10年後の満月の夜に
10年の月日が流れ、エルドラージュ王国は時の流れと共に変わりゆく世界の中で、静かに繁栄を続けていた。
リリアは王国の中央広場に佇み、満月の夜空を見上げていた。彼女の姿は以前と変わらず美しく、長い髪は銀色の月光に輝いていた。彼女は今や国中の人々に希望と癒しをもたらす音楽家として、多くのファンや弟子たちに囲まれていたが、その心には未だにアレクへの深い愛が残っていた。
広場の一角に設けられた小さなステージでは、リリアが夜空を見上げながら星の鍵を取り出し、静かにその表面を撫でた。時折吹く風が、彼女の長いスカートと髪を軽く揺らす。彼女はゆっくりと息を吸い込み、心の中でアレクの笑顔を思い出した。
「あの時の約束を守り続けてきたわ…」
彼女の心には、アレクと共に過ごした日々が鮮やかに蘇る。あの満月の夜、アレクが彼女に託した最後の言葉や、彼と一緒に吹いたあのメロディーが、今も彼女の心の中で生き続けていた。リリアは自分の使命を果たし、星の鍵のメロディーを広めることで、多くの人々に希望を届けてきたのだった。
広場には、今日の満月を祝うために集まった人々の温かな笑顔が広がっていた。リリアの音楽は、みんなの心に触れる優しい響きを持っていた。彼女はステージの上で、静かにメロディーを奏でる準備を整えた。
「今夜も、アレクがどこかでこのメロディーを聴いてくれるといいな…」
リリアは、星の鍵を持って一歩踏み出し、音楽の準備を始めた。彼女は深い呼吸をし、優雅な指の動きで楽器を奏で始めた。柔らかな音色が広場に広がり、満月の光と共鳴しながら人々の心に温かさをもたらしていった。
演奏が進むにつれて、リリアはある瞬間、ふと心の奥で感じる懐かしい感覚に気付いた。それは、アレクと一緒に吹いたあの時のメロディーの響き。彼の笑顔や声が、満月の光と共に一瞬蘇ってきた。
「アレク…?」
リリアの心には、アレクと過ごした日々の思い出があたたかく広がり、まるで彼がそばにいるかのような錯覚を覚えた。彼女はその感覚に身を委ね、メロディーを奏で続けた。楽器の音色が夜空に溶け込み、優しく広がっていく。
彼女の目に涙が浮かび、満月の光の下で微笑んだ。「ありがとう、アレク。君の想いを、私もちゃんと受け取っているよ。」
リリアの演奏が終わり、広場に集まった人々からの拍手が響いた。その拍手の中には、彼女の音楽が持つ深い感動が込められていた。リリアは目を閉じ、心の中でアレクに手を振りながら、感謝の気持ちを込めて小さな祈りを捧げた。
「アレク、私はまだここでこうしているよ。君のメロディーを大切にしながら、これからも前に進んでいくから…」
夜空に浮かぶ満月が彼女を優しく照らし、その光が彼女の涙を反射して、星のように輝いていた。リリアは心の中で、彼との再会の約束を確かに感じていた。彼女の思いは天に届き、星の鍵のメロディーはこれからも続いていくのだと信じていた。
その夜、リリアは静かに空を見上げながら、アレクと共に過ごした幸せな時の記憶を大切に抱え、未来へと歩みを進めた。満月の夜に響くメロディーは、彼女の心の中で永遠に鳴り響き続けるのだから。
そして、リリアの冒険は新たな一歩を踏み出す。満月の夜に、彼女とアレクのメロディーが再び繋がる、そんな希望を抱いて。