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第一話~月の影5~

「これが、本当に最善の策なのか?」

再びつぶやいた男性の声が、怯えと絶望の色を帯び、空気を一層重くした。その言葉が、まるでこの場に存在する悪しき力の証明のように響き渡り、わたしたちの心に不安の種を植え付ける。

わたしと翠珠様の心臓は急速に鼓動を速めていた。冷たい風が吹き込む中で、倉庫内の光が不気味に揺れ、影が蠢く様子はますます恐ろしいものに見えた。



男性たちは書物に齧りつくようにして目を通しながらも、その恐怖に飲み込まれたかのようで、次第に動きが不安定になっていった。



「どうする、どうすればいいんだ?」

一人の男性が絶叫するように叫び、その手に握られた書物を振り回した。

「焦るな、まだ間に合うはずだ!」

もう一人の男性が叫び返し、二人は異常な速度でページをめくっていく。その動きはもはや理性を失っており、まるで呪詛の儀式が進行しているかのようだった。


その時、突然倉庫内に冷たい沈黙が訪れ、男性たちの動きがぴたりと止まった。わたしたちも息を呑み、その静けさの中で起こることを見守った。



「これが、全ての始まりだ」

どちらが呟いたのかは分からない。

しかし、その声は震えと恐怖に満ちていた。書物の中に何かを見つけたのか、二人は同時に同じ箇所を指先で指し示す。それが一体何なのか、こちらから見ることはできなかった。




その瞬間、小屋の扉がゆっくりと閉じ始めた。風に揺れる扉の影がまるで生き物のように動き回り、わたしたちの視界を妨げる。心臓が高鳴り、息を呑むわたしと翠珠様は、どうにかしてこの恐怖の場から逃れなければならないと感じていた。


「行きましょう」

翠珠様が小声で囁き、わたしは頷く。わたしたちは音を出さないよう慎重に後退し、小屋から離れた。

わたしたちはその恐怖から逃れ、冷たい風に包まれた中を急いで東屋へ戻り、心の中で何が起こったのかを整理しようとした。


この恐怖の出来事が、どのような意味を持つのか、そしてこれから何が待っているのか、わたしたちはその答えを見つけなければならない。




東屋に戻る途中、わたしと翠珠様は冷たい汗をかきながら、心臓の鼓動を抑えようと必死だった。恐怖から逃げるように歩きながらも、背後で続くかもしれない不安な気配に敏感になっていた。ふと気づけばすでに日が暮れ始めていて、木々の影が長く伸びている。


東屋に到着するやいなや、わたしと翠珠様は小さく息を吐き、しばしその場に立ち止まった。翠珠様は目を閉じて冷静さを取り戻そうとし、わたしも彼女の姿を見守りながら心を落ち着けようと努めた。


「大丈夫ですか、翠珠様?」

わたしが声をかけると、翠珠様は目を開け、力なく微笑んだ。

「えぇ、なんとか……でもあの書物、どうしてあんなものが……」

常に気丈に振る舞う翠珠様だが、その言葉には震えが混じっている。その顔には深い不安と恐怖が色濃く浮かんでいた。


「私たちは一体、何を見てしまったのでしょうか?」

わたしの問いかけに翠珠様からの答えはなく、ただ立ち尽くしていた。あそこで見た光景が、夢の中の出来事のように感じられると同時に、現実の恐怖がさらに深く心に刻まれていた。


東屋の静けさの中で、わたしと翠珠様は考えを巡らせる。恐ろしい図像が描かれた書物、精神が蝕まれたかのような男性たち、そして彼らの言葉。

しかしやはり整理がつかず、頭の中で謎だけがぐるぐると回り続けていた。


「私たちが見たものが、ただの古い書物であって欲しい」

翠珠様が小さく呟いた。その言葉には、自らに言い聞かせるような意味合いが込められているように感じられた。

「ですが、彼らがあんなにも慌てていたということは……」

わたしが続けて言うと、翠珠様は深く息を吸い込み、瞳に決意を宿らせた。


「私たちはもう一度あの倉庫に戻り、詳しく調べる必要があるかもしれないわ」

「ですが、例の書物はきっとあの方たちが……」

「でも何か手がかりが残されているかもしれない。あの建物が元々何に使われていたのかも知りたいわ」

わたしはその言葉に頷き、心の中で決意を固めた。再びあの場所に戻り、恐怖の正体を突き止めるためには、覚悟が必要だった。




そのとき、ふと翠珠様の言葉を思い出す。

椿様へ向けて翠珠様は「心当たりがある」と言っていた。

それは富貴様のご様子についてなのだろうか。それとも、この一連の出来事すべてに?



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