その切っ先に触れて
小さく切り裂かれた指から血が流れる。
それは、あきらかに自分の指から流れ出た自分の血であったけれど、しかしあるいは、そうではないもののようにも見えた。疼くような痛みが指先から脳に伝わり、私は顔をしかめる。しかしこれは反射のようなもので、私自身の心のうちは穏やかに凪いでいた。
どうしてしまったのだろう。
目に映るもの、聞こえるもの、それら感じるものが、ひどく遠くで、自分とは関係のないことのように思えた。
確かに私はここにいる。デカルトの有名な言葉を借りるまでもなく、考える私はここにいた。
しかし、その考えている私は、今まさに体を失っているようだった。自分の体が自分の物ではないような、そんな感覚が私にはあった。
実体を失った私は、果たして、本当にここにいると言えるのだろうか。
ふと目の前の鏡を見る。
いま見えている、鏡の向こう側の私と、考えている私はひどく違うもののように思えた。まるで他人事、他人の顔を見ているようだった。
本当の私はここにいるのに、しかしそれを映すものは何もない。
私は自分の顔を、本当の自分の顔を知りたいと思った。
それと同時に、私は自分の本当の顔がどこにあるのか、分かった気がした。
そこにいたんだ。
私は偽物の顔に笑顔を浮かべる。
そこにきっと私がいるから。そうしたらきっと本当の私と会えるから。
今、すぐに行くから。
待っててね。
そして私は、持っていたプラスドライバーを頭に突き立てた。