Alter.17 帝政カイザーライヒ先遣隊
///本日二本目////
【今日の今北産業】
・ゴーレムを手に入れた。
・運命の糸チートで、よりよい運命を手繰り寄せる!
・緑の糸はどこを示すのか。
霧雨の節 6/28 22:40
護身竜の村 広場
霧雨の節、深く息を潜めていた夜空が、赤々と燃え上がる村の炎に照らされていた。帝国軍による略奪が進むその騒乱の中、先遣隊の隊長が静かに到着する。
大柄な軍馬にまたがり、特徴的なV字のチョビ髭を蓄えた小柄な男、ダニール・スミルノフ。七三分けに整えられた髪の下で、彼の眼つきは鋭く、獲物を彼は手のひらで光る水晶、通信機を取り出し、後方部隊と連絡を取り始めた。
「こちらダニール・スミルノフ。シグマリア部隊、ドミトリー・ソコロフ中尉からの連絡はまだか?」
水晶の向こうから、森でグスティたちを追う兵士たちの焦燥に満ちた声が届く。
「ダニカ隊長!こちらシグマリア部隊!分かりません!戦闘の音は聞こえたのですが、すぐに静かになってしまい状況がつかめておりません!現在調査中であります!」
「急ぎ情報を集めろ。取り逃がすことは許さん!」
「ダー!」という力のない返事の直後、水晶の光は失われ、通信は途切れた。
目の前では、鹵獲されたゴーレムが暴れようとするが、別のシグマリア部隊によって瞬時に制圧され、今のところ目立った脅威はなかった。ダニカ隊長は、森の奥へと取り逃がした異端核保持者の報告を、冷静に待ち続けた。
ダニカ隊長は、おもむろに革製の地図を広げた。帝国とシュバルツ諸侯同盟領を分かつ北部国境線、護身竜の山脈。かつては、その峰を渡ろうとする者には、等しく護身竜の裁きが下された。
だが、それは過去の話だ。
突然死亡の確認された護身竜と、見たこともない謎の巨大な骨の残骸。それは帝国全土を震撼させる大事件と発展し拡散された。
帝国は当初、シュバルツ諸侯同盟領の策謀ではないかと疑いをかけた。しかし、慎重に調査を重ねた結果、護身竜が死んだという情報そのものが、同盟領にすら流れていないことを先に掴むことに成功する。
高度な情報戦が行われているのではと、大いに疑われることもあった。しかし、そうであるならば、シュバルツ諸侯同盟領の北の都市、トーレッドに軍事的な動きがあって然るべきと考える評論家も多かった。
そして大多数の人々が打ち出した答えが『護身竜の寿命』だったのでは、という説だった。どんな動物にも必ず寿命はくる。それがたまたま戦争中の軍事進攻時という大事な時期と被ったという結論に帝国はいたり、帝国首脳は、常識では測れない事態に頭を悩ませ、最終的に女帝に判断を委ねることとなった。
―――そうして、この護身竜の村襲撃へと繋がったのである。
まさか、この場にいる誰もが、護身竜死亡が一人の男の手によって引き起こした事態だとは、露とも思ってはいなかった。
そしてまた、ダニカ隊長の元に、耳を疑うような新しい情報が届く。
「ダニカ隊長!ゴーレムを動かしていたのは老婆でした!しかし捕縛した後も激しく暴れており、一筋縄ではいきません!」
立て続けに起こる有り得ない事態に、ダニカ隊長は思わず眼頭を押さえた。
「老婆……だと? はぁ……この世界に一体何が起きているんだ? 」
彼は、この世界が何者かの介入により、常識を超えて変わりつつあることを、誰よりも早く認識した人物だった。
「老婆がゴーレム操術……一体どこでそんな技術を覚えたんだ……技術流出にしても老婆が?―――とにかく連れてこい」
兵士たちによって確保され、連行されてきたのは、紛れもないモリオンだった。
手を後ろに縛られ、歴戦の戦場を潜り抜けてきた三人の兵士に、まるで危険な猛獣のように引きずられてくる。老女にはあまりに過剰な戦力だが、兵士たちはこの老婆が常識を超えた存在だと本能で察知していた。
