【童話版】戦国時代を冒険する少女 〜憧れの戦国武将と共に〜
冬の童話祭2025への応募のために書きました。
「白馬の王子様、かっこいいな」
「わたしもお姫様になって、ドレスを着るの」
こう話す小学生の女の子たち。女の子には夢がいっぱいつまっている‥‥
あたしもそう、夢があるんだ。
「あたしはかっこいい戦国武将に会いたい」
そう言うのは、綾菜である。
「え? せんごくぶしょうって誰?」
「戦国時代を生き抜いた、かっこいい人たちだよ」
「‥‥やっぱり綾菜ちゃんって、独特だね」
そう、小学校低学年の綾菜たち。クラスのほとんどの子はまだ歴史に興味がない。
白馬じゃない、本物の馬に乗って、領地を求めて、天下統一‥‥つまり日本一えらい人になるために頑張っていたその姿‥‥なんてかっこいいのだろう。
ただ戦っていただけじゃない。領地にいる人々のために住みやすい町をつくったり、病気の人を助けたり、優しいところもあるんだから。
あたしは流れ星にお祈りした。
「戦国武将にあえますように」
そして、何度も読んだ歴史小説を枕元において、眠りについた。
※※※
綾菜が目をさました場所は、焼け野原であった。
「え‥‥なにこれ‥‥」怖くなってきた綾菜。
あちこちでボロボロになった和服のようなものを着て泣いている子どもたち。それにつられるように綾菜も涙が出てくる。
「うぅ‥‥ママ‥‥」
そこに馬に乗った一人の男の人が現れた。
「お主‥‥見慣れぬ格好をしておるな」
その男の人の服装は‥‥綾菜が見た歴史小説の挿絵にあった戦国武将のものと似ている。
「おじさん‥‥戦国時代の人?」
「ほほう‥‥実に興味深い。私と共に来るがよい」
そう言われて、綾菜はそのおじさんの馬の後ろに乗った。
「しっかりつかまっておくのだぞ!」
おじさんはそう言って馬を走らせる。
馬は焼け野原の中を走る。つぎつぎと景色が変化するが、ほとんどが荒れ果てた土地であった。
それでもおじさんの背中がかっこいい。こんなピンチの中で、おじさんが馬を走らせる姿は‥‥クラスの誰かが言っていた、おとぎの国で白馬に乗る王子様よりも一生懸命に今を生きている感じがする。
どれぐらい時間が経っただろうか。馬は低い屋根のお屋敷の前で止まってくれた。
「お前さんはここにしばらくいると良い」
「おじさんはどうするの?」
「明日にはまた出発せねばならぬ。これからは‥‥力のある者だけが生き残る時代だ。そのためにはあらゆる国と交流しつつも、国の混乱を抑えるために‥‥戦わなければならぬ」
「あたしも一緒に行きたい‥‥」
「女子を連れてゆくわけにはいかぬ」
「じゃあ‥‥どうしてあの焼け野原であたしを連れてきたの?」
「それは‥‥」
「あたしは戦国武将に憧れているの。一度でいいから、おじさんが命がけで戦っているところを見てみたい」
「ふふ‥‥お前さんは私たちの知り得ない何かを持っているのではないかと思ったが‥‥そうでもなさそうだな。良いだろう。ついて来るのだ。ただし‥‥危険な場所であることは、覚悟するのだよ」
※※※
次の日、おじさんは他のおじさん達と何やら話しており、そのまま馬に乗って出発した。綾菜もおじさんの後ろにつかまっている。
馬は荒れた土地を行き、森を抜けて大きな城に着いた。
「奇襲を仕掛けて、城を攻め落とすのだ!」
おじさんがそう叫び、兵士たちが攻めていく。
綾菜は城の近くで降ろされ、武将たちが剣をもって戦うのをじっと見ていた。
目の前で‥‥剣で身体を斬られて、馬から落ちる人、剣で突かれる人‥‥
その光景は、綾菜が読んだ歴史小説よりも、恐ろしいものであった。
あたしは戦国武将はかっこいいと思っていたけれど‥‥こんなに血だらけで戦うなんて‥‥どうしてこんなことするの?
