗り込んだ。

こうして、オールウィット隊のゴーレムが次々と格納庫からグラウンドへと姿を現していく。


出てきた面々はそれぞれ武器を携えていた。サウスゴールドは長大な槍を、セイジュは巨大な大砲を、オールウィット隊長は両手剣を構えている。だが、グスティだけは手ぶらのままだった。


それをグラウンドで待っていたガルシア少尉は不思議がって確認をとる。


「グスティさんの武器はまだ決まっていませんか?」


「はい。ゴーレムはまだ基本的な操縦練習で、武器の練習はしていません」


グスティの言葉に、オールウィット隊長が頷く。新米兵には全員、一ヵ月間は武器を持たせずに訓練することが義務づけられており、三か月目にしてようやく武器を持つことが許されるようになるのだ。


グスティがどれほど鬼気迫る顔で練習に励んでいようとも、規則は規則。彼の武器はまだ決まっていなかった。ガルシア少尉はそれを全て理解した上で、少し意地悪な命令をグスティに下した。


「見学……と言うのはやはり少し勿体ないですね。それではグスティさんには全体指揮の練習をしていただきましょう。きっと貴重な経験になりますよ。ふふっ」


ガルシア少尉は笑顔で、グスティに指揮を執るよう命令を飛ばした。指揮官の役割は、ある程度の経験を積んだ尉官の仕事であり、入隊一ヵ月の新兵がすることではない。


グスティは断りたいと思いつつも、これが上官命令であることを思い出し、どうしたものかと頭を掻いた。いくら水着姿の少女とはいえ、彼女は正真正銘の少尉。返事は「イエッサー」しかあり得ないのである。


仕方なくコックピットのハッチを開けて、「イエスマム!」と答えた。


そう言うと、ガルシア少尉はプラズマでグスティを直接攻撃した。


アバババババ!と激しい電流に感電するグスティ。ガルシア少尉は微笑んで「次はイエスミスでお願いしますね」と、可愛らしくお願いをした。


「舐められたら終わり」とも言われる公営ヤクザのような軍隊生活は、たとえ相手が少女だとしても警戒しなければならないと、グスティは身に染みて理解させられたのだった。

次回:実践訓練

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