モリオンは激しく息を切らせ、大人しくさせるために何度か殴られたのであろう、顔には痛々しい殴打の痣が出来ていた。
「こんなおいぼれを生かすなんて、余程裕福なんだねぇ。お前さん達。ホッホッホッホッ」
モリオンは、憎悪と嘲笑を混ぜたような笑みを浮かべ、兵士たちを挑発した。それに腹を立てた一人の兵士が、再び拳を振り上げかけた瞬間、ダニカが静かに手を差し出し、それを止めた。
「やめろ。お前のその脇の短刀、狙われているぞ」
ダニカに指摘された兵士は、ギョッとして自分の短剣を慌てて内側にしまった。
モリオンは小さく舌を打ち、ダニカに真っ直ぐと向き直った。ダニカは兵たちに、無用な暴力は控えるように命令を下す。彼の鋭い観察眼が、この老女が並大抵ではない危険な存在だと見抜いていたのだ。
「なんの用だい」
「ゴーレムを前に走らせるならともかく、戦闘となればそれなりの練度が必要だ。どこで習った? 」
「アンタんとこにいる、アイラに聞きゃわかるだろうさ」
モリオンの言葉に、周囲の帝国兵士たちの顔に、ざわめきが広がった。何人かが互いに顔を見合わせる。
「アイラ…」
「アイラ博士…」
「まさか、アイラ・シュタイネン博士のことか?」
兵士たちから口々にその名が飛び交うことに、モリオンはなんとも言えない複雑で渋い表情を浮かべた。
「彼女の関係者か? 」
ダニカは冷静に、無表情でモリオンに問いかけた。その声には、真冬のブリザードを思わせるような、研ぎ澄まされた冷たさがあった。
「あの子に異端核を教えたのはアタシさね。まさかそれからここまで、ゴーレムの分野で大成するとは思ってなかったがね」
モリオンが、こともなげに言い放ったその言葉に、馬にまたがっていたダニカは、思わず手に持っていた光る水晶を落とした。お付きの人間が慌てて、地面に落ちる寸前の水晶を抱えるように受け止め、冷や汗を流す。
今までの戦場とは明らかに違う。自身の理解を超えた、世界の大きな渦に巻き込まれたような感覚に、ダニカは眉間に深く皺を寄せた。
「なに?この極北に住む老婆がアイラ・シュタイネン博士の師……?―――嘘をついているようにも思えん。……情報の確認が優先だな……本国へ送れ。偽物なら殺してもかまわん」
そしてダニカはついでに、村から何人か死に損ないの護身竜の村の民を、治療して帝国に連れていくように兵士に命令した。
それを見ていた彼のお付きは、いぶかしげに尋ねる。
「ダニカ隊長、なぜあのようなもの達を連れていくのですか?我が帝国は人的資源につきましては、あまり困っておりませんが…」
お付きの表情の裏には、老婆と敵国の人間を輸送するコストを、先遣隊である自分たちが負担しなければならないのかと、不満げな色が隠れていた。
しかし、そんなお付きの思惑を無視して、ダニカは冷徹に命令を実行させる。
「老婆を脅すのに使える。あの老婆は、たいそうこの村にご執心のようだからな。でなければ、脱走した身で、わざわざこの戦いに参加した理由が分からん。あの老婆一人なら、いくらでも逃げることは出来たはずだ」
「なるほど、さすがダニカ隊長。聡明さが光りますな」
お付きの皮肉を無視しながら、ダニカは、なぜこの「異端核の先駆者」たる老婆が、わざわざこの村に住み着いたのか、その理由について深く考え込んだ。
ただの偶然か…それとも何か、彼らの知らない強力な目的があって、ここに留まっていたのか。
ダニカの思考は、疑念を巡らせながら、さらに加速する。
異端核研究の先駆者がわざわざこの場所を選んだのなら、必ず理由があるはずだ。それを調べ上げるまで決して油断してはならないとダニカは判断し、先遣隊の指揮に最大限の注意を払った。
次回:土塊逃走劇part1