ようやく戦いが落ち着いたところで、おじさんが言う。
「この地は‥‥われわれが手に入れた!」
帰りもおじさんの馬に乗って、綾菜はお屋敷に戻る。
「ねぇおじさん、どうして戦わないといけないの? みんなで話し合ってお城に一緒に住めばいいじゃないの」
「お前さんはそう思うのか。ここで生きていくには‥‥力が全てなのだ。特に、今の世の中はな。誰もが皆、平和を願っている。自分たちの平和のために、自らを脅かそうとする者がいれば、己の力を使って権力を手に入れていく。そうしなければ生き残ることはできぬ」
「そうなんだ‥‥」
綾菜も知識はあるのでわかってはいた。戦国時代では、どんな犠牲があろうと、戦って勝ち残ることが全て。それでも実際にあんな戦場を見てしまうと‥‥他にやり方はないのかと思ってしまう。
「おやすみなさい、おじさん」
※※※
綾菜が眠っていると、妙に外が騒がしい。
「え? どうなってるの?」
他の部屋に行くと、みんなが血を流して倒れている。
「まさか‥‥おじさん!」
綾菜はおじさんを探す。すると、大広間におじさんが倒れているのを見つけた。
「おじさん! しっかりして!」
おじさんのお腹のあたりが斬られて痛そうである。
「お前さん‥‥もうじきここは燃やされるであろう。すぐに逃げるのだ」
「おじさん‥‥」
綾菜は涙をポロポロと流している。
「私はもうじき、この世から姿を消す‥‥私よりも強き者がこの場所を治めることとなる」
「そんなぁ‥‥嫌だよ‥‥おじさんがいいの‥‥あたしはおじさんと一緒に‥‥」
「お前さんはこれから生きるのだ。お前さんの言ったとおり‥‥戦のない平和な世の中を作ることができるのなら‥‥私もそうしたかった‥‥だが、我が人生、後悔はしておらぬ。皆の者と生きるために諦めずに‥‥最期まで剣を放さず戦い抜いたのだ。これぞ‥‥我のゆく道‥‥」
「うぅっ‥‥おじさん‥‥おじさんは‥‥やっぱりかっこいいよ‥‥最後まで頑張ったよ‥‥あたし‥‥おじさんのこと忘れない‥‥」
「私の分まで‥‥生きのびるのだ‥‥!」
おじさんはそう言ってまもなく、動かなくなってしまった。外は落ち着いたようだが、おじさんの言ったとおり、火が放たれた。
「逃げなきゃ‥‥」そう言う綾菜だが、身体が思うように動かない。
まるで、スローモーションのような感じ‥‥あたしはいったい‥‥どうなるの‥‥?
※※※
ハッと目覚めたのはベッドの上であった。綾菜はまわりをキョロキョロと見渡す。
夢だったのかな‥‥? おじさん‥‥おじさん‥‥
そう思いながら枕元を見ると、歴史小説の隣に紐が置いてあった。
この紐、どこかで‥‥あっ!
あのおじさんが着ていた羽織ものは、この紐を使って前で結ばれていた。ということは、この紐はあのおじさんのもの‥‥
もしかして‥‥あたしは本当に戦国時代へ行ったの?
この紐を見ていると思い出す‥‥おじさんにつかまって焼け野原を馬で走り抜けたこと、おじさんが命がけでお城で戦っていたこと、おじさんが本当は平和を願っていたこと、それでも人生に悔いはないって言って‥‥そして‥‥
私の分まで生きるのだと言われたこと。
「おじさん‥‥おじさん‥‥! あたしも‥‥これから頑張るから‥‥!」
綾菜は泣いてしまいそうになったが、どうにかこらえて、ベッドから降りて学校に行く支度をした。
教室に入るとお友達に声をかけられた。
「おはよう、綾菜ちゃん! ん? ランドセルに紐がついてるよ?」
「あ、これは戦国武将がつけていた紐なんだよ! あたし、もっと戦国武将の勉強するんだ」
「ハハ‥‥綾菜ちゃんは相変わらずだね。今度、わたしも教えてもらおうかな」
「うん!」
おじさんの分まで‥‥精いっぱい生きて‥‥
みんなに歴史や平和の大切さを‥‥あたしが伝えるんだ‥‥!
終わり